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迷いの魔人 Ⅱ

(ぐっ……な……なんなんだ、この痛みは……!?)


全身を猛火に焼かれるかのような激痛が真に襲い掛かってきた。攻撃していたのは真の方だった。アルラヒトは防戦一方だったはず。


(な、何をしてきた……?)


世界がゲーム化してから、これほどの痛みを感じたことはなかった。敵の攻撃力と自身の防御力、HP等から、自身がどれだけの被害を受けたことになるのかを算出して痛みとして伝わってくる。それがワールド・イン・バース リアルオンラインのシステムだ。


レベル100で最強装備をした真に、これだけのダメージを与えられる攻撃力をアルラヒトが持っているとは思えない。


(こいつは何を――!?)


真が考察する時間を目の前の敵が与えてくれるわけがなく、アルラヒトは何もない空間からレイピアを出現させた。


「次はこちらの番ですよ!」


アルラヒトは手にしたレイピアをすぐさま真に向けて突き出してきた。無駄のない綺麗な動きだ。鋭く尖ったレイピアの先端が、迷いなく真の心臓目掛けて飛んでくる。


「うっ……」


真は咄嗟に体を捻って回避を試みるが、膝を付いた体勢から無理に体を捻ったところで、アルラヒトの攻撃を完全に回避することはできない。心臓への直撃は免れたが、肩口にレイピアが突き刺さった。


アルラヒトはすぐにレイピアを引き抜くと二撃目を放ってきた。崩れた体勢の真にこれを回避することはできない。腕を盾にすることで何とか体に刃が刺さることを免れる。


だが、それでアルラヒトの手が止まるわけではない。すぐに次の刺突を放ってくる。


<アローランページ>


そこに翼の矢が飛んできた。何本もの矢が一斉にアルラヒト目掛けて飛来する。


<ブレイズランス>


<スペルバレット>


少し遅れて彩音のブレイズランスと華凛のスペルバレットがアルラヒトを標的に飛んできた。


収束する炎の槍ブレイズランスと無属性の魔法の弾丸スペルバレット。真に集中していたアルラヒトに対しては不意打ちとなった攻撃なのだが、アルラヒトは後退することでこれらの攻撃から逃れた。やはりと言うべきか、周りへの警戒は怠っていなかったようだ。


「真、どうしたの!?」


フラフラと立ち上がる真には美月が駆け寄って回復スキルをかける。真がこれほどまでにダメージを受けているところは美月も初めて見る。


「あいつ……俺の攻撃を反射しやがった……」


真の出した結論は自身の攻撃をそのまま跳ね返されたということ。


「反射……!?」


「ああ……。俺が強烈な痛みを感じたのはルインブレードを放った直後だ。その時、あいつは鏡の盾を出していた。すでにスキルが発動していて、止めることができなかった……。その後に食らったレイピアの攻撃は軽い痛みしかなかった」


「鏡が真の攻撃も反射した……」


美月は大まかだが仕組みを理解した。現実の鏡は光を反射するだけだ。物質的な斬撃を反射することなどありえない。だが、ここはゲームの世界。反射するという鏡の性質をゲームとして具現化したことで、真の攻撃も反射したということだろう。


「そういうことだ……。アルラヒトは狙ってたんだ……俺が強力な攻撃を仕掛けるタイミングを……」


真は再び大剣を構えなおしてアルラヒトに集中する。距離が開いたことで、アルラヒトも真達の方を注視し、出方を伺っていた。


「真、どうやって仕掛ける? あんたの攻撃が反射されるんじゃ、下手に攻撃できないでしょ?」


翼が心配して声をかけてきた。アルラヒトの戦闘能力が真よりも格段に低いことは分かっているのだが、どうやら相性が悪いようだ。攻撃に特化したベルセルクは反面防御に難点がある。


「攻略法はある。多分だけど、鏡の盾は連発することができないはずだ。それができるなら、もっと早い段階で使ってるし、もっと多用してくるからな」


アルラヒトがこちらの様子を見ているのには訳がある。真の推測では鏡の盾は奥の手だった。強力なスキルは再度使用するまでに長い時間がかかるというのがこの世界の仕様だ。だったら、敵の攻撃を反射するという強力なスキルは長いインターバルが必要になる。アルラヒトは距離を取って時間を稼いでいると見ていいだろう。


「皆は今まで通りに攻撃をしてくれ。アルラヒトは俺以外の攻撃を反射してこようとはしないはずだ」


鏡の盾が貴重な一手だとしてら、それを使うタイミングは最大級の攻撃が来る時。それは真の攻撃に他ならない。だから、アルラヒトが翼や彩音、華凛の攻撃を狙って反射してくるとは考えにくかった。


「分かりました。それなら遠慮なくやらせてもらいます」


彩音が力強く返事をした。真は攻略方法を思いついている。それなら真の言うことを信じればいいだけだ。他の3人もしっかりと頷き、アルラヒトへと目線を向けた。


「行くぞ!」


まだ動こうとしないアルラヒトに向かって真が走りだした。鏡の盾をもう一度使えるようになるまでの時間稼ぎをしているのは明白だ。幾分その時間を与えてしまったことは痛手だが、動きを見せなかったということは、まだ鏡の盾は使えないのだろう。


(問題は再使用までの時間がどれだけかっていうことなんだけどな……)


真が攻撃を仕掛けている最中に、アルラヒトが鏡の盾を再度使えるようになる可能性は大いにあった。運悪く大技を出すところで使われたら非常に危ない。


<レイジングストライク>


アルラヒトを射程範囲内に入れた真が大きく跳躍した。まるで猛禽類が獲物に襲い掛かるような猛襲を仕掛ける。


レイジングストライクは威力の高い方のスキルなのだが、まだ鏡の盾は使えないと踏んで、真は一気に距離を詰めることを選択した。


対するアルラヒトは手を前に掲げ、鉄の盾を出現させた。真の読み通り、別の手段で対応してきた。


ガンッ!


アルラヒトの鉄の盾と真の大剣がぶつかり合うと、真の攻撃は一撃で鉄の盾を粉砕。


それはアルラヒトにとっても想定していたこと。鉄の盾は捨て駒に過ぎない。アルラヒトは真から距離を離れるためにすでに後退していた。


だが、真は逃がすつもりはない。すぐに前に詰めて、アルラヒトを剣の間合いに入れる。


<スラッシュ>


真が踏み込みからの袈裟斬りを放つ。アルラヒトはこれをさらに後退することで回避する。


<イーグルショット>


そこに翼の矢が高速で飛来してくる。アルラヒトは翼の攻撃に対して鏡の盾どころか、鉄の盾も出してはこない。できれば、翼の攻撃で無駄に盾を使わせたいところだが、使ってこないのであれば、それはそれで遠慮なく攻撃ができるというもの。


翼に続けとばかりに彩音も華凛もアルラヒトに向けて攻撃魔法スキルを連発していく。アルラヒトは後退することでこれらの攻撃を回避するのみ。


<フラッシュブレード>


真が逃げてばかりのアルラヒトに向けて横薙ぎに一閃。光が瞬くような鋭い攻撃だが、アルラヒトは大きく後ろに下がって回避する。


戦闘の場所となっているのは大きな広間だ。激しく動き回るのにも十分な広さがある。とはいえ、その広さも有限。


ずっと、後退し続けていたアルラヒトはとうとう壁際まで追い詰められてしまった。


<ヘルブレイ――


真は大剣を下段に構えたところでスキルを止めた。


それに対してアルラヒトは両手を突き出していた。鏡の盾を出した時に取った動きだ。だが、アルラヒトは寸でのところで鏡の盾を出すことはしなかった。真のフェイントに気が付いたからだ。


<グリムリーパー>


下段から掬い上げるようにして真が斬撃を放った。円を描く剣はまるで死神の鎌のような軌跡を辿る。ヘルブレイバーを使うために下段に構えていたところから、フェイントを交えて、同じ下段始動のグリムリーパーに切り替えた。


「ぐァっ!?」


反射狙いのアルラヒトはフェイントによって、タイミングをずらされ、グリムリーパーの直撃を受けてしまう。


<スラッシュ>


ここぞとばかりに真が踏み込んでアルラヒトを袈裟斬りにした。壁際まで追い詰められたアルラヒトにはもう逃げ場はない。アルラヒトはスラッシュもまともに受けてしまった。


<パワースラス――


真が大剣を引き、突きの構えを見せたところで、アルラヒトは両手を突き出していた。そして、そのまま、鏡の盾が出現してしまう。


<スラッシュアロー>


そこに翼の矢が飛んできた。スラッシュアローはスナイパーの基本スキルで、連続攻撃スキルの起点となるスキルだが、その分威力は低い。


「痛ッ!」


アルラヒトが出した鏡の盾が割れた直後、真の後方から翼の声が聞こえてきた。それが意味するところははっきりとしている。アルラヒトが翼の攻撃を反射してしまったのだ。


真がアルラヒトに鋭い目線を突き付ける。アルラヒトも真の方を見ていた。お互いの目線が交差したのは一瞬のことだった。だが、この一瞬の間に戦闘の駆け引きが行われる。


<ソードディストラクション>


真は跳躍すると、体ごと一回転させるようにして大剣を斜めに振るった。そこから解放されるたのは破壊の衝動をそのまま形にしたかのうような激しい衝撃。


後ろに逃げることができないアルラヒトは何とか横に回避しようと試みるが、ソードディストラクションは範囲攻撃スキル。その効果範囲から逃げるにはアルラヒトの行動は遅かった。


「ぐあぁッーーッ!!!」


真が使える範囲攻撃スキルの中で最強の攻撃力を誇るソードディストラクションを受けて、アルラヒトは悶絶する。


真は追撃のソニックブレードを放とうとしたが、スキルが発動しなかった。ということは、これで戦闘は終わりということだ。ゲーム化した世界では勝負が着けば、もう攻撃を加えることはできなくなる。


アルラヒトはもう立っていることができず、膝と手が床についていた。


「なぁ、お前。そもそも戦闘向きじゃないだろ?」


大剣をしまい、真がアルラヒトに向けて声をかけた。


「ええ……まぁ……迷いの魔人……ですから……。勝てないことは……最初から……分かっていた……ことです……」


「だったら、なんでここで待ってたんだ?」


ゲームだから。真の中で答えは分かっていたことなのだが、アルラヒトがどう答えるのか聞いてみたかった。


「言いましたでしょう……。私は……迷いの魔人……だと……。迷わせる……目的は……なんだと思います……か?」


「迷わせる目的って……無駄に時間を消費させられて……ああ、なるほどな」


「そういうこと……です……。ここまで……来れる……客人を……私が倒せるわけが……ないのです……。ただ……少しでも時間を稼げればいい……それだけ……です……よ……」


そこでアルラヒトの声は終わり、体から白い靄が出てきた。敵を倒した時に何かしらのアイテムをドロップした場合は、その体から白い靄が立ち込め、その白い靄に手をかざすとアイテムを入手することができる。逆に言えば、確実に敵を倒したという証拠でもある。


(少しでも時間を稼ぎたかったか……。それならこいつの戦い方も分かるな……)


アルラヒトは攻撃を反射するという強力なスキルを持っていた。だが、逆に言えばそれだけ。反射以外の攻撃で脅威になるものは何一つしてこなかった。レイピアによる刺突も、真にはまるで通用しなかった。おそらく、反射以外に決定打になる攻撃を持っていなかったのだろう。


だからこそ、アルラヒトは積極的に攻撃してこなかったのだ。攻撃を反射することをチラつかせて、真に攻撃を躊躇わせる。そうすることによって余計な時間を使わせることができる。逃げてばかりいたのも時間を稼ぐためだ。


(こいつなりに理由があったってことか……)


そういうことなら、勝てない相手に対して戦うことを選択したアルラヒトの行動は、ゲームだからという理屈を超えて合理性があると真には思えた。


そんなことを思いながらも真はアルラヒトの遺体に手を翳した。


『デーモン ルビー ネックレス』


『デーモン アクアマリン イアリング』


ドロップしたのは、レジェンドグレードのアクセサリー二つ。物理攻撃力が上がる『デーモン ルビー ネックレス』と回復スキルの効果が上がる『デーモン アクアマリン イアリング』だった。



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