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混戦状態 Ⅰ

        1



異界の魔人が出現し始めてから約15時間ほど経過した頃。紫紺色に染まった空は深夜の闇をも浸食するかのように、不気味な色で王都を包み込んでいた。


ゲーム化した世界の特徴として、夜になっても完全に暗闇に包まれることなく、一定レベルの視界は保たれている。そのせいもあって、夜になっても紫紺色に染まった空の色が王都を染めているのである。


「紫藤さん! 新手の増援です! 王都城門の魔人どもを突破できません!」


王都にあるカフェ『トランクイル』に一人のアサシンの男が駆け込んできた。必死の形相で息も絶え絶え。疲れも色濃く見えている。


「どうしますか紫藤さん? これ以上出せる人員はないですよ?」


同じような内容の報告は四六時中入ってきている。その都度対応しているのだが、もうギリギリの状態。そのことに軽い頭痛を覚えながらも、悟が目の前に座っている総志に問いかけた。


現在、魔人討伐の本部となっているカフェ『トランクイル』に居るのは、『ライオンハート』のマスター紫藤総志と『王龍』のサブマスター刈谷悟。他は両ギルドの同盟の幹部が数人だ。時也の姿も姫子の姿もここにはない。


昨日の正午、突然のバージョンアップにより、異界から魔人が召喚された。これに対して最大手ギルドの『ライオンハート』と第二位の規模を持つギルド『王龍』の同盟が魔人討伐にあたっていた。


当初はそれほど数は多くなかったのだが、時間が進むにつれて加速度的に魔人の数が増えていった。しかも、出現場所は神出鬼没。王都内のどこからでも現れて人を襲う。


そのため、数で有利だった『ライオンハート』と『王龍』の同盟も徐々に戦力が拮抗し始め、とうとう五分の状態にまで持ってこられた。


そこで取られた作戦は、王都から脱出するというもの。魔人が現れた当初から王都の外に避難するという案はあったのだが、混乱する人々を纏めることに難航し、さらには王都の外の様子が不鮮明であったため、準備は遅々として進まなかった。


そんな状態だったが、増え続ける魔人の群れに対して、城壁で囲まれた王都の中にいるよりかは安全だろうと判断され、準備不足だとしても王都の外に出るという作戦を断行することとなった。


だが、問題があった。こちらの作戦を見越していたかのように、魔人の大群が王都の入口である城門前に集結していたのである。


『ライオンハート』と『王龍』の全戦力を城門へと終結させようにも、王都中で暴れ回る魔人の対応も必要であり、戦う能力の低い者の誘導もしないといけない。確実に安全と言える場所がないため、誘導先はその場その場で変わっていく。このことが、余計に現場を混乱に陥れ、疲労の蓄積は冷静な判断能力を削いでいく。


結局、総力戦で城門にいる魔人の大群に挑むことができず、今、新たな魔人の増援によってさらに苦境に立たされたという状況だ。


「俺が行く。刈谷さん、赤峰さんを呼び戻してくれ。こっちは葉霧を呼び戻す」


少し考えてから総志が指示を出した。統率力、判断能力、状況把握能力等、本部で指揮を取れる人材で一番適しているのは総志なのだが、同時に戦力としても一級品。激戦区となっている城門での戦いが厳しくなっている以上は、現状で出せる最大戦力の総志が行くしかない。


「聞いてましたか? 悪いけど、すぐに姫を呼び戻してほしい」


すぐさま悟が待機している『王龍』の幹部に指示を飛ばした。


「分かりました!」


『トランクイル』に待機している『王龍』の幹部の一人が即座に反応し、急いで姫子を呼び戻しに外へと駆け出していく。


「こちらも、葉霧さんを呼び戻してきます!」


そう言ったのは、先ほど『トランクイル』に入ってきたアサシンの男だった。


時也も姫子もどこにいるのかは周知されている。それは、魔人の集結する城門ではなく、各地で出没する魔人の討伐だった。城門に主戦力を集めていることで、脇が甘くなっていた。それを埋めるために、時也と姫子が向かったというわけだ。


「俺は先に行ってるから、刈谷さんは、葉霧と赤峰さんの二人に本部の引継ぎをした後、城門の戦線に加わってくれ」


「了解しました!」


総志は悟の返事を聞くまでもなく、『トランクイル』を出て王都の城門へと向かって走り出した。



        2



夜明けまであと数時間といったところ。賑わい豊かな王都でも普段は寝静まっている時間だ。だが、今は怒号と悲鳴が飛び交い、魔法の爆発音や魔人の金切り声が響く。


そんな中を総志は脇目も振れずに走る。向かう先は王都の城門。途中で、魔人と戦いっている『ライオンハート』の部隊が目に入るが、止まることなく城門へと向かって走る。


総志の目線の先には高い高い城門が見えてきた。威風堂々とした佇まいの王都グランエンドの入口だ。ここを越えることができれば外に逃げることができる。


それを阻むのは魔人の大群。


対するは『ライオンハート』と『王龍』の同盟に加えて、腕に覚えのある他の同盟及びギルド、その他無所属の連合。


「くそ! 全然減ってねえじゃねえか!!!」

「応援はまだか!? もう持たないぞ!」

「一人やられた! ヒーラーをよこしてくれ!」


しかし、状況は総志が思っていた以上に良くない。ゲーム化によって肉体的な体力は増強されているが、睡眠もとらずに戦い続けていることで疲労が出ている。数はまだ『ライオンハート』『王龍』その他の連合の方が多いが、前線は膠着した状態になっていた。


「誰かこっちに来てくれ! 頼む、こっちに来てくれ!」


最前線で敵の攻撃を受けているパラディンの男が叫んだ。だが、誰もその声に反応する者はいない。皆、自分の持ち場で手一杯だ。他を助ける余裕など微塵もない。


「もうダメだ! 誰でもいい! 応援に来てくれ!」


叫び続けるパラディンの男。必死になって盾を構えて、魔人の攻撃に耐えている。


「頼む、誰か――」


<ソニックブレード>


何度目かになるパラディンの男の叫び声。それを遮ったのは空気を切り裂く甲高い音だった。


「キョエェェィィーーー!!!」


見えない刃に切り裂かれた一体の魔人が奇怪な声を上げて倒れた。


「ッ!?」


パラディンの男は何が起こったのか理解できずに、咄嗟に振り返ると――


<レイジングストライク>


見えたものは黒い猛獣だった。獲物に襲い掛かる獰猛な黒い獣――に見えたが、すぐにそれが間違いだと気が付く。それは漆黒の軽装鎧を身にまとったベルセルクだった。


「し、紫藤さんッ!!!」


パラディンの男が歓喜の声を上げる。紫藤総志が魔人に向かって飛び込んできたのだ。恐れることなく、ひるむこともなく、百獣の王のように堂々と、力で押し潰さんと魔人に斬りかかってきたのだ。


「紫藤!? 『ライオンハート』の紫藤総志だ!」

「紫藤さん!? 紫藤さんが来てくれたの!?」


総志が来たことは瞬く間に戦場に伝わっていく。


「よく頑張ってくれた! ここからが正念場だ、死ぬ気で俺に付いて来い!」


総志が声高らかに剣を掲げる。俺はここに居るぞと主張するように、まるで大剣を空に突き刺すかのごとく高く上げた。


「おおおおおーーーーーーー!!!」


総志が来たことによって、戦場の士気は一気に高まった。不安も焦燥感も恐怖も総志が蹴散らしてくれる。そういった空気が弾けるように伝播していく。


「来い! 化け物ども! 叩き潰してやる!」


総志は魔人に大剣の切っ先を向けて挑発する。


「イギャアァァァー!!!」


すると魔人達は怪鳥のような声を上げて総志に向かってきた。くねくねとした奇怪な動きだが、異様に早い。


<スラッシュ>


真っ先に向かってきた一体の魔人に向かて総志がカウンターの一撃を入れる。


<シャープストライク>


止まることなく総志は素早い二連撃を叩き込んだ。


「キェェェエエエエエーーーー」


魔人は意味不明な声を上げ、総志に向かって拳を振り下ろしてくる。


それを総志は冷静に避けると同時、魔人の前に幾何学模様の魔方陣が現れた。


<ルインブレード>


総志は出現した魔法陣ごと大剣で魔人を斬りつける。ルインブレードはベルセルクの連続攻撃スキルの3段目。高い攻撃力だけでなく、敵の防御力を下げる効果がある優秀なスキルだ。


「紫藤さんに続けー!」


叫んだのは『ライオンハート』所属のダークナイト。その声に連鎖するようにして、前線が魔人の群れにぶつかっていく。


「私達も負けてられないわよ! 全力で魔法を叩き込んで!」


後方から『王龍』所属のソーサラーが声を張り上げた。『王龍』所属のソーサラーとサマナーの混合部隊が魔人の群れに向けて範囲攻撃スキルを放っていく。


「生き残った魔人を確実に仕留めろ! それが俺達の役割だ!」


同盟のアサシン部隊も気合を入れて前線に突っ込んだ。それを掩護するようにスナイパーの部隊もとめどなく矢を射っていく。


総志も最前線で必死に大剣を振る。斬っても斬っても現れる魔人に対して、一歩も引くことなく、気圧されることもなく、邪魔者は全て排除すると言わんばかりに魔人達を斬り刻む。


(あいつなら……蒼井なら……この大群相手に一人で突破するんだろうな)


総志は戦いながらそんなことを考えていた。驕るつもりなど微塵もないが、総志は自分より強い奴がいるとは思ってもいなかった。しかも、ただ強いだけではない。段違いという表現ですら過小評価なくらいに、圧倒的な差がある。


もし、真がこの場にいたのなら。魔人どもをどんな風に蹂躙していくのか。それを想像するだけで総志は笑みがこぼれた。








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