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混乱の中 Ⅰ

『ライオンハート』第二部隊所属の高木とその班11名に加え、坂下と篠原が真達を王城へと連れて行くために、カフェ『トランクイル』を出発した。


合計19名になるチームだ。小回りが利くような人数ではないが、混乱した人たちを押さえるためにはどうしても人数が必要になる。


「さっきより騒がしくなってないか?」


王城へと走る真が誰となしに呟いた。紫紺色に染まった空の下、悲鳴や怒声の他、奇声のような金切り声まで混じっている。


「どうも、魔人の数が増えているみたいだ。詳細までは分からないが、『王龍』のメンバーがそんなことを口にしていたのを聞いた」


先頭を走る高木が振り返らずに答える。高木も真を探していた一人だが、『トランクイル』に戻ってきた時に『王龍』の魔人討伐隊が話をしていたことが耳に入ってきていた。


「異界の扉からどんどん沸いて出てるってことか……」


「おそらく、そうだと思います」


並走している篠原が真に同意する。


「それじゃあ、これからもっと魔人が――」


華凛がそんな不安を漏らした時だった。ドーンッ! という爆発音が建物を挟んだ向こう側から聞こえてきた。


「あの音って……」


美月が爆発音のした方へ向く。空気を揺らす低い爆発音。この音は美月だけでなく、ここにいる全員が聞いたことのある音だった。


「ソーサラーかサマナーのスキルですね。フレイムバーストかフレアボムといったところでしょうか?」


彩音が音の分析をする。ソーサラーの炎属性のスキルは爆発するものが多い。同時にサマナーが召喚するサラマンダーも爆発を起こすスキルを持っている。そのどちらかだろう。


「向こうは商業区だったか。『ライオンハート』の第一部隊が到着したみたいだな」


真がつい先ほどのことを思い出していた。商業区に魔人が数多く出現したという情報がもたらされ、『ライオンハート』の第一部隊がその対処に向かった。そして、今まさに戦闘が始まったのだろう。


「これで一安心……っていうわけにはいかないわよね?」


翼としては目の前で襲われている人を助けに行きたいという気持ちがある。だが、それ以上にやらないといけないことがあるため、どうしても優先順位を付けなければならない。仕方がないとは分かっていても、気持ちにはしこりが残ってしまう。


「『ライオンハート』と『王龍』が動いてるんだ。街の魔人は任せておいて大丈夫だろ」


何となくだが翼の気持ちを察して真が言う。何も言っていないが、おそらく美月も救助に行きたいと思っているのではないかと推測する。


「ええ、街の魔人のことは僕達に任せておいてください。確かに『一安心』とは言えませんが、できる限りのことはします」


坂下が力強く答える。他の『ライオンハート』のメンバーも頷いている。『ライオンハート』の第二部隊は精鋭部隊ではないが、今までミッションにも参加してきている部隊だ。その下に属する第三部隊も実力でいば、並みのレベルではない。


「あの、すみません……。私は別に『ライオンハート』の皆さんを信用していないわけではないのですが……」


翼は自分の言った不用意な一言に後悔していた。『ライオンハート』だけでなく『王龍』とその同盟も一生懸命に戦っているのだ。不安は皆にあるだろう。そのことをつい口走ってしまった自分の迂闊さを反省する。


「大丈夫ですよ。蒼井さんに比べたら力不足ですが、私達はその分、人数で勝負できます。広い王都でも同盟が力を合わせればカバーすることができます。ですから、『フォーチュンキャット』の皆さんは、異界の扉を閉じることに集中してください」


篠原が気にしなくていいと言う。翼に悪気がないことは全員分かっていることだし、心配するのももっともなことだ。


「……分かりました」


翼はそう言うと、目の前のことに集中するため意識を切り替える。そんな時だった、先頭の高木が声を上げた。


「止まれ」


高木は右手を横に出して静止の合図を送る。後続も急に止まれと言われて、つんのめるのも、高木の指示に従い足を止める。


高木が止まれと言った意味は、すぐに理解できた。


「キャアアアァァァァァァーーーーーー!!!」

「うわああああああああーーーーー!!」


前方から人の波が押し寄せてきたからだ。慌てふためいて逃げてくる人の波。その波が道の先からやってきている。


「魔人か!?」


真が声を上げた。人々が理性を失ったかのように走ってくる理由は言われなくても分かった。魔人から逃げて来たということだ。


「だろうな――各員、逃げて来た人の誘導! 蒼井が通れる道を作れ!」


「「「はい!」」」


高木の号令に第二部隊の班員がすぐに応え、動き出す。


「我々は『ライオンハート』です! 皆さん落ち着いてください! 『ライオンハート』の誘導に従ってください!」


「魔人を討伐に来ました。我々は『ライオンハート』です! 魔人を討伐に来ました! 道をあけてください!」


喉が張り裂けそうなほどの声を上げて、『ライオンハート』の第二部隊高木班のメンバーが混乱した人々を誘導しようとする。


だが、冷静さを失った群衆をそう簡単にコントロールすることできない。誘導に従う素振りを見せる者もいるが、そもそも声が届いていない者も多いし、聞こえていたとしても、従わない者も多い。


「大丈夫です! 我々は『ライオンハート』は魔人を倒せます!」


「皆さん、落ち着いてください! 我々『ライオンハート』の指示に従ってください!」


それでも、高木班のメンバーは声を張り上げる。これほどの規模の混乱を治めた経験はないが、ゴ・ダ砂漠では似たようなことを経験している。


声を張り上げる第二部隊の高木班に混ざって、坂下と篠原も声を上げる。逃げ惑う人々とぶつかりながらも、懸命に誘導し、時には力づくで無理矢理人をどけると、僅かだが道が開けた。


その先に見えたものは――


「蒼井さん、行ってください!」


坂下がはち切れんばかりの声で真に言う。


「ああ!」


真の目線の先には、蠢くように人々に迫る魔人が5体。揺れるような動きが不気味だが、決して緩慢なものではない。転倒して逃げ遅れた男に魔人が襲いかかると、グロテスクな口を左右に開いて、男性の頭を貪うろうとする。


「ひいいいぃぃぃぃ!!!」


魔人に襲われた男性の口からは絶望が吐き出された。何も考えれない。ただ恐怖が頭の中を暴れ回る。


<レイジングストライク>


空から獲物に襲い掛かる猛禽類の様に、真が魔人へと強襲をかけた。レイジングストライクはベルセルクが使えるスキルで、離れた距離からでも一気に飛びかかれるスキルだ。


狙いは逃げ遅れた人を襲っている魔人。その一撃で、魔人のターゲットは真へと向いた。MMORPGで採用されていることが多いヘイトというシステム。敵にとって最も危険と判断されたプレイヤーが狙われるというシステムだ。MMORPG『World in birth Online』を元にしている、この世界でもヘイトという概念が存在する。


この場で魔人が一番危険であると判断したのは、大ダメージを与えてきた真ということになる。


「うあぁぁぁぁぁ!!!」


襲われていた男性は間一髪。真が攻撃を加えたことで、その狂牙から逃れることができ、這う這うの体で逃げだしていった。


「キョエエエエエーーーーー!!!」


魔人が意味不明な雄叫びを上げると、5体の魔人が一斉に真へと向かって飛びかかってきた。


<ソードディストラクション>


魔人の動きに合わせて真が跳躍すると、身体ごと一回転させて斜めに大剣を振り切った。


その刹那、激しい衝撃が爆ぜた。破壊というものをそのまま具現化したような衝撃は空間ごと震撼させる。


ソードディストラクションはベルセルクが使える範囲攻撃スキルの中では最強の威力を誇る。さらに加えて、敵をスタンさせる効果まである破格のスキルだ。その代わり、再度使用するまでの時間が長いという制約もあるのだが、それを差し引いても優秀なスキルと言える。


「ギギィェ……」


レベル100の最強装備をしている真が、最強の範囲攻撃を放った。当然のことながら、5体いた魔人たちはこの一撃で全て撃沈される。


「――ッ!?」


逃げていく人々をよそに、坂下や篠原、高木達は目を丸くしてその光景を見ていた。


真が放ったスキルの余波が高木達を貫いており、逃げ惑う人々を余計に混乱させて、勢いを加速させてしまったのだが、それを抑えるどころの話ではない。


「もう大丈夫――ん?」


真が戦果を報告するため、振り返ると、呆然としている『ライオンハート』の顔が目に入った。


「あッ……。お、お疲れ様です……」


何とか声を出したのは坂下だった。その声に連鎖するようにして、他の『ライオンハート』のメンバーも動き出す。


「いや、すまない……。分かっていたことだが、久々に蒼井の強さを目の当たりにして、言葉が出なかった」


高木が真の戦いを目にするのはこれで二回目。ゼンヴェルド氷洞での戦いは、高木自身も必死で戦っていたため、真の戦闘をしっかりと見ている余裕はなかった。それは、他のメンバーも同じこと。真が非常に強い力を持っているということは知っていても、具体的な強さまでは把握していない。だから、一撃で5体の魔人を倒したことに驚愕する他なかった。


「あ、あの……先を急ぎましょう。時間制限もあることですし」


そう声をかけてきたのは篠原だった。魔人から逃げて来た人々は、既にどこかに行ってしまった。当の魔人も真が一掃した。残っているのは、紫紺色の空に染まった不気味な街の景色だけ。ここに長居している意味はない。


「そうだったな。先を急ぐぞ!」


高木の号令で再び真達は王城へと向けて走り出した。






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