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アルター真教 Ⅳ

「ぐはッ……!?」


吐血と共にシャファルが膝を付く。真の放ったソードディストラクションの衝撃をまともに喰らい、立っていることができなくなっていた。


いかにアルター真教の秘術で異形の怪物になったとしても、それを上回る攻撃を受ければひとたまりもない。


「シャファルッ!?」


同じくソードディストラクションの直撃を受けたアルマドだが、元の強靭さ故か、辛うじて立っていることができた。


「アル……マ……ド……」


シャファルが喉から声を振り絞る。だが、もう虫の息だ。秘術によって変化した身体がどんどん人間の姿へと戻って行く。


アルター真教の秘術を使ったことによる反動。人間以外の怪物にその身を変えたことによる代償を払う時が来たのだ。アルター真教の秘術を使えば、遅かれ早かれ、その身は崩壊する。戦いによって負ったダメージによりそれが早くなっていた。


「舐めていたわけではないが……。貴様、この戦いで得ることができたようだな……。素直に称賛する」


アルマドが静かに構えを取った。殺気だっていた目はいつしか凪ぎのように穏やかに、目の前の敵を見据えている。


その目に真は今まで以上の緊張を覚えていた。邪念を捨てて、機械のように殺しに来る。不純物など一切ない透明な殺意。ただ、相手を殺すことだけに傾倒した目だ。


「…………」


真も大剣を構えてアルマドと目を合わせる。今までにないほどに敵の動きに意識を集中させていたことでの疲労が大きいが、ここが踏ん張りどころ。


余計なことは考えず、ただ敵だけを見る。シャファルを倒した時の感覚は覚えている。それを忘れないためにも、もう一度同じことをしないといけない。この体に、この頭に、この感覚を染み込ませないといけない。


緊迫した空気が流れる。美月達やサリカもただならぬ空気の中動けずにいた。じっと息をのんで真の動きを見守るしかない。


「スゥ……」


静かに息を吐く音が聞こえてきた。それは真からなのか、アルマドからなのか分からない。ただ、張り詰めた空気を切り裂いたのはそんな些細な音だった。


ダンッ!!!


無挙動からの突進。床を蹴る音と共に、アルマドが静から動へと急激な変化を加えて真へと拳を突き立ててきた。


<スラッシュ>


迫りくるアルマドの巨体に向けて真が踏み込んだ。棘のある硬い外皮に覆われたアルマドの拳と真の袈裟斬りが交差する。


斜めに振り下ろした大剣と同時に真が頭を下げた。直後、一瞬前まで真の頭があった場所を巨大な拳が通り過ぎる。


<フラッシュブレード>


真は動きを止めることなく、追撃の一撃を真横に一閃する。


「フンッ!」


それをアルマドは両腕を盾にするようにクロスさせて、しっかりと防ぐ。アルマドの持つ攻撃を無効化するガードスキルの効果だ。スキルが発動すれば、真の攻撃はダメージを与えることはできない。


「まだ終わってはおらんぞッ!!!」


絶叫にも似たアルマドの声が、サーラム寺院の地下に響くと、眼下にいる真目がけて拳を振り下ろしてきた。


「うおおおおおーー!!!」


<ヘルブレイバー>


真はアルマドの拳を見ていなかった。それでも、分かる。どこに拳が飛んでくるのか、見なくても感覚で分かっていた。


下段から突き上げた真の大剣はそのまま体ごと飛んで、敵を斬り上げる。そのすぐ脇をアルマドの拳が通過した。僅かにアルマドの棘が真の身体を掠る。


真の攻撃はそこで止まった。連続攻撃スキルの4段目が発動しなかったからだ。


「はぁ……はぁ……」


真は息をすることすら忘れていた。気が付いた時には酸素を求めて、肩で息をしていた。集中していた意識が途切れると、汗が滝のように溢れてくるのが分かった。


「見事だ……。最後にこれほどの敵と戦えたこと……神に……感謝せねば……な……」


そう言うと、アルマドの身体は崩壊を始めた。受けたダメージにより、秘術を維持することができなくなったのだ。


「俺に戦い方を教えてくれたのは、お前とシャファルだ……」


膝を付き、今にも倒れそうになっているアルマドに真が声をかける。倒さないといけない敵なのだが、真は複雑な思いでいた。倒さなければ、殺されていたのは自分たちだった。だが、敵意を向けることができない。


「ふっ……。あの戦いの最中……、得ることができたのは……お前だ……。お前は……戦いの……申し子……。本物の……ベルセルク……」


アルマドはその言葉を最後に息を引き取った。最後まで倒れることはなく、武人としての自分を貫き通した。


(感謝するよ……。俺だけでは、この戦い方に辿り着くことはできなかった……)


真は心の中でそう呟き、静かに振り返った。そこには美月達が近づいてきていた。


「さすがです、アオイマコト殿。先の一戦、私の目から見ても技量で劣っているとは決して思いません!」


サリカが真の勝利を称える。アルター真教の上僧を二人同時に相手にして勝利を収めたのだ。正教のサリカからすれば、それはとんでもないことだった。


「買い被り過ぎだ……。技量で負けてたのは事実だ。途中から巻き返せただけだ……」


謙遜でもなく、韜晦しているわけでもなく、真は素直に答えた。敵の方が戦闘技術が上であるということは真自身がその身で痛感している。


「それに……。皆のサポートがあったからな……」


真が攻撃を当てやすいように、仲間たちが敵の動きを制限してくれたから、シャファルに攻撃を与えることができ、その後にアルマドも巻き込んでの範囲攻撃スキルを喰らわせることに成功した。


「大したことはしてないわよ……。結局のところ真頼りなわけだし……」


いつになく謙虚に翼が応える。何か思う所があるのか、弓を握りしめている。真からすれば、翼がサポートが助かったのは事実だ。率先して攻撃もしてくれた。それでも、まだ自分の力不足を感じているのだろうか。翼の表情はどこか曇っていた。


「それでもさ、協力して勝ったの事実じゃない。『ライオンハート』の精鋭部隊と比べても、私達の方が上なんじゃない?」


翼とは反対に、真に褒められたことで、気分が高揚している華凛がそんなことを言い出す。


「さすがに、『ライオンハート』さんの精鋭部隊と比べると……」


彩音が苦笑しながら答える。『ライオンハート』の精鋭部隊でよく知っているのはエンハンサーの和泉椿姫とアサシンの七瀬咲良。この二人は彩音とも年が近いながら、その戦闘能力の高さで、最大手ギルド『ライオンハート』の精鋭部隊に所属している。


「椿姫さんだったら、真の隣で攻撃を避けながら支援スキル使ってるよね……」


複雑な気持ちで美月も答える。エンハンサーは自身を中心として効果を発現させる支援スキルを持っている。エンハンサーが近くに居ないと、仲間にその支援スキルの効果が届かないというものだ。そのため、椿姫は最前線で敵の攻撃を避けながら、支援スキルで援護をし、さらに敵に攻撃も加える。基本的に離れた場所で戦っている美月には真似のできない芸当だ。


「そうですよね……。咲良さんだって、気が付かないうちに、敵の背後に回ってるし……。やっぱり凄いですよね……」


実力が付いたからこそ分かる、『ライオンハート』の精鋭部隊の凄さ。彩音は咲良の戦いを思い出し、自分との差を実感する。


アサシンの特徴として、敵の死角から致命の一撃を突き刺す。それを難なくこなす咲良は、まさに暗殺者を体現していると言ってもいいだろう。


「私は、その『ライオンハート』というギルドは存じていませんが、皆さんの実力は決して低いものではありません。私達アルター正教の中でも高い評価を受けると思います」


「サリカさんにそう言ってもらえると、確かに嬉しんですが……。『ライオンハート』の実力を知っているとですね……」


美月が苦笑いで返す。サリカはお世辞を言っているわけではないと思うが、やはり、椿姫や咲良の実力より、美月達の方が一歩劣っていると言わざるを得ない。ただ、実力差がどれだけあるのか分かるだけ、真と比べるよりマシなのだろうが。


「そうですか。一度会ってみたいものですね、その『ライオンハート』というギルドに――っと、あまりおしゃべりしている場合でもありませんでしたね。先を急ぎましょう」


強敵を倒したことで一息ついたが、まだミッションは終わっていない。サリカの言葉に全員が緊張を取り戻し、ミッションへと意識を向ける。


(『ライオンハート』か……。紫藤さんだったら、どんな風に戦ったんだろうな……)


サーラム寺院の地下を再び歩き出した真は、そんなことを頭に浮かべていた。紫藤総志という男。ゴ・ダ砂漠の出身者から絶大な支持を受けており、ミッション攻略の指揮を取るだけでなく、最前線で戦い、結果を出してきた。


(紫藤さんは元自衛隊員だったって話だよな……。特殊作戦群だろうか……?)


真の予想では、総志が普通の自衛隊員であるとは思えなかった。かなり過酷な訓練を経験してきたという話も聞く。自衛隊で唯一の特殊部隊に所属していた可能性もある。そうなると、特別な戦闘訓練も受けているのだろう。


(モンスターを相手にすることは想定してなくても、対人戦闘なら紫藤さんの方が上手いかもな)


一通り思案した後、真はミッションへと頭を切り替え、サーラム寺院の地下を進んだ。






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