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サーラム寺院 Ⅳ

真達は聖堂の裏側へと続く入口を抜けていく。聖堂の裏も他の場所とさほど変わらない。崩れた石材が所々に散らばっている。じゃりじゃりとした小石と砂の混じった感触が足の裏に伝わる。


崩落した屋根からは、沈もうとしている太陽の黄昏た光が入ってきていた。それは、風化し始めているサーラム寺院を物語るように、辺りを寂しく照らす。


「ここには無いのか……?」


真がざっと見渡した限りでは、浄罪の聖人らしき遺骸はない。あるのは朽ちた石材だけ。救国の英雄として祀られていた浄罪の聖人を安置するにしては、あまりにも崩れ過ぎているように思えた。


「そうですね……。崩壊しているとはいえ、聖堂に安置するならまだ分かりますが、ここは物置だった場所のようですし……。流石にこんなところに自分たちの象徴ともいえる聖遺物を置くことはしないですよね……」


彩音もここに浄罪の聖人を安置するとは考えにくかった。辛うじて形状を残している物には棚があった。そこに宗教上必要な道具を置いていたのだろう。すぐに聖堂に持っていけるように、裏に保管していたのだと推測する。


「もう少し探してみましょうよ。何かありそうな気がするのよね。勘だけど……」


理屈ではなく、そう思うから。直感で生きている翼らしい意見。とはいえ、翼の直感が正しいかどうかは別。あくまで勘でしかない。


「何か手がかりになる様な物でも落ちてたらいんだけどな……」


若干、諦観気味に真が言う。浄罪の聖人へと繋がりそうな手がかりがあるのだろうか。瓦礫しかないこの場所では、そんな物があるようには思えてこない。


「でも、見張りがいるっていうことは、サーラム寺院に何かがあるはずなんだ……」


真が呟きながら考える。サーラム寺院に浄罪の聖人に繋がる何かがあることは確信している。だが、この場所にそれがあるかどうかは不明。サーラム寺院の全てを調査し終わったわけではない。聖堂の裏には何もないという可能性も十分ある。


(となると、他の場所もくまなく探さないといけないな……)


似たようなことはゲーム、特にRPGをやっている時に何度も経験したことがある。どこに重要アイテムがあるのか見つけることができずに、ダンジョンの中を行ったり来たりさせられる。


そういう時は、大体簡単な見落としをしているだけに過ぎないことが多い。だが、なかなか見つからないと苛立ちも募ってくる。


「私、向こうの方を見てくるね」


黙考する真の心情を察したのか、美月が自主的に動いていく。「あぁ」と真が簡単に返事をすると、美月は部屋の隅の方へと向かった。


「真君、ここじゃないのかな?」


黙っている真に華凛が声をかけた。自分が見つけた聖堂の裏側への入口。ここに手がかりがあれば、真の役に立ったということになる。だから、華凛も期待していた。真に有益な情報を見つけることができたのではないかと喜んでいたのだが、ハズレなのかもしれないと、落胆の色が出てきている。


「う~ん……。もう少し探してみる価値はあると思うけど……」


「あまり意味ないかな……?」


「そうかもしれないが、ここじゃないっていうことが分かったことは有効な――」


「真! これ何かな?」


部屋の隅を見に言っていた美月が声を上げた。手を挙げて、こちらに来るように合図を送っている。何かを見つけたようだ。


「何か見つけたのか?」


すぐに真達は美月の方へと駆け寄る。そこにあったのは倒れた柱が数本と大きめの石材の瓦礫。それが並べられている。


「なんでここだけ、奇麗に瓦礫が並んでるの?」


そこだけ不自然だということは翼にもすぐに理解できた。他の場所は乱雑に瓦礫が散乱しているにも関わらず、美月が見つけた箇所だけは人の手によって並べられたように整然としている。


「これってアルター真教の人達がやったんですよね?」


彩音が真の方を見ながら言う。人の手で並べられたのであれば、それをやった人は誰なのか。必然的にこの場所にいたアルター真教のNPCということになる。


「何のために?」


では、何を目的として並べたのか。華凛も真の方を見ながら質問をした。何となくだが、真は答えを持っているような気がした。


「たぶんだけど――」


真はそう言うと徐に並べられた瓦礫に手をやった。そして、そのままズズズと横にスライドさせる。


「軽ッ!?」


思っていた以上に軽かった瓦礫にびっくりしながらも、予想通り、それは現れた。


「これって、地下に続く階段!?」


真が簡単に瓦礫を動かしたことにもびっくりしたが、さらに階段が現れたことに美月が驚きの声を出す。


「この先に浄罪の聖人があるんだろうな」


地下へ続く階段を見ながら真が答える。これが探していた浄罪の聖人へと繋がる手掛かりだ。


「真君、よくこれが動かせるって分かったよね? 普通、こういうのって動かせないじゃない。そもそも、重そうだし」


感心したように華凛が訊く。ゲーム化した世界の地形や建物の構造物は、壊すどころか動かすこともできない。土を掘ることもできなければ、家の窓を叩き割ることもできない。


半壊したサーラム寺院では、瓦礫もその構造物として設定されている。だから、ゲーム上瓦礫を動かすことはできないようになっている。


「ゲームではよくあるパターンだ。隠し通路ってやつだな。普通は動かせない物でも、隠し通路の入口だけは動かせるようになってる。見た目が瓦礫に見えるだけで、内部設定では椅子やテーブルとかと同じカテゴリーなんだろうさ」


真が得意げに説明をする。こういう不自然な物は動かせる。というのは長らくゲームをやってきた真からすれば常識のようなもの。ゲームでは人と同じくらいの大きさの岩でも、動かせる物なら簡単に動かすことができる。


思いのほか瓦礫が軽かったのも、動かせるという設定になっているからだろう。それこそ、宿にある家具と同様に。


「あんた、ドヤ顔で言ってるけどさ。ここには何もないんじゃないかって思ってたんじゃないの?」


少し呆れた顔で翼が言う。美月がこれを見つけてくれなかったら、他の場所を探しに行っていたのではないかとさえ思える。


「う、うるせえな! まだ探すつもりだったよ俺は!」


図星を突かれた真が慌てて言い訳をする。確かに翼の言う通り、ここには何もないかもしれないから、別の場所を探そうとしていた。美月が隠し通路の入口を見つけてくれなければ、余計な探索をする羽目になっていた。


ただ、得てして真がRPGで迷う時はこういう時だ。何もないと思い込んでしまって、手がかりを見落としてしまう。そして、再度最初から探索をやり直して、見落としていたことに気が付く。


「こんなところに地下への階段があるとは……。アオイマコト殿、この先にガドルがいるはずです。おそらく浄罪の聖人もこの先に運ばれていると思われます」


緊張した声で話しかけたのはサリカだった。部屋の中を調べることには一切手を出しては来なかったが、それはNPCだからだろう。ヒントになるとうなことは言えても、実際に隠し通路を見つけるようなことはできない。


「サリカ。サーラム寺院の地下には何があるんだ?」


気を引き締め直して、真がサリカに質問をする。この地下への階段の先には何があるのだろうか。


「申し訳ありません。私はサーラム寺院に地下があることを知りませんでした……。言い訳になりますが……。ここは侵略によって落とされた寺院ですので……、私達アルター教の人間はまず近寄らないのです……」


聞かれたことに答えられず、サリカが頭を下げる。


「いや、いいんだ……。ただ、サーラム寺院に地下があるっていうことを、ガドルは知ってたっていうことだよな?」


「はい……そういうことになりますが……」


「アルター真教にとって、サーラム寺院はたまに近寄るような場所なのか?」


「いえ、それはあり得ません。真教は戦って勝つことを重点に置いています。侵略によって落とされた寺院には、正教以上に近寄ることはありません」


真がふと疑問に思ったこと。アルター教徒が近寄らない、サーラム寺院の地下の存在をガドルは知っていた。それは、いつから知っていたことなのだろうか。


(サリカの話だと、前からガドルがサーラム寺院の地下について知っていたとは考えにくいな……。だとしたら、ガドルがサーラム寺院の地下を見つけたのは最近だ。俺達が浄罪の聖人をセンシアル王国に運ぶことが決まってから、隠し場所を探した結果、偶然サーラム寺院の地下を見つけたということになる。おそらくガドルからしてみれば苦肉の策なんだろうけど)


「真、何か気になることでもある?」


美月が黙って階段を見つめている真に声をかけた。何かを考えていることは明白なのだが、まだ答えは出ていないという様子。


「あ、ああ。大丈夫だ。少し気になることがあったんだけど……、大したことじゃない――それより、先に進もう。この先に浄罪の聖人があるはずだ」


真はそう言いつつもサリカの方をチラリと見た。


(俺達が動いていることをガドルは知っている……。最初はNPCだから、ゲームだからと思っていたけど……。内通者がいてもおかしくはない……。しかも、俺達が動いてから情報が漏れている可能性が高い……。それなら、ここには誘い込まれている……? 偶然見つけたサーラム寺院の地下……。逃げ場のない地下に俺達を誘い込んでる……?)


思い返せばスマラ大聖堂で、タイミングを見計らったように現れたガドル。真はゲームのイベントだから、タイミング良く現れたのだと思っていた。それは間違いではないだろう。だが、ゲームのイベントとして辻褄を合わせるために、内通者を用意していた可能性も十分にあり得る。


「やっぱり、まだ気になることがある?」


美月が心配そうに真を見ている。真が地下への階段。その一歩を真が踏みとどまった。やはり何か気になっているのだろう。


「いや、大丈夫だ……。今はミッションを終わらせることを優先しよう」


真はそう返事をすると、地下へと続く階段を降り始めた。


(誘いこまれているとしても、進まないっていう選択肢はないんだ……。これがミッションである以上は、進まないと世界を元に戻すことはできない……)


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