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修練場 Ⅵ

「あれは、まさか!? 失われたはずのアルター真教の秘術!? ダウード……なぜお前がそれを……ッ?」


驚愕に声を震わせているのはナジだ。まだ、ダウードの手下3人を相手に戦っているのだが、手を止めて声を上げている。同様に敵の方も、剣をナジに向けて威嚇するだけで、攻撃はしていない。


「そ、そんな……。アルター真教の秘術は本当に存在していたというのかッ!?」


サリカも驚きに目を見開いていた。サリカの口ぶりからするに、この秘術が本当にあるものだとは思ってもいなかったのだろう。手は完全に止まっており、変身したダウードの方を見ている。これはサリカが相手をしている敵も同じだ。


(ボスが変身するイベントシーンってか……。ナジとサリカの解説はありがたいが、違和感が半端ないな)


ダウードが変身したことに関する説明のため、戦闘が止まっている。ゲームのイベントシーンとして入っている演出なのだろうが、実際にやってみるとやはり不自然だ。


「貴様らアルター正教の脆弱どもと違って、アルター真教は戦うための手段は選ばない! 敵を殺せるのであれば、どんな姿にでもなるのだよ!」


ダウードがそう言い放つと同時、大きく跳躍した。しかも、速い。巨大な身体になったからといって、ダウード自身のスピードはまるで妨げられていない。むしろ、人間の姿だった頃よりも動きの切れが増しているようにも思える。


「くッ!?」


スピアのように尖った6本の腕が真目がけて押し寄せてきた。急に来た攻撃であるため、真は避けるだけで精一杯。何とか横に飛んで回避を試みるが、ダウードの腕の一本に当たってしまう。


「真、大丈夫?」


すかさず美月が回復スキルをかけた。見た目とは裏腹に、実際には真が大したダメージを受けたわけではない。それは美月にも分かっているのだが、異形の怪物を前にして冷静ではいられない。


「大丈夫だ。あいつは俺が仕留める。皆はさっきみたいに援護を頼む」


横目で仲間の方を見ながら真が言った。戦闘技術が高い敵に対しては、動きを制限する妨害系のスキルが有効だ。ただ、ベルセルクにはそれが少ない。からめ手が最も得意なのはサマナーである。召喚する精霊がその属性に応じた状態異常を引き起こすスキルを持っているからだ。続いてソーサラーも相手の動きを制限することに長けている。


「さっきの要領でいいのよね? 大丈夫、任せておいて」


翼の声には緊張が混じっていた。先ほどの戦闘では、翼が敵を牽制して、それに続いて彩音と華凛が動いてくれたのだ。今度も上手くいくと信じてはいるものの、強敵が相手なのだから、不安はぬぐい切れない。


「うん! わ、私がんばるから!」


華凛も緊張した声を出していた。初めて真から頼りにされた。その期待に応えないといけない。さっきのように上手くやらないといけないというプレッシャーがあるのだ。


美月と彩音も無言で頷いた。それが真の目の端から見えた。


「いくぞ!」


<ソニックブレード>


真は声を上げるなり、大剣を振りかざした。その斬撃から放たれるのは、見えない音速の刃。空気を切り裂く甲高い音を響かせながら、蜘蛛人間と化したダウード目がけて直進する。


しかし、刃が届く前に、ダウードは横に飛んでこれを回避した。


(こいつもしかして……)


真はソニックブレードが躱されることは想定済みだった。それは、ダウードが人間の姿だった時に避けられているのだから当然と言えば当然の結果。だが、真は違う所を見ていた。


(避け方が大雑把になってる!)


ダウードが人間の姿だった時の避け方は最小限の動きだけだった。攻撃を完全に見切っていて、どこまで体を動かせばいいのか、その必要最小限で回避していたのだ。


それが、今では大きく飛ぶことで回避をしている。


(小回りは利かなくなってるってことだな!)


スピードは落ちていないが、身体が大きくなったことによる弊害はやはりあった。


それならと、真は一気にダウードの方へと駆け寄った。


<スラッシュ>


走る勢いのまま踏み込んで、大剣を振り切る。素早いが大振りの一撃。これをダウードは後ろに飛ぶことで回避した。回避行動自体には余裕が見られるが、人間の姿だった頃だったらギリギリを躱してカウンターの一撃を入れていただろう。


<シャープストライク>


振り下ろした刃から切り返して素早く二連撃を放つ。スラッシュから派生する連続攻撃。これもダウードは後方に飛んで回避をしてみせる。


<ルインブレード>


ダウードの前にルーン文字が刻まれた魔法陣が出現すると、真は魔法陣ごと斜めに切り裂いた。ルインブレードはシャープストライクに続く連続攻撃スキルの3段目。攻撃と同時に敵の防御力を下げる効果がある。


だが、ダウードはさっきと同じように後ろに飛んで回避した。


真の攻撃は全て回避されたのだが、真に焦りはなかった。攻撃の避け方が単調になっていることを見逃していなかったからだ。小回りが利かなくなった分、動きの速さだけで、後ろに飛んで逃げているにすぎない。


<レイジングストライク>


真は再使用時間が経過したレイジングストライクでダウードに肉迫する。このスキルは先ほど二度にわたってカウンターを喰らったスキルなのだが、真は躊躇なく使用した。


「何も学習していないようだな! 力はあっても、それでは生き残れないぞ!」


強襲をかけてくる真に対して、ダウードが冷静に反応した。初手の時から見切っている技だ。鋭く尖った6本の腕で真を迎撃しようと構える。


「お前がな!」


真には勝算があった。その狙いは、現実のものとなり、ダウードのカウンターが入る前に真の一撃が届いた。


「うぐッ!?」


ダウードが思わず呻き声を上げた。この攻撃は、一度も喰らわなかったものだ。しかも、狙ってカウンターを入れることができていた攻撃だ。それなのにダウードは直撃を受けてしまった。


真の距離にまで詰められたダウードは、堪らず長い6本の腕を振り上げ、真に攻撃を仕掛けようとする。


<グリムリーパー>


敵が攻撃の体勢に入っているが、真はお構いなしに攻撃スキルを放った。


地面すれすれから、大剣を掬うようにして斬り上げる。剣の軌跡は弧を描き。まるで死神の大鎌のような斬撃を繰り出した。


「貴様ッ!」


真の剣に斬りつけられながらも、ダウードは振り上げた腕で真を攻撃する。


ダウードは攻撃を喰らうのと同時に相打ち覚悟で攻撃をしてきのだ。真にこの攻撃を避けれるだけの猶予はない。


<スラッシュ>


真は回避も防御もしようとはせず、大剣で袈裟斬りにした。当然のことながら、真はダウードの攻撃をまともに受けてしまう。


「なんだとッ!?」


ダウードが驚愕の声を上げた。目の前にいる人間は、アルター真教の秘術によって化け物になった自分の攻撃に一切怯むことなく、攻撃を続けているのだ。普通であれば死んでいてもおかしくない状況だ。


「変身したのは失敗だったな! 長すぎる腕が邪魔で、技が鈍ってるぜ!」


真はダウードを睨み上げて嗤った。体が大きくなって小回りが利かなくなっただけではなく、その身体の構造にも問題があったのだ。蜘蛛のように長い腕は射程が伸びて、攻撃力も増しているだろう。だが、その分扱いにくくなっている。


レイジングストライクのカウンターが間に合わなかったのも、長い腕が扱いにくく、素早く緻密な動きに対応できないせいだ。しかも、懐に入られると、長い腕が邪魔になってしまう。


相打ちに持っていけるのであれば、真の方が大幅に有利だ。圧倒的な攻撃力で敵を粉砕するだけなのだ。


「くそッ!」


ダウードは攻撃を諦め、距離を取ることを選択した。大きく後方に飛んで、真との距離を離す。この点は蜘蛛化したことによる利点が大きい。人間のままでは到底飛べないような距離も簡単に飛んでしまう。


「逃がさない!」


そう叫んだのは翼だった。


<スタンアロー>


引き絞った弓を一気に開放する。放たれた矢は一直線にダウードに向かって飛んでいった。


スタンアローはスナイパーの使える妨害系スキルの一つ。文字通り、相手を気絶させる効果があるスキルだ。


<グラビティ>


翼の攻撃が合図となり、彩音も妨害系のスキルを発動させた。たちまち、ダウードの周辺にには強い重力場が形成さる。


地属性のグラビティ自体にはそれほど高い攻撃力はないのだが、押し潰すような重力が発生することによって、敵の動きを鈍らせることができる。


<アイスケージ>


華凛が召喚しているのは水の精霊ウンディーネ。空気中の水分が一瞬の内に氷結し、ダウードの身体を氷の檻が囲った。


攻撃よりも回復と支援に特化している精霊なのだが、敵を妨害するスキルも持っている。それがこのアイスゲージだ。敵を氷の檻に入れてしまい、その場から逃げられないようにするスキル。


翼と彩音、華凛が一斉に妨害系のスキルでダウードの動きを止めに来たのだ。


「真君お願い!」


華凛が叫ぶ。相手の動きを止めることが自分たちの役割だ。後は真に任せればいい。真なら次の攻撃で決着をつけてくれる。


「おおおおおーー!」


重力場と氷の檻に捕らわれたダウードに向かって真が飛び出していった。


<スラッシュ>


ダウードに迫った真は、連続攻撃スキルを入れるため、起点となるスキルを放つ。


「ハッ!」


ダウードは真の攻撃を、またもや大きく後方に飛ぶことで回避した。そして、そのまま聖堂の壁にへばりつく。8本の手足で本物の蜘蛛のように壁にしっかりと着地していた。


「ど、どうして……!?」


彩音が動揺した声を上げる。3人で放った妨害系のスキルを全て受けながらも、まるで何もなかったかのようにダウードは動いている。それが信じられなかった。


「くっそ……。こいつには、もう妨害系のスキルは効かないんだ……」


人間の姿だった頃には効いていた妨害系のスキルが変身後は効いていない。ダウードはボス格の敵だ。緊張感のある戦闘を演出するために、戦闘が優位になる妨害系のスキルが効かなくなるのは、ゲームではよくあることだった。




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