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墓地 Ⅲ

倒れた青色のゾンビに真と恭介、正吾が近づいた。特にアイテムを落とすわけでもないようで、このまま放置しておけば、じきに消滅する。


「臭いの元ではなさそうだな」


真が片膝を付いてゾンビに近寄ったが特に異臭は強く感じない。


「そうみたいだな」


反対側にいる恭介も、真と同じような姿勢で倒れた青い色のゾンビを観察した。顎に手を当てながらまじまじと見ている。


「そうなると、高台の上に何があるのか……」


正吾が腕組みをしながら考える。


「行ってみるしかないでしょ」


後ろからやってきた未来が率直な意見を出した。


「まぁ、そうなんだけどな……」


未来の言っていることに間違いはない。ここで考えていたとしても答えが出るわではない。結局のところ高台の上にある、教会とその周辺を調べるしかない。


「なにか……嫌な予感がします……」


未来の後ろに立っている美月が不安そうな顔をしながら言った。


「ああ、俺もなんか嫌な感じがするよ……でも、未来の言う通り、行くしかないんだがな……」


恭介も同じことを感じ取っていた。美月と恭介だけではないだろう。ここにいる5人全員が何かしら嫌な感覚を持っている。


「そうだな……あの階段の上が墓地の最奥になる。……行こう」


正吾の発言に他の全員が首肯する。みんな緊張があった。何かあるかもしれないが、何があるのか想像もできない。想像もできないものは恐怖となる。


石でできた階段を一段一段登っていく。ガタガタの階段ではあるが、石造りであるため荒れ放題の墓地の中では比較的しっかりとしていた。


階段を登りきるとそこには朽ち果てた教会とその周りの広場があり、墓石が並んでいる。教会の扉は外れて無くなっており、屋根も半分が失われていた。周りの広場も道中の墓地と同じように伸びた草が放置され、倒れた墓石を誰も直さない。


「うっ……!?」


先頭を歩いていた正吾が顔を顰めた。階段を登りきって、教会前の広場に出たところで、異臭が一気に酷くなったのだ。


正吾の後ろから続いてきた、真と恭介もうめき声を上げた。きつい腐敗臭。それが一面に立ち込めている。

最後に広場まで登ってきた未来と美月も反応は同じ。あまりの臭いに口を手で押さえている。


「おい! あれ!」


真が広場の奥を指さす。そこには重装鎧を着た人、軽装鎧を装備している人、ローブを纏った人がぞろぞろと歩いてきた。ざっと見ただけでもその数は30人弱といったところ。その集団がこちらに近づいてきている。


「なあ、おい! こいつら何なんだ!? 人なのか? 違うのか?」


恭介が声を上げた。奥から出てきた人々は身に着けている装備が自分たちの物と同じで、ゾンビほど見た目が腐敗しているわけではないため、墓地のモンスターであるかどうか分からない。それに、以前はこんなのはいなかった。


「僕だって分からないよ! 兎に角武器は構えて!」


どんどん近づいてくる30人弱の正体不明の集団。相手がモンスターならスキルが発動して攻撃ができる。だが、見た目は人間と変わらない。どうしても判断に躊躇してしまう。


「ねえ! 臭いはこの人たちからじゃないの!?」


美月が声を上げた。周りから近づいてくるにつれて臭いが強くなっている。


「だったらこいつらは敵なのか?」


恭介も迷っていた。だが、距離はどんどん近づいてくる。


「待って! あれマスターだよ! 由紀さんも美里さんも雅也さんも!」


未来が前に出て一方向を指さした。そこにはローブを纏った男女が3人。重装鎧を着た男が一人いた。顔は虚ろで瞳には何も映していないような表情をしている。周りと同じようにこちらに向けて歩いてきていた。


「どう見ても正気じゃない!」


真が叫ぶように言った。明らかに様子がおかしい。知っている者が来たにも関わらず、一切の反応を示していない。


「マスター! 私です! 美月です! 返事をしてください!」


美月の叫び声には誰も反応しなかった。まるで聞こえていないかのように、黙々と一直線に歩てきているだけだった。


「くっ……。」


正吾が苦虫を噛み潰したような顔をしている。考えはあった。攻撃すること。だが、相手の中には仲間がいる。握った剣の柄を強く握りしめて決断の一言を言おうとするが、躊躇いが邪魔をする。


「マスター! 由紀さん! 美里さん! 雅也さん! 未来だよ、返事してよ!」


更に前に出た未来が大声で叫んだ。ギルド『ストレングス』のマスターとメンバー達と思わる者がいる集団との距離はすでにかなり近づいてきている。


「未来、それ以上は近づくなよ!」


恭介が警告の言葉を発した。今の距離でも近すぎるとは思うが、近づいてきている集団の動きはそれほど早くない。一定の速度で近づいてきているだけだ。


「うん、分かってる――」


未来が恭介の注意を受けて、振り返り返事をした時、相手側の集団の先頭にいる軽装鎧を着た一人が急に飛び出して未来の腕に噛みついてきた。


未来は視線を外したため、反応に遅れが生じ、気が付いた時にはすでに腕を噛まれているところだった。


「きゃああーーー!!!」


「「未来っ!」」


恭介と美月が同時に声を上げた。油断していたわけではないが、未来が一瞬の隙を突かれて攻撃を受けたことに動揺が走った。


「行くぞ!」


正吾が焦燥感に満ちた声を上げて、未来の救出に向かう。もう躊躇っている場合ではない。相手は敵だ。


「くそっ!」


恭介が正吾に続く。


「美月はそこで後方支援!」


「うん!」


真の指示に従って美月が回復のスキルを準備する。まずは噛まれた未来に回復スキルを使用しないといけない。


「えっ!?」


美月が傷を回復させるスキル、ヒールを未来に使おうとしたが発動しない。


(どうしてっ!?)


何度、未来にヒールを試みてもスキルは一切発動しない。発動しない理由が美月には分からない。ただ、回復スキルを未来に使うことができないということしか分からない。


「美月ちゃん! 未来にヒールを!」


未来に駆け寄った正吾が声を上げる。未来に噛みついた軽装鎧の者は真と恭介が斬りつけた倒していた。


「やってます! でも、スキルが発動しないんです!」


「っ!?」


正吾が美月の声を聞いてあることに気が付き、未来から飛び退いて離れようとした。モンスターに回復スキルは使用できない。


「ガアァァァァ!!!」


だが、正吾は一瞬間に合わず、アサシンの特性でもある俊敏な動きで、未来が正吾の喉元に噛みついた。


「正吾っ!」


近くにいた恭介が無理矢理未来と正吾を引き離した。


「恭介さん! 離れて!」


真が怒号にも似た勢いで叫んだ。


恭介が真の言いたいことを理解して、正吾から離れた。しかし、正吾はすでに正気を失っている状態で、近くにいる恭介に襲い掛かっていった。


「グアアァァァァーー!!」


奇声を発しながら襲い掛かってくる正吾に対して、恭介が咄嗟に大剣を振り上げる。だが、剣を振り下ろすことができない。知り合ってからそれほど長い時間は経っていない仲だが、それでも一緒に死線を潜り抜けた戦友だ。なんの迷いもなく斬りつけるなんてことができるはずもない。そして、その迷いは致命的な隙になる。


「うああああーーーーー!!!」


恭介が正吾に襲い掛かられて、肩を噛みつかれ、悲鳴を上げた。その悲鳴は少しすると止み、恭介は真と美月の方に向き直った。


「美月! 逃げるぞ! 噛まれたらゾンビになる!」


真が叫んだ。瞬く間に3人の仲間がやられた。知っていれば対処できたかもしれない。なぜもっと早く気が付くことができなかったのか。今更ながらに後悔する。


「駄目! 後ろからも来てる!」


美月が悲鳴混じりの声を上げた。高台にある広場から下に行くための階段は、いつの間にか現れた青い色をしたゾンビ達が蠢いていた。そして、その青い色をしたゾンビ達の中心にはボロ布のローブを頭からかぶった死霊魔術師、ネクロマンサー ルーデルがいた。







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― 新着の感想 ―
[一言] 元気だった人が一回噛み付かれただけで数秒でゾンビ化して味方を襲うようになるってゲームバランス無茶苦茶ですね。 これでゾンビ回復方法がなかったら、チートなしではクリア不可能ですよ。
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