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チュートリアル Ⅰ

大音量の声に叩き起こされてた真が、訝し気な顔で辺りを見渡す。選挙運動期間中に演説の車で起こされることはあるが、言っている内容が政治とは関係ない。大音量の音声はなおも続けている。


― 繰り返します。ただいま正午を持ちまして、『World in birth Real Online』を開始いたします。これはゲームであってゲームではありません。現実に起こっていることです。現実の世界をゲーム化しているのです。 ―


真は声が言う内容に聞き覚えのある単語が出てきたことに気が付く。『World in birth Online』。Onlineの前に‟Real”と付いているが、夜明け前までやっていたゲームと関係があるかもしれない。


― 皆様にはたった今からプレイヤーとなっていただき、『World in birth Real Online』の世界を冒険していただきます。皆様の前には数々の難関が立ちふさがると思います。それでも仲間と力を合わせて困難に立ち向かってください。 ―


外から聞こえる声はその説明の声だけではなかった。悲鳴のような声や怒号のような声が聞こえてくる。真も何が起こっているのか理解できず、取りあえず自室にあるパソコンを起動して情報を集めることにした。


(おい、なんでだよ!?)


真がパソコンの電源を入れようとするが入らない。テレビを付けようとしたが映らない。そもそも電源が入っていることを示す赤いランプが点灯していない。そこで真はあることに気が付いた。


(えっ……?なんで……?)


着ている服がいつもの部屋着とは違う。白と黒を基調とした軽装鎧。コートのようなデザインをした、『World in birth Online』で真の使っていたキャラクターが装備していた防具『インフィニティ ディルフォール メイル』等のセット一式だ。お洒落なコート風の鎧を着ているのが、ゴツいギガント族のベルセルクだということで仲間からは似合わないと揶揄われていた装備。それを着ている。


(もしかして……)


背中に手を回すと予想通り、それがあった。ベルセルクの武器、両手持ちの大剣。その中でも最強の『インフィニティ ディルフォール グレートソード』。燃え盛る様な紅蓮の刀身を振ると残像のようにその軌跡が映るとても人気のある武器。持っているだけでも羨望の眼差しを注がれた逸品だ。


真は夜明け前にゲームの運営からもらったメッセージを思い出す。『World in birth Online』の続編で使用できる特典。レベルとスキル、装備、アイテムの一部の引継ぎ、そして、専用アバターの付与。


この内、装備が引き継がれていることは確認できた。レベルと一部のアイテムはどうやって確認したらいいか今は分からない。気になるものは専用アバター。これが一体何を指しているのか。


真は嫌な予感がして自分の手を見た。細く奇麗な手。まるで女の子のような手をしている。


更に嫌な予感がしてパソコンのモニターに自身の顔を映す。黒い画面に反射した顔ははっきりとは映らないが、真の顔ではない。まったくの別人。真は慌てて部屋を飛び出し、洗面所にある鏡に顔を映した。


「はぁあああああっーーーーー!?」


真は思わず前のめりになって鏡を見た。映っている顔は赤黒い髪のショートカットの女子。気の強そうな顔をしているが美形だ。見方によっては男子にも見えるが、どちらにしろ真の顔ではない。男とも女ともつかない中性的な顔立ちで、とにかく美形。声もなんだか高いような気がする。年齢は16~17歳といったところか。


真は体のあちこちを確認してみた。それでこの体が男であるということが確認できた。生身の女子の体を触ったことはないが、自分と同じ男の体は分かる。


「この見た目で男かよ……」


専用アバターが何なのかこれで解明できた。ショートカットの女子のような男子のアバター。確かに真はアバターの付与を承諾した。だがこんな見たであるとは思ってもいないし、そもそも、自分自身がアバターの姿になるとは思ってもいない。ゲームの中では巨人族の末裔という設定の大柄キャラを使っている真からしてみれば、こいう奇麗系のキャラは使いたくない。


外から聞こえてきた悲鳴やら怒号の正体はこれらだろう。気が付いたら装備が変わっている。電化製品が使えない。アバターはどうなのだろうか。真は専用アバターを付与されているため、姿が変わっているが、他の人は専用のアバターを付与されているわけではないはずだ。その辺りはまだ不明だ。


真が何とかして落ち着きを取り戻そうとしている中、大音量の声は更に説明を続けてきた。


― 皆様には初期装備を配布させていただいております。また、スマートフォンや他の電気機器、インターネット等を使用することはできなくなっております。それでは、細かな説明につきましては個別にチュートリアルを送付いたしますので、各自で確認をしてください。なお、見知った方の行方が分からなくなっているとは思いますが、心配なさらずとも結構です。『World in birth Real Online』を実施するにあたり人数が多すぎますので並行世界を複数増設いたしまして、ランダムに別の現実世界へと行ってもらっております。今この世界にいないだけで、並行世界には存在しておりますのでご安心ください。 ―


「おい!なんだふざけんじゃねえぞこら!」


「どこの誰だよ!出て来いよ!」


「何?なんなのこれ?」


家の外からは更に激しい怒号が聞こえてきた。


(並行世界ってどういうことだよ!?母さんは並行世界にいるってことなのか!?)


真もその説明には驚愕した。状況についていけていない。だが、どこから聞こえて来るのか分からない声は淡々と説明をするだけだった。


― 最後に一つ、皆様、これは現実世界にゲームが入ってくるわけですから、ゲーム化の影響で死亡した場合であっても、それは現実世界で起こった事象になります。つまり、その死は実際の出来事と同じになります。くれぐれも死なないように気を付けてください。それでは、皆様の活躍を心より応援いたしております。 ―


声はそれ以後聞こえなかった。


(おい、何なんだよこれは!?ゲーム化ってどういうことだ?実際に死ぬってどういうことだよ!?)


真はまだ頭の整理ができていなかった。見た目は確かにゲーム化の影響を受けていることが分かる。だが、今いる場所は自分の家だ。自分のベッドで目を覚まし、今は家の洗面所にいる。


真は一旦自分の部屋に戻って窓から外を眺めた。窓から見える景色は今までと変わっていないように思えるが……。


(あれ……?どういうことだ?)


窓の外の景色は民家やコンクリートでできたマンションが見える。体を乗り出してさらに道路の先を見ると、平原が見えた。そこは駅がある方角で、徒歩5分くらいで行ける場所に駅がある。それが平原になっている。窓からのぞく限りではこれ以上分からない。平原の中にも何かあるようだが、よく見えない。分かったことは駅がなくなって平原になっているということ。


外からは今もなお怒鳴り声や悲鳴が聞こえている。そちらに目をやると、皆が揃えたように布の服を着ているのが分かる。これが初期装備なのだろう。そして、その近くを狐や大きなネズミ、ウサギが徘徊している。真はMMORPGを経験しているため、徘徊している動物が何であるか分かった。初期エリアにいるモンスター。見た目は動物だが、レベル1でも余裕で倒せるモンスターを初期エリアには配置される。これを倒して最初のレベル上げをすることになる。


【メールが届きました】


「うわっ!?」


突然頭の中に声が流れ、目の前にメッセージが現れた。封筒に入った手紙の映像が空中に浮いている。


【目の前にあるレターを触ってください】


頭の中で再度声が響く。とりあえず、言われた通りにするしかない。空中に浮かぶレターを触ってみることにした。すると、レターが開き、中から複数の説明文書が出てきた。それらはすべて空中に浮いており、タッチパネルを操作する要領で操作することが可能であった。


「チュートリアルか……」


先ほどまで響いていた声が言っていたことを思い出す。『チュートリアルを送付する』と。これもゲーム化による影響なのだろう。現実世界にいても、ゲームのように情報を確認することができる。そうなれば、アイテムの使用や装備の変更、ステータス画面も見れるということになるはずだ。


「あった」


真の予想通り、説明を見ているとアイテムや装備、ステータスの確認方法が出てきた。


「ステータスオープン」


真がそう言うと目の前に画面が現れた。他の説明文書と同じく画面だけが浮いてる状態。それは知っている画面とはデザインが違うが、見慣れた情報が記載されていた。


レベル100 ベルセルク













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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大剣を背負ったまま気付かないなんてある? 体に沿って曲がる仕様なのかな
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