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会議の最中 Ⅰ

王都グランエンドの王城前広場。そこは、奇麗に敷き詰められた石畳に、等間隔に並んだ植木。庭師によって丁寧に整備された広場からは、センシアル王国の王が住まう城が見える。


穢れを知らぬ純白の城は、時に貴婦人に例えられるほどだ。だが、その気品ある城もあいにくの天気のせいで霞んでしまっている。


それでも、王城前広場が特別な場所であることに違いはない。普段は一般開放されている広場だが、センシアル王国の祭典や儀礼式典はこの王城前広場で行われる。そのため、この王城前広場周辺で商業を営むには、王国からの特別な許可が必要になるのだ。


その、特別な許可を得たホテルがある。一般人には到底利用できないような料金設定の豪華ホテルだ。外観も内装も、ホスピタリティも何もかもが超一流。


もうすぐ正午を迎えようとしている時刻。そんな、豪華ホテルにある会場を貸し切って、100人ほどの人が会議のために集まっていた。


会議の主催者は、ギルド『ライオンハート』。最大最強と言われているギルドだ。『ライオンハート』は攻城戦によって、センシアル王国領にある地域の内、二つの地域の支配権を移譲されている。


支配権を持っている地域からは税収が入り、『ライオンハート』にとっても大きな資金源になっているため、このような豪華ホテルの会議室を使うこともできるのだ。


「さて、予算配分についてですが――」


会場の上座に座る、眼鏡をかけたビショップの青年が会議を進めていく。このビショップの青年、葉霧時也が『ライオンハート』のサブマスターである。


そして、時也の隣にはギルドマスターであるベルセルクの紫藤総志が座り、その周りには『ライオンハート』の幹部が席を固める。


他にも名だたる大手ギルドの幹部たちがこの会議室に集まり、議論を交わしていた。会議の目的は『ライオンハート』と同盟関係にあるギルドとの定例会議。


『同盟会議』とも呼ばれている会議で、“ゲーム化した世界を元に戻すために必要なことは何なのか”ということを主軸に話し合い、現状で起こっている問題や今後予想されるミッションへの対応、準備。戦力増強のための弱小ギルドへの支援。寄付や援助の要請。物資、資金の管理、報告など多岐に渡って話し合われる。


ただ、一人だけ、この場所に馴染めていない者がいた。それは、赤黒い髪をショートカットにしたベルセルクの少女だ。この少女は非常に美しい顔をしていた。気の強そうな顔つきが、気高さと美しさを引き立てている。だが、本当は少女ではない。蒼井真という名の男なのだ。


朝から降り続いている雨は、正午を前にしてもまだ止みそうにない。今日一日はずっと雨だろう。明日には天気は回復するだろうか。真はそんなことを思いながら、窓の外の城に目をやっていた。


「少しよろしいですか?」


予算の配分について、時也が一通り説明をした時だった。一人の男が手を挙げた。黒いローブを纏ったソーサラーの男だ。年齢は40歳前後といったところか。痩せた顔をしているが、眼光は鋭い。


「『朱雀』の笹塚さんですね。どうぞ」


司会を務める時也が発言を許可する。


「葉霧さんの話を聞く限りでは、『フォーチュンキャット』への配分が多すぎるような気がするんですよ。聞けば、『フォーチュンキャット』は5人しかいない小規模ギルドだ。ギルドの運営に必要な経費は、同盟の中でも一番小さいと考えますが、それなのに、100人を超えるギルドと同等の予算が配分されるというのはどういうことでしょうか?」


笹塚と呼ばれたソーサラ―の男が疑問を呈する。『フォーチュンキャット』は『ライオンハート』の同盟の中では飛びぬけて小さいギルドだ。これほど小さいギルドが同盟会議に参加していること自体イレギュラーなのに、配分される予算もまたイレギュラー。不思議に思って当然のことだ。


「ええ、そのことですが。後ほど説明しようかと思っていたんですが……そうですね。今、説明しましょう」


時也はそう言うと、真の方へと視線を向けた。真がずっと所在なさそうにしているのは時也も気が付いている。他の参加者も同様だろう。


「ただ、『フォーチュンキャット』のことはあまり知られたくないと思っています。これから話すことは、決して外部に漏らさないようにしていただきたい。よろしいですか?」


話を続ける時也が周りを見渡す。これから話すことは外部に漏らすなという時也の指示にも全員が頷いている。


「それでは、説明いたします。ここにいる『フォーチュンキャット』のマスター、蒼井真はミッション攻略の要です。非常に高い戦闘能力を持っており、先のミッションの攻略では一番の功労者であります。今後のミッションの実働部隊として、蒼井真には最前線で戦ってもらうことになります。その為の活動資金として、この配分になっております」


時也が大まかに説明をした後、総志が立ち上がった。


「蒼井真は、我々の同盟の中でも最大級の戦力です。それ故、情報が漏れないようにしたい。『テンペスト』の残党もまだ残っている状態です。ミッション遂行よりも、この世界での覇権を握ろうとする組織が、蒼井真を狙う可能性もあります。そして、ミッションを遂行するにあたっては、目立たない方が動きやすいという側面もあります。ですから、皆さんには、蒼井真の存在を内密にしていただきたい」


総志の話が終わると一斉に視線が真に向かった。『ライオンハート』のマスターとサブマスターが言うのだから間違いはないにしても、真の方に向けられる視線は複雑なものだった。おそらく、この会議室に居る者の大半は、真のことを十代の少女だと思っているはずだ。


真もこれに対してどう反応していいか分からない。目が泳いでしまい、余計に周りの顔に疑問符を増やす。


そんな、重い空気の中、空から唐突に大音量で声が聞こえてきた。


― 皆様、『World in birth Real Online』におきまして、本日正午にバージョンアップを実施いたします。 ―


その声で、真に集まっていた視線は一気に霧散。意識は空から聞こえてきた声に集中する。


― 繰り返します。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたします。バージョンアップの内容につきましては、皆様それぞれにメッセージを送付いたしますので、各自でご確認ください。 ―


バージョンアップの時に告知だ。毎回、バージョンアップ直前にアナウンスしてくる。毎度のことではあるが、その内容には警戒が必要だ。命に関わることだってあるのだから。


【メッセージが届きました】


真の頭の中で声が響いた。直接頭の中で声がするというのは、何回聞いても気持ちが悪い。このメッセージは全員が受け取ることになるため、周りの人も同じような顔をしている。不安や恐怖、そういった感情が顔に現れている。


「内容を確認します……。皆さんもお願いします……」


時也の言葉に従い、その場に居た人々が、届いたメッセージの内容を確認しだす。このメッセージがバージョンアップの内容を教えてくれるのだが、あまりにも雑な記載しかないため、肝心なところが分からないという難点がある。


「新しいダンジョンを追加しました……これだけ?」


思わず声を上げたのは白銀鎧を纏ったパラディンの女だ。長いウェーブのかかった髪に鋭い目。奇麗な方だが、目つきが悪いことで損をしている。現状では『ライオンハート』に次ぐ、第二位の勢力を誇る、『王龍』のギルドマスター、赤峰姫子だ。


「それ以外には書いてないな……」


総志にしては珍しく不可解な顔をしている。今までのバージョンアップの告知も、簡素なものばかりだったが、ミッションの追加や、何か危険なものの気配を感じるものだった。だが、今回のミッションの内容は『新しいダンジョンを追加した』だけ。


「いつものことですが、どこにダンジョンが追加されたのかも書いてませんね……。それに、ダンジョンが追加されただけのバージョンアップっていうのも、なんだか気味が悪いですね……。さて、どうしたものか……」


『王龍』のサブマスター、漆黒の鎧を着たダークナイトの刈谷悟が首をかしげる。


(新しいダンジョンが追加されただけのバージョンアップか……。そのままの意味で捉えてもいいのか……? とりあえず、俺もメッセージを確認するか)


まだメッセージの内容を確認していなかった真もメッセージを開いた。話を聞く限りでは、どうやら『新しいダンジョンを追加した』だけのバージョンアップらしい。それだけしか書いていないというのは、逆に怪しいというのも理解できる。


【バージョンアップ案内。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたしました。バージョンアップの内容は以下の通りです。


1 新たなダンジョンを追加しました。


2 シークレットミッションを追加しました。】


(シークレットミッションッ!?)


メッセージの内容を確認した真は、驚きに目を見開いていた。







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