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迷宮 Ⅰ

タードカハルから歩くこと3時間。真達がやってきたのは大きな岩山。周りにはごつごつとした赤茶色の岩が転がっているだけで、植物はほとんど見られない。見かける生物もといモンスターはバジリスクやハゲワシの類。アースエレメントに巨大サソリといったもの。


「着いたぞ、ここがイルミナの迷宮の入口だ」


先頭を行く総志が立ち止まり、目の前の物を見つめる。真達の前にある大きな岩山は、その口を開けるようにしてトンネルが掘られている。手前には入口へと続く石畳の道が造られており、その両脇には等間隔に石柱が建てられている。ただ、長い年月の間、乾燥した風に充てられていたのだろう。ほとんど原型は留めていないくらいに、風の浸食を受けている。敷かれた石畳は割れて、ところどころ砂化しているし、両脇の石柱にいたってはてっぺんまで残っている物は一つとしてない状態だ。


「ここがイルミナの迷宮……」


真の第一印象はよくあるダンジョンの一つだなということ。古い遺跡のようなデザインのダンジョンというのはRPGでは定番と言ってもいいくらいによく出てくる。そして、定番と言っていいくらいになんらかの罠が仕掛けられている。


「観光だったら文句はないんだけどね……。まぁいい――ここからは選ばれた9人で行く。迷宮内ではあたしがリーダーだ。サブリーダーには悟と蒼井。基本的にはこの3人の指示に従ってもらう。何度も言うが、王城のおっさんが罠があるっていうことを教えてくれるくらいの場所だ。今までなら絶対にありえないことだ。罠があることを教えてもいいくらい危険な場所だということを肝に命じておけ!」


少々の愚痴とともに姫子が言う。会議の時に、迷宮攻略のリーダーには真がなった方がいいのではという意見は『フォーチュンキャット』から出たものなのだが、姫子が即却下した。その時に総志は何も言わなかったことで、強引に姫子が迷宮攻略のリーダーということになった。


それでも、迷宮攻略のメンバーの半数以上が『フォーチュンキャット』であることから、真もサブリーダーとして任命されたのだ。


「真君についていけばいいのに……」


真がリーダーでないことに一番不満を持っているのは華凛だった。華凛は真に付いていけば間違いないという思いが強いため、他の人が真の上に立っていることが気に入らない。


戦闘能力でいっても真に敵う者などいないのだが、その点も含めて『ライオンハート』や『王龍』に真をいいように使われているようで納得がいかなかった。


「おい! そこの小娘、何か言ったか?」


ぼそぼそと愚痴のようなことを言っていることに気が付いた姫子が不機嫌を露わにする。姫子の性格上、言いたいことがあるのに直接言わない奴は気に喰わない。


「別に……」


姫子に対して華凛がそっぽを向く。華凛はどうしても人との付き合いが上手く出来ない。基本的に人に合わせるということが苦手で、よっぽど信頼できる人間でないと心を開かない。だから、ドレッドノート アルアインの討伐を頼み込んで、ギルドを渡り歩いていた頃のストレスは並大抵のものではなかった。


「華凛……」


相変わらずの華凛に対して真が頭を抱える。これから迷宮に挑むというのに、最初から揉めていてはこの先が思いやられる。かといって、真がこの場を丸く収めることができるかと言えば、そんな力量はない。


「うぅ……」


華凛の方としても真に迷惑がかかるようなことはできないので、呻くことしかできなくなってしまう。それならば言わなければいいのにと美月は思いながらも、そう上手く立ち回れないから難儀なのだと理解している。


「細かいことはいい。お前ら、とっとと入るぞ!」


姫子はそう言い放つと手で合図を送って岩山に彫られた穴の中に進んでいった。その後に悟が続いて入っていき、真達も遅れまいと付いていった。


「気を付けろよ」


真達の後ろ姿を見送りながら総志が声をかけた。本来なら自分が先頭に立って指揮を取り、迷宮に挑むのだが、イルミナの迷宮には各職1人の席しかない以上、真に行ってもらう他ない。


「総志様! 任せてください! 私、総志様のために頑張りますから! 何があっても絶対にこのミッションを成功させて見せますから! 総志様見ててくだ――」


「うん、分かったから。さっさと行くよ」


椿姫は総志の声に狂喜乱舞しそうな咲良を背中から押して、ぐいぐいと岩山に掘られた穴の中へと押し込んでいく。それでも咲良は何やら総志に向かって意気込みを叫んでいるが、総志が聞いている様子はなかった。


イルミナの迷宮がある岩山に掘られた穴の高さは2メートル強。横幅は1メートルもないといったところか。


窮屈さを感じる場所だが、穴の中を進むこと数分で小部屋に辿り着いた。大きさは10メートル四方くらい。ドーム型に掘られた岩山の空間。その中心には祭壇があり、周りの床には祭壇を囲むようにしてコの字型に9枚のパネルが敷かれていた。


「おい、行き止まりだぞ?」


小部屋の中を見渡した姫子が眉間に皺を寄せている。ここがイルミナの迷宮の入口だという情報を得て来たのだが、入口らしきものは見当たらない。


「う~ん、そうみたいですね……」


姫子のすぐ後にやってきた悟も小部屋を見渡した。どこを見ても、この先に続く道も扉もない。ただ、岩の壁で囲まれただけの部屋。


「これじゃないのか?」


真が床のパネルを指さす。真が指を指した先のパネルには人の絵が描かれていた。絵というよりはほとんど象形文字に近いようなものなのだが、それでもその絵の意味しているところは理解できる。


大剣を背負った戦士。それが描かれていた。


「それって、ベルセルクを表してるのかな……?」


真の指さすパネルの前に美月がかがみ込んで見る。


「それでしたら、こっちはスナイパーですね。これはアサシンじゃないですか?」


彩音が言うパネルには弓を構えた人と両手に短剣を持っている人の絵が描かれている。


「だったら、これはパラディンで、こっちがダークナイトかな? それと、サマナーがこれで……、ビショップとソーサラーとエンハンサーって見分け辛いわね……」


美月が絵を見て悩む。残りのパネルに描かれているのはどれもローブ姿に見えた。手に持っている武器も似たような物。サマナーは本を持っているのと、精霊のようなものが描かれているため分かりやすい。


「この炎が描かれてるのがソーサラーでしょ。祈ってるのがビショップじゃないかな? 残ってるのがエンハンサーってことでいいんじゃない?」


椿姫がまじまじとパネルの絵を見比べた。3枚とも似たような絵ではあるが、しっかりと特徴は捉えている。エンハンサーの絵にしても、バトルスタッフを構えて今にも戦いだしそうな感じがしている。


「で、それが分かって、どうすればいいんだ?」


姫子はこういう謎ときが苦手だ。頭を使うのは悟の仕事だから、悟が言うようにするだけだ。


「そうですね……おそらく、このパネルの上に対応した職業の人が乗るんじゃないんですか? そうすればイルミナの迷宮の扉が開くのかと」


姫子の目線に気が付いた悟が意見を述べた。


「だろうな……。各職、1人ずつ9人集めないと迷宮の入口が開かない仕掛けになってるんだろう」


真が当初思っていたのとは少し違った。MMORPGのインスタンスダンジョンであれば、こういう仕掛けを解く必要もなく、人数制限に引っかかれば『既定の人数に達していないので入れません』というメッセージが出るだけ。どちらかというと、オフラインのRPGにある仕掛けに近かった。


「それは分かった。でも、扉はどこにもないぞ? どこが開くんだ?」


姫子が再度小部屋を見渡した。岩山の中をドーム型にくり抜いただけの部屋。どこを見ても開くような場所は見当たらない。


「おそらく、何もない壁が開いたり……。あッ、この祭壇がスライドするんじゃないですかね? ほら、コの字型の空いてる方に動いて、地下に続く階段が出てくるとか」


悟が閃いたとばかりに言う。


「ああ、なるほどな」


真も悟の意見が正しいと思えた。こういう仕掛けはよくあるパターンだ。一見、どこにも入口が見当たらないが、実はもう見えているというパターン。


「だったら、それぞれ配置について一度に乗るぞ」


姫子の指示にそれぞれが従い、自分の職業に対応するパネルの前に立った。これから迷宮の入口が開く。そう思うと否応なしに緊張が高まってくる。


「いいか? 行くぞ、せーの!」


姫子の掛け声とともに一同がタイミングを合わせてパネルの上に乗った。その瞬間、パネルが白い光を放ち出した。


「な、なんだ!?」


「姫、これで正解なんで――」


悟がそう答えた時だった。視界が急に暗転した。一切の光を感じない真っ黒の闇。それはたった数秒のことだったが、異様に長い時間のようにも思えた。


そして、再び視界が戻ると、そこはさっきまでいた所とは違う、冷たく薄暗い場所だった。


「どこ……、ここ……?」


華凛が不安げに声を上げる。無意識のうちに真の腕にしがみ付いていた。反対側の腕には美月もしがみついているのだが、お互いそのことは意識の外だ。


「これは……ウル・スラン神殿の!?」


真はこの暗転現象に記憶があった。一度体験しているものだ。エル・アーシアのミッションを遂行するために訪れたウル・スラン神殿。


ウル・スラン神殿の入口に立って、どういうのものがトリガーになったか分からないが、急に視界が暗転して、気が付けば神殿の内部にワープさせられていた。今思えば、ウル・スラン神殿の中に入る意志を示したことがトリガーになっていたのだろう。


今回のワープの引き金になったのは、各職に対応したパネルに全員が乗ること。そして、ワープさせられた先は……。


「下水道……?」


美月の声がコンクリートの壁で囲まれた薄暗い空間に響いた。機械的な直線の道には水が流れており、長く伸びたその先は肉眼ではもう見えないほど。


真達がワープさせられてきたのは、作業用に作られた通路の上。コンクリートの冷たい色一色だけの殺風景な世界には、ぽつぽつと浮遊する謎の発光体があった。






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