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ゼンヴェルド氷洞 Ⅴ

(まずはこいつの注意を引き付ける!)


<ソニックブレード>


真が走りながら大剣を振る。剣先から放たれるのは真空のカマイタチ。見えない刃が音速で標的に飛んでいく。狙いは氷牙の白狼ルフィール。


<クロス ソニックブレード>


続けて十字を斬る様にして剣を振り払う。連続して発生したカマイタチがさらに大狼へと襲い掛かっていく。ベルセルクのスキルの中では数少ない遠距離攻撃が可能なソニックブレード。初手や牽制で使える技であり、使いどころは多い。


(自由に動かれると厄介だからな)


氷牙の白狼ルフィールは10メートルはあろうかという巨体。だが、その体つきはしなやかで、白い毛並みは美しく雪風を思わせる美麗さを持っている。それ故に動きは俊敏だろうし、巨体だからたった一歩でも一気に距離を詰められてしまう。そんな奴が乱戦状態にある今の状況で自由に動かれては非常に厄介だ。だからこそ、初手で真がヘイトを稼いで注意を引き付ける必要があった。


<レイジングストライク>


真は大剣を構えて一気に飛び出した。猛禽類が獲物を襲うかのような鋭い攻撃で飛びかかる。今度の狙いは大精霊シルディア。


(こいつはタゲを取ったところで厄介だろうな……)


『タゲ』とはターゲットの略。MMORPGでは敵からターゲットにされることを『タゲを取る』と言う。ボスは二体いるため、氷刃の白狼ルフィールだけを攻撃というわけにもいかない。ルフィールは従者だという話だ。だったら、大精霊シルディアの方が格上ということになり、危険度も上だろう。そして、真の経験上、こういう敵は遠距離攻撃や広範囲に広がる強烈な攻撃をしてくる。


レイジングストライクは一気に敵との距離を詰めることができるスキル。それは、逆に言えば敵の射程内に入るということにもなる。


ルフィールは前足を大きく上げて小賢しい虫を叩き潰すように氷の地面へ叩きつけた。


(奥へ!)


真は碌にルフィールの方も見ずに氷洞の奥へと向かって走った。敵の懐に入った時点で攻撃を仕掛けてくるのは想定済み。しかも、戦闘の開幕で仕掛けてくる攻撃で大技を使ってこないのも想定の範囲内だ。


シルディアとルフィールの間を駆け抜けたところで真が足を止めて振り返った。大剣を構え直して敵が攻撃を仕掛けてくるのに備える。


(これで向こうに攻撃が飛んでいく可能性は少なくなるだろう)


真が位置を取った場所は広場の奥。『ライオンハート』や美月達が戦っている方とは反対側で、シルディアとルフィールはそちらに背を向ける形になる。


すぐさま攻撃を仕掛けてきたのはルフィールの方だった。案の定一瞬で距離を詰めてきて鋭い爪が真へと襲い掛かってきた。これを横に飛ぶことで回避。


(ドレッドノート アルアインよりは小さい分、大きく避けなくていいが、速さはこっちの方が上か)


巨大なモンスターとの戦闘で一番問題なのが敵の攻撃範囲の広さだ。ただ腕を振るわれただけでも、大きく回避行動を取らないと当たってしまう。そのため、攻撃に回ることよりも回避する方に比重を取られてしまうのが難点なのだ。


しかも、今はもう一体も同時に相手をしている。当然のことながら、シルディアの方も片手を掲げて真の方へと狙いを定めていた。


数瞬の間を置いてシルディアの手から巨大な氷の槍が突き出してきた。シルディアと真の距離は15~16メートルは開いているのだが、その距離をものともせずに巨大な氷槍が真目がけて伸びてくる。


(うわっと!? 予想通りだけど、急に来られると焦るな)


ルフィールの攻撃を避けたところに伸びてきたシルディアの氷槍。こういう遠距離攻撃をしてくることは想定済みだったが、巨大な狼を相手にしながらとなると回避行動も一苦労だ。


(氷の射程範囲は30メートルってところか)


避けた巨大な氷槍の先を目線で追いながら目算する。一直線に伸びた氷の槍は洞窟の広場のさらに奥にまで届いていた。


これがもし、ゼンヴェルド族と戦っている乱戦状態のところに向けられていたとしたら。考えただけでもゾッとする話だ。だからこそ、真はこの位置取りをした。ボスの前方範囲攻撃が仲間の方へと向かないように、ボスの注意を反対方向へと向ける位置取りだ。


(先に処理するべきは狼の方だな)


ボスが複数いるときの対処方法は基本的に弱い方から片づける。強い方に攻撃を集中して、長い時間複数の敵を相手にするよりは、さっさと数を減らしてしまうのがセオリーだ。


(とは言っても、巻き込めるなら両方巻き込んでおきたいな)


<イラプションブレイク>


真が跳躍し、シルディアとルフィールの間にある氷の地面に大剣を叩きつけると、地面がひび割れ、波紋にように広がった。次の瞬間、ひび割れた地面から灼熱の溶岩が噴き出すと青い氷の洞窟を真っ赤に染め上げた。


イラプションブレイクはベルセルクが持つ範囲攻撃スキルで、ベルセルクには珍しく属性が付与されたスキルだ。しかも、炎属性の攻撃であるため、氷の世界にいるモンスターには効果てきめんだろう。


だが、シルディアもルフィールも怯んだ様子は微塵も感じさせない。何事もなかったかのように真を目がけて攻撃をしかけてくる。


ゲームではボス格の敵は攻撃を受けても怯まないものが非常に多い。それはこのゲーム化した世界でも例に漏れず適用されている。そのため、弱点攻撃であるはずの炎属性の攻撃を受けても一切怯むことはない。


<ソードディストラクション>


幾度となく経験していることであるため、真も容易に攻撃を回避し、次の一手を打つ。


再度跳躍し、体ごと一回転させるように斜めに大剣を振るう。その斬撃から顕現したのは破壊の権化ともいうべき凄まじい衝撃。空間ごと震撼される破壊の衝動が氷洞を暴走する。


ソードディストラクションはベルセルクのもつ範囲攻撃スキルの中では一番攻撃力が高い。しかもスタンの効果まで付与されているため使いどころは多いのだが、再度使用するまでに時間がかかるのが弱点だ。ただ、ボス格の敵には当然スタンは効かず、シルディアもルフィールも攻撃の手を止めることはなかった。


(挟まれてる状況はまずいよな……)


シルディアとルフィールの両方を攻撃範囲に入れるために、両者の間に入って攻撃スキルを放ったが、この位置だと挟撃されることになる。そうなると回避も困難になるため、真はことで一旦後方に退いた。


「うおっ!?」


敵の攻撃が一方向から来るように位置取りをしたところに、すかさずルフィールの牙が襲ってきた。ドレッドノート アルアインの時もそうだったが、大口を開けて噛みついて来られるのは非常に怖い。実際にこの攻撃を受けて真が死ぬようなことはありえないのだが、だからといって巨大な牙と口に襲われてもいいとはならない。


「てめえ!」


<スラッシュ>


凶牙を寸でのところで回避した真は体勢を整えるやいなや踏み込みからの斬撃を放った。巨大なモンスターの特徴として攻撃が大振りなところがある。今やってきたような噛みつき攻撃にしても動作が大きく隙が大きい。そこに大剣を振りかざす。


<シャープストライク>


振り下ろした大剣から切り返す刃で素早い二連撃をおみまいする。シャープストライクはスラッシュから派生する連続攻撃スキルで間髪入れずに攻撃を出すことができる。


そして、もう一撃。シャープストライクから続く連続攻撃スキルを放つ。


<ルイン――


「っがは!?」


真がルインブレードを発動させようとした時だった。ルフィールの巨体から突如、氷の槍が突き出してきて、真に直撃した。


(ルフィールの身体から氷が生えてきた……!? いや、違う……これはシルディアの攻撃だ)


一見するとルフィールの身体の中から氷が生えてきたかのように見えるがそれは違う。ルフィールの身体を貫通して巨大な氷槍が突き出してきたのだ。


(くそっ……、これは厄介だな……)


ルフィールの身体を貫通してきのはシルディアの氷槍。真から見て、シルディアとルフィールが正面を向くようにしたことによる弊害。ルフィールの巨体が真の視界を遮り、シルディアが見えなくなってしまっている。そのため、シルディアの動作が見えず、ルフィールの身体を貫通してきた氷槍の直撃を受けてしまったのだ。


相手はゲーム化した世界の存在。お互いの攻撃に当たって同士討ちをするようなことはない。敵同士の攻撃が当たっているように見えていても、ゲームでは当たったという判定はされない。例外として、敵同士の攻撃をぶつけて攻略するようなゲームもあるが、そうでない限りは今のようにお互いの攻撃がすり抜けてしまうのだ。





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