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合同ミッション Ⅳ

王都グランエンドを出発した『ライオンハート』を中心としたギルドの連合部隊はまるで列車のように馬車を連ねて進んでいく。


天候は晴れのち曇り。雨が降ることもなく、ただ移動するだけの旅程は何も問題になるようなことは起こらない。強いて言うとすれば、真達の乗った馬車では咲良がムスッとした表情で何も話をしようとしないことくらい。1日目の移動はこうして終わりを告げた。


2日目の移動も一日目と大して変わらない。変わるとすれば、空模様が曇りから晴れに変わったことくらい。本当に何事もない馬車の旅。


センシアル王国領が追加されてから馬車が使えるようになり、馬車での移動が増えた。単純に移動時間を短縮できることと、いくら体力が増強されたゲーム化世界とはいえ、数日歩き続けるのはやはり疲れる。しかも、目的地に着けばそれでいいというわけではなく、目的地に着いてからが本番であるため、馬車での移動はすでになくてはならないものになっていた。


馬車が使えなかった頃は歩いて狩場にも行っていた。それが当たり前だったが、便利な物を使えるようになると基準がシフトしてしまう。お金がかかるから馬車を使わずに歩いて行こうなどとはもう思わない。


そうこうしているうちに目的地である雪山モードロイドの麓にあるブラウという村に辿り着いたのは西日がきつくなってきた頃間だ。


「予定よりは早い到着となったが、今日はこの村で一泊する。明日の早朝にはモードロイドのベースキャンプへと向かう」


ブラウ村の入口で整列をしている『ライオンハート』の連合に向かって時也が声を上げる。これだけの人数を動かすにはかなり統率ができていないと困難ではあるが、時也は難なくやってのけている。そもそも子供の集団ではなく、大人で、ミッションに対しても意識を持っている人達の集まりであるため、こんなところでグダグダするようなことはないが、それでも時也の手腕が光っていることは感じ取れた。


「モードロイドに入れば徘徊するモンスターの強さも上がる。『ライオンハート』の第一部隊を先頭に進む。第三部隊はベースキャンプ部隊と補給部隊の掩護、第二部隊は後方の防衛だ。ベースキャンプまではこの隊列で行く。早朝から移動すれば夕方までにはベースキャンプに着く予定だ。以上、質問はあるか?」


時也の声が響く。事前に何度も説明を受けており、各部隊のリーダーも確認をしている事項。今更質問が出るような要領の悪いことはしていない。


「質問がないのであれば各自解散してくれ」


時也の号令で緊張が途切れ、各自が雑談をしながら野営の準備へと取り掛かる。軍隊とまではいかないにしても手際よく手を動かして、各部隊のリーダーは的確な指示を出している。


「蒼井君、皆で村を見て行かない? この村はねジビエ料理が美味しいんだよ!」


椿姫が真達に声をかけてきた。隣には相変わらず不機嫌そうな咲良がいる。おそらく椿姫に無理矢理連れてこられたのだろう。


「ジビエか、いいな! って、いいのか? ミッション中だろ? みんな野営の準備してるし」


元々肉類が好きな真。世界がゲーム化されたことで牛鳥豚以外にも羊や山羊、鹿といった肉も口にするようになり、今はジビエにハマっている。だから、山の麓で食べることができるジビエ料理には非常に興味があったが、今はそれどころではないはずだ。


「いいのよ。野営の準備には人手が足りてるしね。それに、私達の役割はサポートじゃなくてミッション遂行だから。役割分担があるのよ」


愛想よく椿姫が言う。ミッション遂行の中心は総志が率いる『ライオンハート』の精鋭部隊。特に真達が所属することとなった第一部隊だ。その第一部隊が円滑にミッションを遂行できるように『ライオンハート』以外にも多くのギルドが協力体制を取っており、数多くの人が物資の準備や運搬、その他雑用を担ってくれている。


「まぁ、そういうことなら、今のうちに英気を養っておいてもいいか」


これから先、一番重要な役割を担う真は何も気負うことはないのは事実だった。雑用をしてくれている人も、ベースキャンプまで行けば荷物を渡して帰るわけだから、仕事を奪うようなことをする必要もない。


「そういうことなのよ。だから気にしなくても大丈夫」


自分より年が上の人達も雑用をやっているが、もう慣れている椿姫は何の気兼ねもないようだった。


「改めて思うけど、本当にしっかりと段取りが組まれてるわよね……。なんていうか、プロの仕事っていうか……」


美月がしみじみと思い返す。自分たちの今までやってきたことがいかに行き当たりばったりであったかを思い知らされる。


「うん、そうだよね。『ライオンハート』の精鋭部隊にいる人って元社会人の人が多いからさ。こういう段取りは得意なんだよね。私や咲良じゃ、とてもここまで思い至らないけど、特に時也さんはすっごい仕事ができる人なんだよね」


「あの人は確かにスケジュール管理とか得意そうだな」


時也が眼鏡を直す仕草を思い出しながら真が笑みを浮かべる。何もかもきっちりと計画通りに進めないと気が済まないタイプなんだろうと想像していた。


「スケジュールとかは紫藤さんも厳しいよ。元自衛隊だって話で、特に時間厳守は徹底してるからね。時計もないのにどうやって厳守すればいいか分からないから、紫藤さんより先に行動をしておかないといけないのよね」


ははっと苦笑いを浮かべながら椿姫が応える。


「総志様は体内時計が完璧に機能してるから、時計なんかなくても時間を把握することができるのよ! それに太陽の位置から時間を割り出すことなんて総志様にしてみればお遊戯くらいに簡単なことなの!」


黙っていた咲良が総志の話になって思わず口を挟んでしまった。以前、咲良は総志から自衛隊にいた時のサバイバル訓練の話を聞いたことがあった。時計や磁石を持たずに時間通りに目的地に辿り着く訓練をやったことがあるとのことだ。


「紫藤さんって自衛隊の人だったんだね。何かすっごい分かる気がするわ。命がけで皆のために戦うんだから、警察官かなって思ってたけど、自衛隊だったか」


咲良の話を聞いた翼が合点がいったというように声を上げた。


「警察官は剣崎さんの方だね。あの人、殺人事件を担当する部署に居たんだって。たまにすっごい怖い顔する時があるんだけど、やっぱり仕事の影響もあるんだろうね」


椿姫が補足の説明をする。咲良が歯向かえない3人の人間の中の一人が剣崎晃生だ。普段はいい加減なところがあるにしもて、気さくで優しいが、一旦怒らせると一番怖いのが剣崎だった。


「そういう人達が中心にいるから、これだけしっかりとした集団行動ができるようになるんですね……」


彩音が感心したように言う。エル・アーシアの探索にテントも持たずに出かけた思い出が懐かしい。


「え、でも、同志彩音だってミッションを成功させてきたんでしょ? やってることは似たようなものじゃないの?」


椿姫が首を傾げて質問をする。『ライオンハート』ほど統率が取れた連合を作ることはできないにしても、ミッションの遂行に当たってはそれなりの組織は出来上がるはずだ。エル・アーシアにもそういう大きなギルドがあると聞いたことがある。


「私達は……なんていうか、ここまで準備する前にミッションを終わらせてたって言いますか……あっ!? 同志じゃありませんから!」


「準備する前に終わらせるって……? そっちはドレッドノートなんとかっていうドラゴンが出てきたんでしょ? 『インヴィジブル フォース』っていうギルドが中心になってたんじゃないの?」


同志であることの否定はスルーして椿姫が質問を重ねた。椿姫が知っている情報と食い違っていることに疑問が生じる。


「ああ、『インヴィジブル フォース』ていうのは都市伝説みたいなもんなんだよ。実際には存在しない、噂だけの組織だ」


真が少し呆れた表情で応える。エル・アーシアで人知れずミッションを遂行してきた見えない謎の組織があるという噂。しかもその組織は国が秘密裏に作った特殊部隊であるとのことだ。その正体が真達のことだったというのはつい最近判明したこと。意図せず噂の原因になっていたことに苦笑するしかない。


「だったらどうやってミッションやドラゴンを倒したの?」


『インヴィジブル フォース』は存在しない噂だけの存在。それが分かったところで、余計に謎は深まる。だったら、誰がどうやってミッションや巨大な化け物を倒してきたというのか。


「大体は真がやったことだからね。それこそ、真がどうやってあんな化け物を倒したかなんて私達にも想像つかないのよ」


「おい、翼ッ!?」


真が慌てて翼を制しようとする。真自身は自分力のことをあまり知られたくはない。どう説明していいものかも分からないし、説明をしたところで理解してもらえるとも思えないことだからだ。


「いいじゃない、ここで隠しててもどうせすぐに分かることなんだから」


真が自分の力のことを隠していることは翼も分かっている。だが、ここで隠しておいてもいざ戦闘になったらすぐに露呈することになる。それに、これから一緒に戦う仲間にはどれだけの力を持っているのかを把握しておいてもらう必要もあった。


「大体は蒼井君がやったっていうのは……その……どういうこと……?」


翼の言っていることの意味が分からず椿姫が聞き返す。真が中心となってミッションの遂行やドラゴン退治をやったのだろうが、他にどれだけの人が関わっていて、何人で挑んだのか。今の話で登場してきたのは真だけしかいない。


「だから、ほとんど真一人がやったことなのよ」


「えっと……ごめん、それはちょっと信じろっていうのは……無理かな……」


冗談で言っているわけではないということは椿姫にも理解できたが、それでも話があまりにも突拍子もない内容だ。総志が認めたという実力はあるのは確かだろうが、それでも限度というものがある。ふざけているわけではないにしても、妄言のような内容に椿姫には少し不安を感じた。


(こいつら馬鹿じゃないの? どうしてこんな妄想垂れ流しの連中が第一部隊なのよ!?)


横で話を聞いていた咲良が眉間に皺を寄せている。まさかとは思うが、総志がこんな与太話を信じたわけではないだろう。そう思うからこそ、余計にこんな大ぼら吹きが精鋭中の精鋭として一緒に行動することが納得いかなかった。







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