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合同ミッション Ⅰ

『ライオンハート』が主催する決起集会が終わってから二週間が経過しようとしていた。


真達『フォーチュンキャット』はその間、特にすることはなく、時也に『ライオンハート』からの連絡が入るまで待機しておくように言われただけである。


王都では何やら忙しそうに動き回っている人がいるが、それはミッションの決起集会に参加したギルドのメンバーだろう。なにやら準備に追われているようであるが、真達は準備について何も指示をされていない。そのため、手持ち無沙汰になってはいたものの、これまでと変わらない生活を送って気持ちを落ち着かせることはできていた。


ただ、一つ今までの生活と違っているのは、泊まっている宿が高級な部類に入る宿であるということ。それは、連絡が取りやすいようにと『ライオンハート』が手配してくれた宿で、真達は無料で宿泊をしている。


いつもは野宿か安宿で過ごしている真達からしてみれば、絨毯が敷かれ、ふかふかのベッドに豪奢な調度品が置いてある部屋は夢のような空間であった。


とは言っても日々の食べる分は稼がないといけないことには変わりなく、その日もいつも通りに狩りへと出かけ、夕方になるまで王都周辺のダンジョンへと獲物を求め、疲れて帰ってきたところであった。


「なんか、貴族なのか狩猟民族なのか分からない生活をしてるよな……」


泊まっている高級宿の廊下を歩きながら真が嘆息する。赤黒い髪の毛をかき上げつつ、掃除が行き届いた奇麗ない宿内を見渡す。


「まぁ、流石に日々の生活費まで出してくれとは言えないもんね」


美月が同意しつつも苦笑している。以前、『ライオンハート』の決起集会で呼ばれたホテルに比べれば格段に下の宿ではあるが、それでも安宿か野宿かの選択肢しかないことに比べれば文句をいうのはお門違いだろう。


「軍資金はこれに使っちゃったしね」


華凛が自分の着ている王国騎士団式ローブの裾を摘み、皆に見えるように上げている。


「それでも100万Gだからね。文句を言ってる真は罰が当たるわよ」


翼も自分の着ている王国騎士団式戦闘服を見ながら言う。ずっと欲しかった装備を買えるだけの資金をくれたのは『ライオンハート』だ。それに文句を言うのは本当に罰が当たるのではないかと思う。


「別に俺は文句を言ってるわけじゃねえよ! 元々は俺らが払った税金から出てるって紫藤さんも言っただろう。それに、『ライオンハート』が着てる装備の方がずっと格上だろ!」


不意に攻撃を受けたかのうように、翼から責められた真がなんとか反論をする。真としても文句を言いたいわけではない。たまたま思ったことを口にしたら文句を言っているように聞こえただけだ。


「確かに、あの装備が更に上の物だっていうのは見ただけでも分かりますよね」


彩音も『ライオンハート』のメンバーが着ていた装備は気になっていた。特に会議が終わってから話しかけてきた二人が着ていた物。あれは一体どうやって手に入れたのだろうか。詳細は分からないが、支配地域を持っているということの恩恵の一つであることは想像に難くない。


「なんか、ああいうのを見せられると、ちょっと気に障るわよね……」


嫉妬のような苛立ちに華凛が眉を顰める。自分たちが海賊退治などをして一生懸命お金を貯めていてもなかなか買うことができなかった王国騎士団式装備。それを優に超えているであろう装備を着ている。しかも見た目で格上だと分かる。性能云々よりも見た目で格下扱いされるのは腹が立つ。


「そら、相手は対人戦エリアで要塞を取ったギルドだからな。しかも今は二つも持ってるだろ。それくらいは問題なく揃えてくるさ」


真には大体どうやって手に入れた物なのかは想像が付いていた。対人戦エリアで要塞を所有しているギルドには税金収入以外にもレアアイテムが支給される。おそらくは攻城戦管理局からの支給だろう。だから一般人には絶対に手に入れることができないのだ。とはいえ、装備に関していえば、真は見た目を王国騎士団式装備にしているだけで、中身はインフィニティ ディルフォールメイルなどの最強装備。これは、支配地位を持っていても絶対に手に入らない別次元の装備だ。


「ねえ、噂をすれば……あれって『ライオンハート』の人だよね? えっと、確か七瀬さんと椿姫さん……?」


美月の視線の先には泊まっている部屋があり、その前に二人の女性が立っていた。一人は小柄で栗色のツーサイドアップ。こちらは七瀬咲良だ。もう一人はボブカットのエンハンサー、椿姫。


「あ、やっと戻ってきた。待ってたんだよー」


椿姫が真達を見つけるやいなや声を張り上げて手を振る。


「どこをほっつき歩いてたのよ。ミッション中だっていう自覚はあるの?」


腕を組みながら苛立った声を出しているのは咲良だ。


「そっちが一緒にミッションをやってくれって頼んできたんでしょ?」


咲良の鼻につく声に苛立ちを見せたのは華凛だった。相手は明らかに年下。そんな年下の少女に文句を言われる筋合いはない。


「ちょっと華凛さん……」


そんな華凛を彩音は何とか宥めようとするが、お互いが睨み合った状態を解除することができない。


「咲良、あんたね、これから協力していく仲間なんだからもっと言葉には気を付けないさい!」


「ふんっ」


椿姫が注意をするが、咲良はそっぽを向くだけで反省の色はない。華凛から視線は外れたものの、華凛の方は睨んだままだ。


「ごめんね、この子も悪気はないんだけどさ……。紫藤さんのことでヤキモチ妬いてるのよ」


「別にヤキモチとかそんなんじゃないから!」


「でね、今日は話があって来たんだど、大事な話だからさ時間もらってもいいかな?」


咲良の抗議は完全にスルーして椿姫が話を進める。


「ああ、構わないよ。俺たちも今日はもう休むだけだからな」


「蒼井君ありがとうね。あ、そうそう、ちゃんと自己紹介してなかったよね? 私は和泉 椿姫。こっちのヤキモチ妬きが七瀬 咲良ね」


「だから、別にヤキモチは妬いてない!」


揶揄われたような気がして咲良が不貞腐れたまま声を上げているが、そのことについて誰も取り合ってくれない。


「あ、私は真田――」


「大丈夫よちゃんと覚えてるから。真田 美月さんでしょ。椎名 翼さんに橘 華凛さん。それに同志八神 彩音さん!」


美月が自己紹介をしようとしたところに被せるようにして椿姫が名前を言う。


「ど、同志じゃ、あ、ありません!」


彩音が必死の抗議をするが、咲良と同じく誰も取り合ってくれない。そもそも、美月や翼、華凛は同志の意味を正確に分かっていない。言葉の通り、同じ志を持った仲間くらいの認識だ。


「覚えててくれたんですね」


美月も彩音のことはスルーをして言葉を出す。時也にメンバーの紹介をされたのは約二週間前の会議の時だ。一言名前を紹介されただけなのだが、椿姫は正確に名前を憶えていた。しかも、彩音に関していえば、いつの間に同志と呼ばれるくらいに仲良くなっている。


「まぁね、ミッションを一緒にやるわけだしさ。しかも、重要なポストを任せるんだから、名前くらいはちゃんと覚えておかないとね」


椿姫がにこやかな笑顔で返す。


「ところで、話っていうのは?」


真が話を進めるように促す。椿木は大事な話があると言っていた。おそらくはミッションのことで話があるのだろう。それは真としても気になるところだ。


「そうだったわね。大事な話があって来たのよ。えっとね、もう予想はできてると思うけど、ミッションのことなのよね。三日後の朝に王都を出発するわ。集合場所は王都の城門前」


笑顔から一転、真剣な面持ちになって椿姫が話を始めた。


「三日後か……急な話だな」


「そうね、準備もしないといけないし……」


真の呟きに対して美月も同調している。今まで連絡がなかったにも関わらず、いきなり三日後にミッションを開始しますと言われても、準備やらなにやらしないといけない。


「準備って何が要るんだっけ?」


翼が考えながら言う。よくよく考えてみれば、準備をすると言っても食料を買いこんだり薪やテントを用意することくらいしかやってこなかった。


「確か雪山に行くんだよね? 防寒装備なら買ってあるよね」


華凛も何をどれだけ準備していいのか分からないまま、取りあえず必要になるであろう防寒着を買ったことは思い出していた。


「あんた達、よくそんなことで生きてこれたわね……。ほんと呆れるわ……。これだけ時間があったのに一体何をしてたのよ……」


真達の呟きを聞いた咲良が溜息とともに嫌味を吐き出す。何も分かってないなというようなジェスチャーも加えて。


「何って、あなた達が待ってろって言ったんでしょう!」


咲良の発言にカチンときた華凛が声を荒げる。華凛もそれなりには修羅場を越えてきたつもりだ。それをまるで素人扱いされている。


「待てって言われてそんまま待ってただけなの? ミッションをやるって言ってるでしょ!」


「コラ! 咲良! 失礼なことを言わないの! 彼らにはこっちから協力をお願いしてるのよ、立場を弁えなさい!」


椿姫が叱り声を上げるが、咲良はそっぽを向いてしまい、反省の色は微塵も感じられない。


「いや、あの……咲良さんの言うことももっともだと思いますよ……。私達もミッションをやるんだっていう認識を高く持っておかないといけなかったと思います」


場の空気が悪くなってしまったため、彩音が慌ててフォローに入った。彩音としても咲良が言っていることは正論だと思うし、反論するつもりもない。


「ごめんね、この子こうなるとしばらく言うこと聞かないからさ……。でも、同志彩音にそう言ってもらえるとこっちも助かるわ。ありがとう」


「ど、同志じゃありませんから!」


同志と言われて必死に否定するが、椿姫は『分かってるから』というような表情で、笑って彩音の肩を叩くだけ。


「あ、それと、準備のことなんだけどね。『フォーチュンキャット』は装備だけ整えてくれればいいわよ」


表情を戻した椿姫が真と美月の方を向いて話を続けた。


「装備だけって……食料はどうするんだ? ミッションがどれけの時間がかかるかも分からないだろ?」


疑問の声を上げたのは真だ。装備だけ整えるのであれば、既に準備は万端と言っていい。


「それは大丈夫。食料やテント、薪や各種補助薬品、防寒装備にその他雑貨類の諸々は全部こっちで用意してるから」


「えっ!? そうなのか?」


「そうなのよ。だから皆は三日後に王都の城門前に来てくれたらいいのよ。で、目的地がモードロイドっていう雪山なんだけどね。先遣隊がキャンプを張ってるからまずはそこに向かうわ」


「先遣隊って、もうミッションを進めてるのか!?」


「まぁ、先行調査ってだけなんだけどね。先遣隊がキャンプを張っている先はさすがに危険だから、本隊である私達が引き継いで調査に行くのよ」


「ああ……なるほどな……」


真が感嘆の声を漏らす。自分たちがやっていたミッションのやり方とはまるでレベルの違う本格的な計画。準備や調査など『ライオンハート』が主導しているミッションは綿密に練られている。それを考えると、今までの真達の行動はまるで児戯にも等しいように思えてきた。






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