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決起集会 Ⅳ

『ライオンハート』の決起集会もとい、会議は最初に波乱があったものの、総志の考えに従うという形で決着が付き、その後は順調に進んでいった。


「議題は以上だ。何か質問がある者は?」


時也が周りを見渡して言う。テキパキと司会進行をしていたため、無駄な議論になることはほとんどなく、時間の節約にもなっていた。


「特にないようであれば、これで終了する。各自解散してくれ」


時也の言葉と同時に『ライオンハート』のメンバーは立ち上がり、各々に会議室を退室していく。各自の行動も非常に速い。指示があればすぐに行動をする。まるで軍隊にでもいるような感覚に、まだ座っていた真達は慌てて席を立った。


「なんか……大事になってるな」


ぞろぞろと退室していく『ライオンハート』のメンバーを見送りながら、真がぽつりと呟いた。


「ミッションって本来はこういうものなのかもしれないね」


少し疲れた表情をしている美月が真に言う。緊張感のある場の空気に精神的な疲労が溜まっているようだった。肉体的な体力はゲーム化の影響で増強されているが、心的疲労については以前と変わりない。


「たしかにそうかもしれないな……。いかに俺たちが無茶なことをしてきたかってことなのかもな……」


真が今までのことを思い返す。真はレベル100の最強装備だから無茶を押し通してこれた。


「真がいればそれでなんとかなってたからね」


腕を組みながら翼が呟く。真の圧倒的な強さがあったからこそ、ミッションも巨大なモンスターもなんとかなってきたのだということを改めて思い知らされる。


「でも……危ない場面もありましたよ……」


彩音が不安げに言葉を漏らした。下手をすれば真が死んでいたかもしれないという局面は確かにあった。そうなれば、全滅していただろうし、そもそも、彩音自身も真と出会っていなければ今こうして生きているかどうかも分からない。


「そうなの……?」


少し驚いたような声を出しているのは華凛だ。華凛は真の驚異的な強さしか見てきていない。ドレッドノート アルアインという巨大なドラゴンを一人で倒せるくらいの真に危ないなどという場面があったとは想像ができない。


「……死んでたかもしれないっていうのは……ある」


真が経験した中で死んでたかもしれないというのは3回ある。一つはグレイタル墓地でゾンビの攻撃を受けていたらどうなっていたかということ。もう一つは彩音と木村が喰らったカエルにされるミーナスの攻撃。これを真が喰らったらカエルにされて喰われていただろう。そして、エル・アーシアのミッションの期限を超過した場合。


この世界ではレベルが100であっても、装備が最強であっても関係なく死に至らしめる罠がある。圧倒的な強さを持っていたとしても、全く別次元の問題で殺されてしまう危険性があるのだ。


「…………」


美月が黙って真の方を見つめる。その目には不安や心配、心咎めるような色が滲んでいる。


「ねえ、ちょっといい? 話があるんだけど」


しばしの沈黙を割るように少女の声が入ってきた。どこか鼻につくような声をしているため、真達の意識は声の主へと向いた。


振り向いた先にいるのは栗色の髪の毛をツーサイドアップにしたアサシンの少女だ。白い制服のような軍服には黒いラインの縁取りがあり、ところどころで金属の装飾が付けられている。基本的な形は美月たちが着ている王国騎士団式装備に似ているが、少女の方が明らかにランクが上のように見える。小柄な少女だが、奇麗な顔立ちからよく似合っていた。


「えっと……たしか、七瀬さんだったかな?」


美月が少女の名前を確認する。この少女はなにかと総志に怒られていた少女だ。会議室に入ってきた途端、声を上げていたのもこの少女だった。強者揃いという感じの面子の中にいた少女だから目立ってはいた。


「ええ、そうよ。で、私は話があるって言ったんだけど!」


目つきを厳しくして七瀬が言う。何やらかなり苛立っているのが分かる。おそらく年は美月より下のようだが、そんなことはお構いなしと言わんばかりにご立腹のようだ。


「話って……?」


何をそんなに怒っているのだろうかと、美月が不思議に思っていたところに別の声が割り込んできた。


「咲良! ちょっとなにやってんのよ! あ、ごめんねー。うちの咲良が失礼なことしてるみだいで」


割り込んできたのはボブカットの若いエンハンサーの女性だった。年齢は美月たちよりも少し上のような気がする。20歳になっているかどうかというくらいか。着ているのはこちらも七瀬咲良と同様の装備。違うところは、エンハンサーの女性の脚装備が黒いミニスカートとニーソックスで、咲良はショートパンツというところ。


「椿姫さん!? なんですか? 私はこの人たちに用があるんです!」


急に止められたことに不満気な表情で咲良が返した。


「話っていってもどうせ紫藤さんのことでしょ? 咲良も懲りないわね……」


椿姫と呼ばれたエンハンサーの女性が困ったような顔をしている。咲良が何の話をしようとしているのかが容易に想像できたからこそ、不毛なことは避けたかった。


「こ、懲りないって何ですか!? 私は総志様のために生きてるんです!」


「で、話ってなんだ?」


業を煮やした真が声を出した。聞きたくはないが、取りあえず話を聞かないことには開放してもらえそうにもない。


「そうよ、話があるのよ! 特にあなた、蒼井真! あのね、『ライオンハート』の第一部隊っていうのは、総志様の横に立つことを許された精鋭中の精鋭なの。葉霧さんや剣崎さんがいる部隊なのよ! 今までだってすっごく強い人たちが第一部隊に配属されてきたの。命を懸けて戦ってきた英雄が第一部隊に入れるのよ! それなのに、ぽっと出のあなたみたいなのに入られたら『ライオンハート』の士気に関わるのよ!」


真に促されたとはいえ、咲良はまくし立てるようにして言葉を出していく。要するにいきなり出てきた人間に重要なポストを取られることが気に喰わないのだ。


「それは、もう納得したんじゃないのか? 剣崎さんっていう人も言ってたし、その人も第一部隊に居る人で、納得してるんだろ?」


真が会議の内容を思い返しながら言う。会議で剣崎が言ったように、遊びでやってるわけではないのだから、力のあるものが第一部隊に入るということで決着が付いている。


「そ、それだけじゃないわよ! あなたね、総志様の横に座れたからって、気に入られてるとか思わないでよね! ゲストだから横に座らせてもらっただけだから! あなたみたいな女に総志様は興味がないの!」


咲良の声は更に大きくなっていた。咲良の横にいる椿姫も苦笑いをしている。どうやら咲良の本音は真が総志と近いところに居たことが気に喰わないのだ。だが、咲良は一つだけ大きな間違いをしている。


「俺は男だぞ」


「…………えっ!?」


真の一言に咲良が目を丸くしている。想定外の回答に戸惑い、どう返事をしていいか分からない。


「えっと……蒼井さ……蒼井君は男性なの?」


質問をしてきたのは椿姫の方だ。咲良はまだ目を丸くしている。


「ああ、俺は男だが」


「ええ、真は男性ですよ」


真の返答に合わせて美月も証言をする。初めて会った時に真を女性だと思っていた美月からしてみれば、二人の驚きはよく理解できるところだった。


「ゴホンッ……えっと、男の子なら……その、まぁ――」


「えーーっ!? 蒼井君って本当に男性なの!?」


咲良が何かを言おうとしていた時に、椿姫が大声を上げた。その声はどことなく歓喜の声のように聞こえる。


「あ、ああ、そうだけど」


「えっ、ちょっと、これってマジ!? 紫藤さんと蒼井君の組み合わせって、ええっー!? そんな、葉霧さんもいるのに、ええーどうしよう。うわぁー、捗るわーーー!」


何やら急にテンションを上げた椿姫に真は若干引き出した。


「つ、椿木さん。ちょっと何ですか? 落ち着いてください!」


椿姫のテンションに不安を覚えた咲良が何とか制止しようと試みる。椿姫がたまにこういうテンションになることは知っている。だが、なぜ今こんなにテンションが上がっているのかが分からない。


「これが落ち着いていられるわけないじゃない! 咲良、ちょっと耳貸して」


「な、なんですか……?」


訝し気な表情を見せながらも咲良は椿木の方へと耳を傾ける。そこに椿姫が顔を近づけた。


「いい、咲良。蒼井君は女の子みたいだけど、男の子なんだよね。っていうことはさ、紫藤さんと……ゴニョゴニョ…………」


「ちょっ、っちょっと!!! な、ななななな、なに、なにを言ってるんですかっ!? お、男同士ですよ!!!」


顔を真っ赤にした咲良が動揺しながらも必死に声を上げる。その様子に、美月や翼、華凛は訳が分からないといった様子だ。


「咲良ちゃん、どうしたのよ、顔が真っ赤よ? ねぇ、こういう妄想って捗らない?」


椿姫はニヤニヤして咲良に話している。


「捗りませんッ! そ、総志様が、そ、そんなこと……」


咲良の顔はまだ真っ赤な状態だ。それを面白がって揶揄っているのが椿姫だ。ただ、椿姫は面白がっているだけではなく、本当に自身の趣味趣向が色濃く出ている。


(こいつ腐ってやがるな……)


真が椿姫を見ながら心中で呟く。美月たちはどうやら理解していないようでよかったが、椿姫のように男性同士の恋愛に興味を持っている腐女子という人種を真は知っている。


「あ、あの……どんな話をされてたんですか……?」


何故か興味津々といった目つきをしている彩音が椿姫の方へと話しかけた。


「お前も腐ってんのかよ!?」


「い、いえ、ち、違います! 違います!」


思わず声を上げてしまった真に対して、彩音は両手を振りながら必死で否定をする。だが、椿姫の目には同志としての彩音が写っており、真の目には呆れた色が伺える。


彩音にとって救いだったのは、この時点でもまだ美月や翼、華凛が理解をしていないということだった。










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