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決起集会 Ⅰ

『フォーチュンキャット』が今回のミッションに参加することを総志に伝えてから、10日後の正午。この日は王城前にある広場でミッション参加の決起集会が行われる日だ。


王都グランエンドにの最奥にある、センシアル王国の城。穢れを知らない純白の王城は、その美しさから貴婦人に例えられる。


その王城の正面にあるのが、王城前広場だ。白い石畳が奇麗に並べられ、緑の芝生と大きな木が広場のアクセントになっている。正確に左右対称に作られた王城前広場は、王都の建築技術の高さも象徴している、まさに王城の玄関にふさわしい場所だ。


王城前広場は特別な祭典や式典に使わることが多いが、普段は一般開放されている。ただ、ずっと前からある広場であり、王城前広場のある区画は特別な許可がない限り商売が禁止されているため、普段はあまり人が来ない場所でもあった。


真達がこの王城前広場に到着したのは正午前。正確な時間が分からないので、早い目に着けるように出発したつもりだったが、王城前広場には既に大勢の人が集まっていた。


「うわーっ! すごい、もうこんなに人が集まってる!」


王城前広場に集まった人たちを見て翼が感嘆の声を上げる。ざっと見ただけでも1,000人以上はいる。正確にはもっといるだろうが、多すぎて見える範囲だけでは測りきれない。


「本当だな……。これ全部紫藤さんが声をかけたから集まったのか?」


真も驚いたような声を出している。ここにいるのは全て『ライオンハート』に賛同している者達だ。


「さすがに、紫藤さんではなく、『ライオンハート』の人が声をかけて回ったんだと思いますが、それでも、紫藤さんを信用して、ミッションに参加するためにこれだけの人が集まったんですよね」


ここに集まってきているということはミッションに参加するという意志を持ってきているということだ。これだけの人数をこの短期間で集めることができる『ライオンハート』というギルドの強大さを彩音は改めて感じ取っていた。


「この人数でミッションをやるの!?」


翼が周りを見渡して声を上げた。これだけの人数でやるミッションとはどんな規模のものなのか。そもそも、総志から聞いているミッションの内容から、それほど大規模でやるようなものだとは思っていなかった。


「全員参加するわけじゃないと思うわよ。あくまで決起集会だから、この中から実際にミッションをやる人と後方で支援する人に分かれるんじゃないかな?」


美月が今まで経験したミッションのことを思い出しながら推論を言う。最初のミッションはゴブリン退治。その次がウル・スラン神殿に行ってエルフの巫女を助けること。どちらにしても、数百人規模で身動きが取れるような場所ではない。もっと、少数精鋭でいかないと動きが取れなくなる。


「でも、真君は絶対に参加することになるんでしょ?」


真の方を見ながら華凛が言う。これだけの人数を集めるのには総志ではなく、『ライオンハート』のメンバーが動かないと集めることはできない。だが、真を探してやってきたのは総志と時也だ。『ライオンハート』のマスターとサブマスターが直々に真に話をしに来たということは、ミッションに参加することが予定されているからだろう。


「ま、そうだろうな。俺はそれで構わない。むしろ好都合だ」


ミッションは何としてでもやり遂げないといけないという思いは今も真の中に根付いている。その理由となったものが分からないだけなのだ。分からないというよりは、真は忘れているという感覚の方が近いと思っていた。だが、どうしても思い出せない。


「真はそう言うと思ってたわ。それにしても、ゴ・ダ砂漠出身の人達って前回のミッションもこんなに集まって来たのかな?」


「そうだと思いますよ。むしろ少人数でミッションをクリアしてきた私達の方が異端だと思います」


美月の疑問に彩音が応える。エル・アーシアには真がいたから、これほどの人数を集めなくてもミッションをクリアすることができていた。だから、エル・アーシアから来た人々は誰がミッションをクリアしたのかさえも知らないままなのだ。


その時だった、急に歓声に似たような大きなどよめきが起きた。その歓声は広場の前方に向けられている。真達は人の合間を縫うようにして前の方へと目を向けた。そこには高台の上に上った紫藤総志の姿があった。


「みんな、俺たちの呼びかけに応えてよく集まってくれた。今日はミッションを遂行するためにこれだけ多くの人が集まってくれたことにまずは感謝の言葉を述べたい」


総志の声が広場に響いた。低い声だが声量があり、しっかりとした声色はこの大人数の中でもよく通る。その声に皆が傾聴していた。


「みんなも知っての通り、新しいミッションが追加された。ミッションは世界を元に戻すための唯一の手掛かりだ! これをやらずして世界を元に戻す鍵はない! だからこそ俺たちは命を懸けてミッションを遂行してきた。それは愛する者たちと再び生きて会うためだ!」


総志の言葉は力強かった。誰もがこの声の強さに惹かれ、信用するだろう。この声についていけば間違いはない。そう思わせる声だ。


「ミッションは俺達全員の問題だ! 全員が協力して遂行しなければ成功しない。そして、ここに集まって来たのは勇気あるギルドの面々だ。各々が強い意志を持ち、砕けない心と強さを持っている。だから、俺たちは最強と言われながらも、同盟諸君らに協力を求めてきた!」


総志の声は更に高らかに響く。まるで聞いている者の魂さえも震わせるような声が、広場一杯に溢れる。


「今回のミッションも皆に力を貸してほしい! 俺たちについて来てほしい! この世界を元に戻すために、その一歩をさらに前に進めるために、俺達と一緒に戦ってほしい! 俺が先頭に立つ! 俺が先頭に立つからには誰も死なせない! 生きて、再び、愛する者と会うために、その力を俺に預けてくれ!」


総志の声は最高潮に達する。普段の不愛想な声からは想像もできないような気高く、強靭で、美しい声に聞く者は圧倒される。


「「「うおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーッ!!!」」」


総志の言葉が終わった瞬間、一斉に歓声が上がった。まるで雄叫びのように大きな声が巻き上がる。自分たちを鼓舞するかのように、先頭に立つ総志を称賛するかのように、歓声が青空を突き抜けていく。


「すごい……」


翼の口から思わず声が漏れた。ここまで人心を掌握できるほどの人間だったとは思いもしなかった。


「すごいね……」


美月も呆けたような声を出している。圧倒的なカリスマ性だ。これを聞いただけでもこの人についていこうと思う人は多いだろう。しかも、総志は言葉だけではなく、誰もが納得する成果を上げている。以前、レストランでナンパしてきた男が尻尾を撒いて逃げたのも頷ける話だ。


「真君の方が強いし……」


華凛の呟きは鳴りやまない歓声にかき消されて誰も聞いていない。


「これが『ライオンハート』か……」


噂に聞いていた以上の熱狂ぶりとその巨大さに真も口が半開きのままになっている。


だが、その熱狂もしばらくして治まった。それは、総志の演説が終わったから。その後に続くのはサブマスターの葉霧時也。その後には『ライオンハート』の主要な同盟ギルドのマスターが演説を続ける。


そして、決起集会は1時間弱で終わり、最後に時也から連絡事項についての話があった。


「今日は忙しい中集まってくれてありがとう。最後に連絡しておきたいことがある。『ライオンハート』の同盟ギルドのマスターは明日、日没後に集まって作戦会議を開く。場所は攻城戦管理局の会議室を借りることになった。大事な打ち合わせをするから、必ず来てほしい。それとは別に、『フォーチュンキャット』のメンバーは全員この後話があるから来てくれ。以上だ。これにてミッションの決起集会を終了する」


時也はそう言うと踵を返して退場していった。


「俺達に話がある……?」


真が疑問を顔に浮かべている。これだけのギルドが集まっていて、5人しかいない『フォーチュンキャット』に何の話があるというのだろうか。『フォーチュンキャット』とは桁の違う規模のギルドならいくらでもありそうなものだ。


「明日、ギルドマスター全員が集まるのに、私達だけに話ってなんだろうね?」


美月も呼ばれた理由が分からない。明日話をすればいいのではないのか。


「取りあえず、行ってみましょうよ。呼ばれてるんだし、断る理由もないしね」


翼が素直に従う意志を見せた。先の総志の演説に感銘を受けているような感じがする。


「そうだな。大事な話があるんだろう。断る理由はないな」


真がそう言うと一同が頷き首肯した。








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