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軍資金

        1



次の日の午前、王国騎士団式装備を購入するために、『フォーチュンキャット』のメンバーは揃って、王立武具管理所へとやってきていた。


『ライオンハート』からもらった軍資金100万G。これで高級な王国騎士団式装備を買うのだ。人からもらったお金ではあるが、元は税金だ。真達が狩りで稼いだ金の一部を徴収したものを手渡されている。これからミッションをやろうといのだから、税金の使い方としては間違っていないと真は思っていた。


だから、お金のことは気にしなくていい。それよりも、真は別のことが気になっていた。


「うん、やっぱりいいよね、王国騎士団式ローブ」


美月は試着した王国騎士団式ローブを見ながらご満悦の様子だ。ローブと言っても、単にローブというカテゴリーに入っているだけで見た目は全然違う。王国騎士団式ローブは黒い制服のような軍服に深紅のミニスカート、それに黒いブーツだ。所々、小さいが銀の意匠が施されており、主張し過ぎず、それでいてワンポイントになっている。装備の見た目より性能を重視する真の目から見ても確かに可愛いと思う装備だ。


「でも、少し目立ちませんかね?」


彩音も王国騎士団式ローブを試着しながら言う。ウィンジストリアで購入したシルバーローブも見た目は申し分ない。だが、王国騎士団式ローブは更に見た目が良い。そのことで、目立ってしまうのではないかという懸念があった。


「まぁ、これ着てる人少ないしね。多少は目立つでしょうけど、みんな一緒なんだから大丈夫よ」


華凛が困り顔の彩音に言った。華凛はただでさえ容姿が目立つので、世界がゲーム化される前はそのことで嫌な思いをいっぱいしてきた。ただ、それは独りだけ周りに比べて突出して容姿が良かったことが原因であるため、『フォーチュンキャット』のような美少女揃いのギルドではさほど気にすることでもなくなった。下手をすれば華凛より真の方が注目される容姿だ。


「そうよ、彩音。堂々としてればいいのよ、似合ってるんだからさ。それよりもさ、私のはどう?」


翼が意気揚々と試着した王国騎士団式戦闘服を披露する。こちらはミニスカートではなくショートパンツ。それとブーツ。大まかにはローブと同じようなデザインだが、ところどころ違っている。


「うん、翼も似合ってる。すっごくいいよ」


美月がにこやかに答える。


「ありがとう美月。でも、ローブもいいなって思っちゃうのよね……」


翼はスナイパーなのでソーサラーやサマナー、ビショップ用のローブは装備できない。戦闘服はアサシンと共通の装備になっている。


「翼にはそっちに方が似合ってると思うよ。それに、みんな同じローブっていうのも面白くないからね。ただでさえ、3人が同じ装備なんだから、翼はその方が良いよ」


ローブに目移りしている翼に華凛が声をかけた。確かに活発な印象の翼にはミニスカート姿のローブより、ショートパンツの戦闘服の方が似合っている。


「そうだよ、翼ちゃん。そっちの方が断然似合ってるって。私だったらそこまで着こなせないよ」


彩音もにこやかに意見を述べている。


「そうかな……。それならいいんだけどさ」


少し照れながらも満更ではない表情で翼が返答した。


「なぁ……もういいか?」


真が苛立ちを含んだ声を漏らす。真も王国騎士団式軽装鎧を試着している。あとは購入するだけ。王国騎士団式軽装鎧は黒い軍服をベースに、胸部や肩部は金属で保護されたデザインだ。


「あ、真、ごめんね、もう少しだから」


『もう少しだから』美月はそう言っているが、この言葉はこれで何回目だろうか。


「やっぱり、真君のはボトムスなんだね」


華凛が真の装備をまじまじと見て言う。王国騎士団式軽装鎧の脚部分はボトムスで、膝を守るために金属で補強されたデザイン。男性用なので脚部の露出は全くない。女性用の王国騎士団式軽装鎧だと、脚部はショートパンツに膝を守る金属のガードが付いている。それにブーツを履くという具合だ。


「そうなのよね、やっぱり男性用なのよね……。女性用の装備をした真も見てみたいんだけどな……」


美月が残念そうに呟く。


「着ねえよ!」


真がすぐに反論した。女性用の装備なんて絶対に着ようとは思わない。


「私も見てみたい! 真が女性用の装備着てるところ! 絶対に似合うよね」


翼が面白いものを見つけたような顔をしている。翼が試着している王国騎士団式戦闘服も真なら絶対に似合うはずだ。


「着ねえし、似合わねえよッ!」


(いいから、さっさと買おうぜ……。なんで買う物が決まってて、こんなに時間がかかるんだよ……)


赤黒い髪をかき上げながら真が嘆息する。かれこれ店に来て一時間以上経過している。何を買うのか迷っているのならまだしも、王国騎士団式装備を買うと決めて来ているのに、なぜ、こうも時間がかかるのか。それが真には理解できないでいた。ただ、これを言うとどんな攻撃を受けるか容易に想像できているため、何も言わずに黙って待つことしかできなかった。


それから更に30分弱。ようやく女子たちは会計を済ませて、念願の王国騎士団式装備を購入した。


意気揚々よ王立武具管理所を出る女子たち。ずっと待っていた真もこれで終わったという解放感から、無意識に顔が緩んでいた。だが、それも束の間のことでしかなかった。


「次は防寒具ね」


「ですね」


「良いのあるかしら?」


「まだお金には余裕あるから、色々と見てみましょう」


各々が次の買い物に向けて意識を切り替えているところ。真が唖然とした表情で立ち止まった。


「……そうだった」


防寒具を買う。これは昨日確かに話をしていたことだ。王国騎士団式装備のことばかり注目が集まっていたせいで、真はついぞ失念してしまっていたが、これも買わないといけない。しかも、どんな物を買うのか決まっていない。その事実に真は愕然とするしかなかった。



        2



防寒具を買うのには昼食を挟む必要があった。時間がまるで足りない。今日一日で本当に終わるのかという不安さえも抱いていた真であったが、夕方には何とか買い物を終えることができた。


「疲れた……」


言葉に出したとおり、真の表情は疲弊しきっている。防寒具なんてどれも同じようなものにしか見えない。思わず口にしてしまったことだが、それを言ったところで返り討ちにされただけ。結局、何時間も買い物に付き合わされる破目になった。


「久々に買い物した気分ね」


「そうだよね。これだけパーッと使うとやっぱり気分が良いわよね」


美月の言葉に翼が応える。二人とも非常に満足そうな顔をしている。


「でも、ちょっと遅くなってますし、急いだ方がいいかもしれませんよ」


彩音が少し心配そうな声で言う。今、真達が向かっているのは『ライオンハート』のメンバーがよく行くという店の一つ。昼間はカフェ。夜はバーをやっているところだ。


ミッションに協力することを正式に話をするために今、総志がいるという店に足を運んでいる。


総志がいるところはすぐに知ることができた。『フレンドシップ』のたまり場である『ボヤージュ』に行き、そこにいた『フレンドシップ』のメンバーに『ライオンハート』のメンバーがよく行く店を聞く。その店に行って、『フォーチュンキャット』であることを名乗れば、総志の居場所をすぐに教えてくれたのだ。


「まだ日も沈んでないわよ。夜はバーになるんだから大丈夫よ」


華凛が不安げな顔の彩音に言った。もうすぐ日が沈むにしてもまだ時間の余裕はある。


「いえ、そういうことじゃなくてですね……。私達未成年ですから……」


彩音が心配しているのは、店が開いているかどうかとかいう問題とは別の問題。夜になって本格的にお酒を飲みに客が集まりだしたところに未成年だけで行くのは勇気がいる。


「確かにそうよね。まだ店はカフェとしてやってる時間だと思うから、今のうちに紫藤さんに会って話をしておきたいわね」


彩音の話を聞いて、美月も同じ意見を出してきた。


「ああ……。早く行って、早く話を終わらせよう……」


あまり生気が感じられない真が呻くように言っている。


「もう、真! これから大事な話をしに行くんだからね! もっとシャキッとして! 昨日はあれだけミッションをやるって言ってたじゃないのよ!」


疲れてだらしない顔になっている真に美月が喝を入れる。


「それは、分かってるよ……。ギルドとしてミッションの協力要請を受ける返事をするわけだからな。紫藤さんと会う時は切り替える。ただ、今はちょっと疲れが……」


疲労のため、今はだらしない様子の真だが、紫藤に会って話をする時には、ギルドのマスターとしてしっかりと話すつもりでいる。そのためにも今はエネルギーを温存しておきたい。


「なんで疲れてるのよ? 買い物しただけでしょう」


翼が真に苦言を呈する。今日一日で疲れるようなことがあったとは翼には思えない。


「逆に俺が聞きたいよ。なんでみんな疲れてないんだよ……?」


「だって、買い物しただけだし」


真の質問に華凛があっさりと答える。買い物しただけだから疲れているわけがない。その言葉に美月や翼、彩音も首肯している。


「それが分からないんだよ……」


この話をしたところで、真からすれば1対4の不利な戦い。どう言ったところで、女子連中を論破することはできないだろう。余計に疲れるだけの不毛な戦いは避けた方が利口だ。そう思って諦観した真は総志と話をするために足を前に出すだけだった。





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