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話し合い Ⅱ

「今の話ですと、結論からして『ライオンハート』さんに協力して、ミッションに参加するっていうことでいいと思うんですが、どうですか?」


本調子とはまではいかないにしても、真が元に戻った感じがして、彩音も一安心したというような顔で意見を述べる。いつまでも、真が何を根拠に確信を持ってミッションに参加することが、世界を元に戻す方法だと分かったのかを話し合ってもきりがない。翼が言ったとおり、その話は一旦置いておくのが合理的だ。


「うん、まぁ結論は最初から決まってるんだけどね……。問題はこのミッションにどんな危険が待っているかっていうところなんだけど……」


彩音の意見に美月が同意をするも、やはり問題はミッションを遂行することによる危険性の問題。これを軽視してミッションを遂行するなどできるわけがない。


「そこなのよね……。ミッションをやることに異議はないんだけどね……。そういえば、ミッションの内容ってどんなんだっけ? 何か取って来いっていう話だったような気がするんだけど」


椅子の背もたれに体重を預け、手を頭の後ろに組みながら翼が言う。


「確か、何とかっていう氷の洞窟の奥にある指輪を取って来るのよね?」


華凛は曖昧な記憶を辿りながらミッションの内容を掘り起こしていく。大した内容ではなかったことは覚えているが、だからこそ詳細まで覚えていない。


「たしか、ゼンヴェルド氷洞でしたっけ。雪山の奥にある洞窟だそうです。その奥に『命の指輪』があるとか」


記憶力の良い彩音が詳細まで答える。暗記科目は得意な方だ。


「でも、あれなのよね。ミッションのことで特段制約を課されたっていうことはなかったのよね?」


美月が総志と時也の話を思い出しながら言う。エル・アーシアでのミッションのような制限時間はないということだった。だから、『フォーチュンキャット』が協力に関してどうするのか待つと言ってくれたのだ。


「そこが気になるんだよな……。聞いた話だけで判断するなら、ここに来てミッションの難易度が下がってる……。普通に考えれば、段階的に難易度を上げてくると思うんだよ」


真が腕を組んで考え込んでいる。素直にミッションの内容だけ聞けば、制限時間もなく、相応の準備をして臨めるミッションだ。当然のことながら、簡単ではないだろうが、心理的に焦らされるようなことがない。


「やっぱり、聞いてないことが起こるわよね……」


今までの経験を振り返って美月が言う。この前だって、アンデットの海賊を討伐に行ったら、海賊は巨人族の末裔でしたという事実を現場で知ることとなった。


「ああ、そうだ……。この世界はいつも重要な情報は隠している。提示されている情報に嘘はないが、その情報だけしかないって考えるのは落とし穴にはまりに行くようなもんだな」


グレイタル墓地の時にしろ、ドレッドノート アルアインの時にしろ、嘘の情報は通知されてはいないが、重要な部分は示されずにいた。今回のミッションも同じと考えるべきだろう。


「で、真。その隠された重要な情報っていのうは何なの?」


翼が真の話に疑問を呈してきた。


「それが、分かれば紫藤さんも協力を要請してこないよ……」


「真君はどう思うの?」


翼に続いて今度は華凛が質問をしてくる。


「どうって?」


「予想できることで、真君はどんなことを考えてるのかなって」


華凛はミッションをやった経験がないため、どんなことが想定されるのか予想ができなかった。ただ、なんとなくだが、真なら的確に予想してくれるのではないかと思った。


「あ、それは私も聞きたいです」


彩音が華凛に追従して、真に意見を求めてきた。このミッションでどんなことが起こるのかは分からない。だが、真がどんなことを予想しているのかというのは大変興味があった。


「いや……予想って言ってもな……。う~ん、例えば、氷の洞窟の中に行くんだから、出てくるモンスターは当然氷系のスキルを使ってくるだろうし、炎が弱点のはずだ。あと、足場が氷で滑るとか……」


RPGでは定番の氷の洞窟。足場が滑る罠はよくあるパターンだ。後はツララが落ちてきたり、氷を壊して道を作ったりして進んでいくことが多い。


「足場が滑るっていうのは確かに危ないよね。そんなところでモンスターと戦ったら、被害も大きいだろうし……」


真の予想に対して美月が考える。行く場所は氷洞。歩く場所も氷でできてるに違いない。現実の世界でも氷の上を歩くのは危険だから、ゲーム化した世界でもそれは一緒だろう。そんな中でモンスターと戦うことが予想されるため、ビショップである美月の役目は大きそうだ。


「滑ってクレバスに落ちちゃったりしてね」


「…………」


華凛が何気なく言った言葉で一同の視線が華凛の方へと集まった。クレバスは雪山や氷河、北極や南極などの氷に閉ざされた世界にできる裂け目。非常に深い裂け目であり、落ちたらまず助からない。


「あっ……」


余計なことを言ってしまったのだろうかと、華凛は気まずい雰囲気に押されて言葉が詰まってしまった。


「あ、華凛が悪いわけじゃないんだ……。ただ、そういうことをしてくる可能性があるって思ったんだ」


真がばつの悪そうにしている華凛にフォローを入れる。華凛は何も悪いことを言ったわけではない。


「あの、華凛さんが言ったことは真剣に考える必要があると思いますよ。ただ、その、凄く現実的に命の危険があるものを言われて、衝撃を受けてしまったというか……」


華凛に注目をしてしまった一人である彩音が申し訳なさそうに言う。だが、華凛の言ったことは気に留めておかないといけないことでもある。想定される罠としては十分に考えられることだった。


「ああ、そうだな。クレバスはあっても不思議じゃない。後はなんだろう……。防寒具は必要なんだろうか……?」


「何を言ってるのよ真!? 防寒具は必要に決まってるじゃない」


美月が思わず声を出した。雪山に行くのに、防寒具が必要かどうかを疑問に思う真の神経が分からなった。そんなものは必要に決まっているではないか。


「いや、まぁ……そうなんだけどな。ゲーム化した世界の雪山ってどうなんだろう? 寒いのか?」


真が疑問に思うのは、現実世界の雪山ではないということ。ゲームでも雪山に行く内容は多い。ただ、防寒具について描写のあるゲームもあれば、上半身裸でも平然と雪山を登っていくゲームもある。その辺りは作品によるとしか言いようがない。


「それは寒いでしょうよ、雪山なんだし」


「そう……だよな。それなら、準備は万端にしておかないといけないよな。行ってみたらゲーム化した世界でも極寒だったら洒落にならないしな」


結局のところ雪山に行ってみないと寒いかどうか分からない。それならしっかりと準備を整えて行く必要があるだろう。


「真がなんでそんなことに疑問を抱いているのか分からないけど、『ライオンハート』と協力してミッションをやるっていうのは決まりでいいのよね? そのために準備が必要ってことでしょ?」


普段からゲームをやっていなかった翼には真がなんで雪山が寒いか、寒くないのか悩んでいるのが分からなかった。雪に閉ざされた山が寒くないわけがない。考えるまでもないことだと翼も思っている。


「一応最終確認をしておきたい。『ライオンハート』とミッションをやることで異存はないか?」


真がギルドのメンバーを見渡して意見を求める。


「大丈夫よ」


「最初からそのつもりでしたし」


「真君が行くなら……」


それぞれが肯定の意志を表示する。そもそもミッションに参加すること自体に反対していたわけではない。真らしくない思慮に欠けた行動に疑問を持っていただけなのだ。


「それなら、明日から準備に取り掛かるか。軍資金もたんまりもらってるからな!」


若干にやけた表情で真が言う。『ライオンハート』から多額の軍資金をもらっている。これを活用する時が来たのだ。


「たしか100万Gもらったのよね!? これだけあれば、全員分の王国騎士団式装備揃えても、防寒具とか買うお金余るよね!」


翼が思わず立ち上がって声を上げた。王国騎士団式装備はべらぼうに高いので、一式揃えると一人十数万Gかかる。だが、そんな高い装備だったとしても、今は軍資金の100万Gがあるため、全員分揃えてもおつりがくるのだ。防寒具がどれくらいの費用がかかるのか分からないにしても、王国騎士団式装備の値段が異常なだけなので、手持ちのお金を合わせれば問題はないだろう。


「そうよ、翼! 買えるわ、王国騎士団式!」


翼の言葉に華凛も思わず立ち上がっていた。


「まぁ、装備の見た目がどうこう言うより、ミッションに行くんだからな。性能の良い装備を揃えないといけないだろうな」


真としても、王国騎士団式装備を揃えることに異存はなかった。危険なミッションに挑むのだから当然、最優先されるのは装備の更新だろう。真はずっと最強装備をしているから、あまり気にしないことだが、美月たちにとっては非常に重要なことだ。


そうして、『ライオンハート』からもらった軍資金を元に王国騎士団式装備を揃えることが満場一致で可決されたのであった。








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