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話し合い Ⅰ

真達は『オウルハウス』で食事を摂った後、昨日から宿泊している宿への戻ってきた。


木の床に木製のベッド。簡易なテーブルと椅子があるごく平凡な宿の部屋だ。頼りないランプの明かりの元で真達は今日、『ライオンハート』から要請のあったミッションへの協力について話し合うことになった。


「えっと……、さっき紫藤さんから話があった、『ライオンハート』と協力してミッションをやることなんだけど……どうする?」


美月が議題を提示した。こういう司会のような役割はあまり得意ではない。だが、真がいつもと様子が違う以上、サブマスターである美月が仕切らないといけない。とはいっても、そもそもいつも通りの真でも場をまとめるなんて器用なことは得意な方ではない。


「俺はミッションに協力するつもりだ」


すぐに意見を出したのは真だった。今日何度目かになるミッション参加への意思表示。


「うん……真はそう言うよね」


美月の予想通りの答えが真の口から出てきた。思えば今日の昼前、バージョンアップがある前に真が急に驚いたあたりから様子がおかしい。美月はそのことが気になって仕方ない。


「何がダメなんだ? 今までだって、俺はミッションをクリアしてきたんだから、今回のミッションもやるつもりだよ」


真は訝し気な表情で言う。自分の意見を否定されているわけではないが、肯定はされていない。ただ、何か引っかかる物言いだ。


「なんて言うかさあ……真らしくないのよね」


何と言えばいいのか悩みながら翼が言う。上手く言えないが、真らしくない。どう真らしくないかと聞かれてもなかなか説明が難しいが、そう思う。


「俺らしくないって言われてもな……。ミッションは全員に関わる問題だろ? 俺がどうこういう問題じゃないだろ?」


翼の意見に納得がいかずに真が反論をする。


「あの、真さん……。真さんが言っていることはその通りなんですよ……。いつもの真さんだったとしても、最終的にはミッションに参加するって言うと思います。私達だってミッションに協力したいと思っています」


「だったらどうして?」


彩音の意見からすれば、ミッションに協力をすることが前提になっている。それなら、何を話し合う必要があるのか。


「真さんはこのミッションがどんなものだと思ってますか?」


「どんなミッションって……それは、分からない……。でも、それは今までだってそうじゃないか!? 最初らどんなものが待っているか分かってたことなんて一度もないだろう?」


彩音の質問に対して、答えることができなかった真は少し苛立った声を出していた。そのことに対して自覚があり、自己嫌悪するところだが、どうしても苛立ちが出てしまっていた。


「真が言っていることは正しいんだよ。でもね、いつもの真ならもっと考えてから結論を出してるの……。数少ない情報から、推測して、行動してるの。こんな言い方したくないけど、ミッションが追加されたから、何も考えずに参加するっていうのは賛成できないよ」


美月が真の目を見つめて話をする。真に対してはきつい言い方だ。それも分かっているが、今の真にはここまで言わないといけないと思っていた。


「俺だって考えてるよ! だから、ミッションをやらないといけないと……」


真は最後まで言い切る前に言葉が止まってしまった。同じことを今日の昼にもやっている。何故ここまでミッションをやらないといけないと思ってしまっているのか。それに再度疑問が生じた。


「ねぇ、真君……どうしたの?」


急に言い淀んでしまった真に華凛が不安げな声をかける。


「いや……なんで、俺はここまでミッションをやらないといけないって固執してるんだ……? いや、ミッションをやらないといけないっていうのは間違ってないんだ…………でも、どうして…………」


「それって、昼間にも言ってたよね?」


今日の昼間に華凛が、ミッションをやらないといけないと思う根拠は何かと聞いた後も、今と同じような反応を示していた。華凛はその時に、いつもの真に戻ったと感じたからよく覚えている。今もいつもの真に少し戻った感じがしている。


「ああ……。昼からだ……そう、昼からなんだ。俺がミッションをやらないといけないって、根拠なく思うようになったのは。それが、何なのか全然分からない。ただ、ミッションをやることが正解だっていうことが分かる。なんで分かるのか……それが分からないんだ……」


「真……。ミッションをクリアすることが正解だっていうことは私だってそう思ってるよ。この世界を元に戻すにはそれしか手掛かりがないんだから」


美月が真に声をかける。真が何に悩んでいるのかが分かってきたような気がした。真は色々と推論を立てて物事にあったってきた。たまに無茶なことをしているが、ちゃんと考えがや知識があってのことだ。だから、何の根拠もない漠然とした理解がどこからでてきのか。そこに辻褄が合わず悩んでいるのだ。


「この世界を元に戻す手掛かり……」


真が美月の言葉を繰り返す。この言葉がどうしても引っかかる。これがキーワードのような気がしてならない。だが、思い起こせない。


「そう、この世界を元に戻す手掛かり……。結局どこまでやればいいのかはまだ分からないけど、私はその為にマール村でミッションに参加したんだから」


「あ、ああ……そうだったな……」


「真はさ、ミッションをやらないと世界を元に戻せないって思うのは推測の範囲なんだよね? バージョンアップの情報とか、今置かれてる状況とか、そういうことを考えていって、ミッションをクリアすることが一番可能性が高いって思ってるんだよね? いつだったか、話してくれたよね。この世界を元に戻すには与えられた課題をこなしていくしかないって。でも、今、真が違和感を覚えているのは、それがどうして確信に変わっているかってことだと思うの」


美月が優しく話をする。ミッションをクリアしていけば本当に世界が元に戻るのか。それは美月自身も疑問に思ったことがある。だが、世界がゲーム化による浸食を受けて、バージョンアップでミッションを課されている状況を考えれば、他に考えられることはない。


「そう……そうなんだ! ゲームをクリアするには、与えられた課題をこなしていくしかない。だから、ゲーム化したこの世界もミッションをやることがゲームクリアの唯一の方法だって思ったんだ。だけど、それはアナウンスされていない」


真は喉に引っかかった異物が少し取れたような気持ちになっていた。完全に取れたわけではないにしろ、幾分ましになっている。


「真君、それって結局ミッションをやれば世界は元に戻るの? 戻らないの?」


華凛が真の話を聞いて疑問に思った。華凛としては元の世界に未練があるわけではない。だが、真が決めた道ならそれに従うだけだ。


「ミッションをクリアしていけば、世界は元に戻る……いや、違う。世界を元に戻す方法はミッションをクリアすることしかない……って思う」


「どう違うの?」


翼は真が言っていることの意味が分からず声を上げる。全く同じことの言い方を変えただけにしか聞こえない。


「なんて言うかさ……俺にも分からないんだけど、ミッションをクリアしたら絶対に世界が元に戻るっていう保証はないんだよ。だけど、ミッションをクリアすること以外に世界を元に戻す方法がないって、なぜか確信をもってるんだ」


「よく分かんないわね……。まぁでもミッションをクリアするしかないんでしょ? 真がなんでそれを確信してるかなんて、今は置いておきましょうよ」


真が言っていることの意味は本当によく分からない翼だったが、一つだけ確実なことは、どっちにしろミッションをクリアしないと世界を元に戻すことはできないということ。


「ああ、そうだな。なんで確信を持っているのかは気になるところだけどな……。今はミッションの内容に集中しよう」


結局、考えてもなぜ、真がここまで確信を持っているのかという根拠は見当たらない。それなら、一度そのことは置いておいて、ミッションのことを考えた方が建設的だ。


「なんか、いつもの真君に戻ってる?」


真を見て華凛が呟いた。これは華凛が知っている真だ。


「ふふ、そうだね。まだ、ちょっと分からないところがあるようだけど、いつもの真に戻ってるね」


美月も華凛の言葉に同意する。物事をちゃんと考えて行動するのが真だ。ただ、戦闘となると無茶なことをするが、こういう話し合いの場では、辻褄の合わないことは言わない。だから、真の言うことは信じられるのだ。








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