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申し出 Ⅲ

「し、調べたって……その……どうやって……?」


彩音は驚きを隠せないままに質問を投げかけた。今日の正午にミッションの通知がきたばかりだ。それなのに夜にはもうミッションの内容を確認している。何もヒントがないにも関わらずどうやってミッションの内容を確認したというのか。


「バージョンアップの告知があった後、すぐに調査に乗り出した。それでミッションの情報を得ることができただけだ」


総志が彩音の方を見て答える。見ただけで何故か怯えているような彩音の様子には疑問があるが、総志はあまり気に留めていない。


「いや、あの……それにしても早すぎると思うんですけど……」


総志のあまりにも単純すぎる説明に訳が分からず彩音が再度質問をする。彩音にとっては話しかけるだけでも怖い相手に、質問をしないといけないのは相当な負担だった。


「総志の説明が雑過ぎるんだ。いいか、前回のバージョンアップでは新しいエリアが追加されたにも関わらずミッションがなかった。僕達はそのことが不可解だったんだ。だから、バージョンアップでミッションが追加された時にはセンシアル王国領内でのミッションであるということを予測していた。そして、一番有力な場所が王都グランエンド。その中枢である王城だ」


時也が総志の話を詳しく補足説明する。


「あッ、それで、王城に行ったらミッションの情報があったってことですか?」


彩音が合点がいったような表情になった。理屈は通っている。新しいエリアとしてセンシアル王国領が追加されたのであれば、その中心地で重要な話があると予想するのは当然のことだ。


「そうだ、思った通り王城に行った途端、警備兵が宰相のところまで案内してくれたよ」


時也は眼鏡の位置を直しながら答える。簡単なパズルを解いただけというような口ぶりをしているが、顔は得意げだ。


「あの、でも、ミッションの内容を確認することは危ないって思わなかったんですか……? さっきも真が言いましたけど、私達は以前、ミッションの内容を調べるだけで期限を切られたことがあったんです……」


今度は美月が質問を投げかけた。真や美月達もミッションのことについてもっと話し合いをしていれば、おそらく王都で情報があるのではないかというところまでは辿りついていただろ。ただ、いつもの真であれば、王都だけでなく、王城にミッションの情報があるのではないかと考えていたはずだ。


「俺達もミッションで期限を切られた経験はある。だから、俺と葉霧の二人で調べた」


総志が率直に答えた。まるで当たり前のことを言っているだけと言わんばかりの口調だ。


「ええッ!? 期限付きのミッションをやった経験があるんですよね!? だから二人でって……ええ?」


翼が思わず立ち上がって声を上げた。総志が平然と言っている話の内容。危険なことが以前にもあったから、マスターとサブマスターの二人だけで調べたという。


「俺の仲間には今まで散々危険な目に付き合わせてきたからな。余計なことで危険に晒したくはない。できることは俺と葉霧でやる。もし、仮に今回のミッションで期限を切られたとしても、『ライオンハート』なら期限内にミッションをやり遂げる。俺と葉霧を死なせるような連中じゃない。最初からそのつもりで動いたことだ」


『フレンドシップ』のメンバーが言っていた、『ライオンハート』が常に先陣を切ってミッションを遂行してきた。それに他のギルドが付いていったと。総志が今言ったことがまさにそれの縮図だ。ギルドの中では常に総志が先陣を走り、サブマスターの時也が支える。それにメンバーが付いていくのだ。


「それで、今回のミッションでは期限は切られなかったですよね?」


今の話には美月もかなり驚いたが、それよりも大事なことを聞かないといけない。


「そうだ。今回のミッションでは特段制限は設けられなかった」


総志が返答する。ミッションの内容を確認する段階では何も問題は発生していない。


「だったら、真君にミッションの協力を頼む必要ないんじゃないの?」


華凛が訝し気な表情で総志を見た。一体何が問題で真を探しに来たのか分からない。


「問題はミッションの内容だ」


「ミッションの内容……?」


総志の言葉に真が反応を示した。最強と言われる『ライオンハート』程のギルドが悩むほどの内容とは一体何なのだろうか。


「王都から馬車で二日ほどの場所に年中雪に閉ざされた山がある。そこの奥にゼンヴェルド氷洞という洞窟があって、さらにその奥に『命の指輪』と呼ばれる財宝が眠っているらしいんだ。それを取ってこいと言われた」


これは時也が説明をした。腕を組んで、難しい表情をしている。


「えっと……何が問題なんですか……?」


彩音が不思議そうに尋ねた。雪山に行くのは確かに大変だし、氷洞の中も危険だろうが、至極単純な内容である。慎重に事を進めればいいのではないのか。簡単にはいかないだろうが、噂に聞く『ライオンハート』ほどのギルドならやってのけることはできるはずだ。


「そこだ。問題が見当たらない……。このことが非常に頭を悩ませている」


時也の表情は変わらない。難しい表情をして腕を組んだままだ。


「どういう……ことですか?」


まだ意味が分からない美月がもう一度質問を投げる。問題が見当たらないなら、問題がないということでいいのではないのか。


「どんな罠が仕掛けてあるのか分からない。こういう単純そうなミッションは油断をしてしまうだろう。そこに何らかの罠を仕掛けてくるはずなんだ」


「罠……」


時也の話を聞いて真が呟いた。確かに時也の言う通りだ。意味不明な内容のバージョンアップと違い、明確に指示をされている。今までミッションやバージョンアップ経験してきたのであれば、それは何かに誘き寄せられているような感覚を覚えても不思議ではない。


「それは……どんな罠なんですか……?」


不安そうな顔で美月が聞く。真はこの話を聞いて、止めようとは言わないはずだ。それが分かっているからこそ、できる限りの情報が欲しい。


「それは分からない。もしかしたら、何も罠を張っていないかもしれない。ただ、少なくとも強力なモンスターはいるだろう。だから、蒼井君に強力を要請したい」


時也が真の目を見て語る。『ライオンハート』もミッションに対して恐怖を抱いていないわけではないのだ。常に恐怖と戦いながらミッションを進めている。真の力を借りたいと思うのは当然のことだった。


「分かった。協力――」


「だから、待ってってッ!!! どうして、今の話を聞いて即答できるのよ!?」


翼が慌てて真を制止した。今の真なら確かに協力要請を受けるだろう。だが、もっと慎重に考えないといけないことだ。


「そ、そうですよ!? 真さん、もっと考えないといけないことはいっぱいあるんですよ!」


彩音も珍しく真に対して苦言を呈している。今日の話し合いで、ミッションに対しては慎重に動こうと決まったではないか。


「いや、でも……ミッションをやらないと……」


翼と彩音の勢いに押されて、真がしどろもどろに言う。理屈抜きにミッションをやろうとしているのは確かにおかしいとは自覚しているところだが、どうしても心の奥底にあるミッションをやらないといけないという思いが勝ってしまう。


「蒼井、時間をやる。返事はまたの時でいい。ミッションを受けた王城の宰相から時間の制限はないということは確認済みだ。ただ、いたずらに時間を浪費するつもりはない。返答がない場合は俺達だけでミッションを遂行する」


迷っている真達に向かって総志が言う。ここで結論を出す必要はない。だが、待てるのも有限だ。


「ミッションは全員の問題だ。『ライオンハート』が先頭に立ってはいるが、力のある者には協力してもらう。だが、ただでとは言わない。軍資金を渡す。これで装備を整えてくれ」


時也はそう言うと真にトレードを申し込んだ。ゲーム化した世界では通貨が物理的に存在しているわけではない。今いくらのお金を持っているというデータだけがある。そのデータでやり取りすることで経済を回している。


「……ッ!? ちょっと! これは……多すぎるッ!?」


トレードを申し込まれ、時也からお金の情報が送られてきた。その数字を見て真が驚愕する。


「僕達は支配地域を二つ持っている。これくらいは問題ない。それに、元はといえば君たちが払った税金だ。それじゃあ、僕達はこれで失礼する。いい返事を待っている」


時也の言葉を最後に、総志も言うことはなく、『オウルハウス』を出て行った。まるで嵐のように現れて嵐のように去っていく。そういう無茶苦茶なところは信也と似ているところがあった。


総志と時也が去ったことで、緊張の糸がほぐれた店内で、真達はようやく人心地をついた。特に美月や翼、彩音は心労からどっと疲れが出ていた。


「ねぇ、真君。いくらもらったの? 10万くらい?」


美月たちの心労の原因の一つであるとは知らない華凛が真に訊いた。真が驚くくらいだから、そこそこお金をもらったのだろう。


「……100万G」


「「「「ええええーーーーッ!?」」」」


真が呟いた金額に一同は驚愕の声を上げたのだった。





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