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対人戦エリア Ⅰ

        1



ゴ・ダ砂漠を越えた先にあるシース村へ支援物資を届けるための段取りはまず買い出しから。今回は資金も豊富にあるため、買い出しにも時間がかかる。何をどれだけ買うかという計画を立て、誰が買いに行くかという分担を決めて、手分けをして買いに行く。


支援物資の準備に加えて、シース村まで行くための自分たちの準備もしないといけない。開放された新しいエリアに拠点を移していくことで、最初の拠点となったシース村からの距離はどんどん長くなっている。


王都グランエンドからゴ・ダ砂漠との境界にある街のツヴァルンに行くだけでも3~4日かかる。そこからシース村まで行こうとすると早くても一週間。合計すると片道だけでも10日以上の旅程だ。


出発のための準備が整ったのは、『ボヤージュ』に集まった日の翌日から起算して5日目のこと。『フレンドシップ』のギルドマスターである真辺信也は、その間に金を稼ぐための遠征に行っている。


海賊討伐に参加したメンバーはしばらく休息ということになっているのだが、信也は碌に休息も取らずに別のメンバーと遠征に行ってしまったのである。それを止める者はもう誰もいない。真辺信也とはそういう男なのだと皆が知っている。


信也が率いる遠征の日程は10日。支援物資を届けている間には帰ってくることになっている。


そして、サブマスターである御影千尋も海賊討伐を終えてから、碌に休息も取らずに支援物資を届けるチームのリーダーとして指揮を取っていた。


千尋にはチームを率いるという役目の他にもう一つ大事な役割があった。それは事前に『テンペスト』と交渉をして、対人戦エリアを通してもらう話をすること。


『テンペスト』の幹部がいつもたまり場にしている酒場に行って、往復分の通行料を支払う。金を受け取った幹部が『テンペスト』のギルドマスターである桐山龍斗に連絡をして、ギルドメッセージを出してもらうということになっている。ただ、すぐに桐山龍斗に連絡が付かないこともあるため、これに時間がかかることが多い。出発までに時間がかかったのは実はこれが原因でもある。


今回の通行料も高額の料金を請求された。だが、安全に物資を届けるためには必要な出費。相手に従わざるを得ないことは千尋としても不本意だが、支援をするためには避けて通れない道。仕方がないと諦める他なかった。


真の方にもギルドマスターとして大きな仕事が一つあった。それは『フレンドシップ』と同盟関係を結ぶこと。対人戦エリアには当然のことながらモンスターも徘徊している。しかも、対人戦エリアにしかいないような希少で強い装備を落とすようなモンスターもいる。


普段のモンスターとの戦闘では味方の攻撃でダメージを負うことはないが、対人戦エリアに限っては別だ。つまり、モンスターに対する攻撃も他の人に当たれば同じようにダメージを与え、最悪の場合は死に至る可能性もある。人同士が戦うエリアなので、他人にも攻撃が当たるようになるということだ。


対人戦エリアにおける戦闘の例外が二つある。同じギルドに所属している者同士であることと、同盟関係にあるギルド同士であるということ。この二つに該当する場合は対人戦エリアにおいても攻撃が仲間に当たったとしてもダメージを与えることはない。というよりは、そもそも当たったという判定がされない。


真は攻城戦管理局に行って事前に信也が申請した同盟関係締結申請に同意をして、晴れて『フォーチュンキャット』と『フレンドシップ』は同盟関係ということになるのである。


同盟関係の締結には面倒な手続きは必要ない。攻城戦管理局に行って同意をすればそれで終わり。真に同伴した美月もあまりの簡便さに驚いていたほどだ。


ともあれ、面倒なことをさせられるより、拍子抜けするくらい簡単な方が楽でいい。支援物資の運搬に必要な準備を終えて、あとは出発の日を待つだけとなった。



        2



早朝、王都グランエンドの玄関である巨大な門の前に真達は集まっていた。白く大きな門を見上げた先には青い空と白い雲が浮かんでいる。まるで、空が巨大な門の雄大さを強調するための飾りであるように思えるくらいに、王都グランエンドの城門は威風堂々としている。


「よし、皆集まっているようだな」


千尋が集合場所に集まっている『フォーチュンキャット』のメンバーと『フレンドシップ』のメンバーを見渡した。今回の支援物資の運搬は両ギルドのメンバーを合わせて12人。男女比は丁度半々だ。


「これからの日程の確認をする。まずはツヴァルンを目指す。途中までは馬車での移動だが、ツヴァルン周辺地域は対人戦エリアになっている。馬車が行けるのはそこまでだ。そこからツヴァルンまでは徒歩になる」


もう何度目かになる対人戦エリアの通行は『フレンドシップ』のメンバーは既に周知の事実。今回初めて参加する『フォーチュンキャット』のメンバーに対しての説明だ。


「ツヴァルンに着けばゴ・ダ砂漠の移動はラクダで行ける。蒼井達は初めてだろうから言っておくが、ゴ・ダ砂漠はかなり広い。ラクダに乗っているとはいえ、疲労の蓄積は大きいから心するように」


「私達だって、エル・アーシアっていう高原地帯を越えて来たんだから大丈夫よ。どれだけ広いかは想像がつくわ」


千尋の忠告を受けながらも翼が心配しなくてもいいと声を張る。砂漠に比べれば高原地帯というのは楽な方ではあるのだろうが、それでも起伏の激しい山道を越えてきたのだ。


「そうだったな。お前たちも厳しい地域を越えて来たんだったな。なら、心配する必要はないだろう」


千尋が無用な心配だったと内省しながらも話を続ける。


「シース村に着くのは10日後の予定だ。村には4~5日滞在する。物資の支援だけでなく、生活状況の確認もしないといけないからな。生活状況の調査は我々『フレンドシップ』のメンバーで行う。『フォーチュンキャット』は物資の支援に専念してくれ」


「「「はい」」」


千尋からの説明に対して美月と翼、彩音がしっかりと返事をする。真は腕を組んだまま話を聞いており、華凛は暇そうにしている。


「説明は以上だ。質問はあるか?」


一通り話を終えた千尋が周りを見渡す。もう慣れている『フレンドシップ』のメンバーは質問などないよという顔をしている。『フォーチュンキャット』のメンバーの方もこれといって聞きたいことはなさそうな雰囲気である。


「質問はないようだな。では、出発しよう」


千尋はそう言うと、踵を返して待機している馬車の方へと歩いて行った。待たせている馬車は2台。6名ずつが乗ることになっている。


真も千尋の誘導に従い歩き始めたところ、一人の女性が声をかけてきた。


「蒼井君、また世話になることになったわね」


声をかけてきたのは園部美由紀だった。海賊船討伐の時にも一緒になったが、『フレンドシップ』の男性連中に囲まれていて、結局あまり話をすることができていなかった。


「いや、世話っていうか、美月や翼が言い出したことだから、それに付き合ってるだけだよ」


「ふふ、相変わらずお人好しね。でも、蒼井君がいてくれて助かるわ。海賊団の討伐もほとんど蒼井君がやったんでしょ? 対人戦エリアってね、結構強いモンスターが徘徊してるのよ。馬車に乗ってる時ってモンスターに襲われることないんだけど、徒歩で行くと襲ってくるのよね……。あれなんでだろう?」


「ゲームの仕様に合わせてるんだと思うけど」


「ふ~ん、そうなんだ……。ゲームの仕様ねぇ……」


ゲームの仕様と言われても園部にはよく分からないでいた。RPGではプレイヤーが操作しない乗り物に乗るとモンスターとの戦闘は発生しないことが多い。たまにイベントとして戦闘が発生する場合もあるが、それは例外だ。ゲーム化した世界でも同じように馬車に乗っていればモンスターとの戦闘は回避することができているが、その原理を説明しろと言われても、仕様としか言いようがない。


「まあ、それよりもさ。蒼井君、可愛い女の子一人増えてるわよね。美月ちゃんがいるんだから、ちゃんと関係は清算しておきなさいよ」


「えッ!? いや、別に華凛はそんな……」


園部は真の弁明を聞こうともせず、言うだけ言って自分が乗る場所の方へと行ってしまった。幸い、美月や華凛、翼も彩音も先に馬車の方へと向かっていたため今の話を聞かれることはなかった。逆に言えばそういう状況だからこそ園部はこういう話を真にしてきたのだが、真としては手のひらの上で踊らされている気分になる。


(はぁ……あの人、結構疲れるよな……)


園部にいじられていたという木村のことを思い出しながらも、元気を取り戻している様子の園部の姿に真は人心地着いたような感覚を得ていた。




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