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ゴブリン退治 Ⅰ

        1



「そ、そうですか。真さんも苦労されてるんですね……」


真の見た目がショートカットの女子にしか見えないし、声も男にしては高めなため、端から女性と思い込んで話をしていた美月は少し気まずい思いをした。


「いや、まあ、それはいいんだ。それより、他にも確認したいことがあるんだけど」


真はミッションのことで気になることがあった。


「あ、はい。どうぞ」


美月も気を取り直して話をする姿勢に入る。真のことを女性だと勘違いしたが、それで、美月の中にある重苦しい気持ちが幾分和らいだことが救いにもなった。


「あ、別に敬語は使わなくていいよ。あと、俺のことは真でいい」


「はい、あ、うん。ありがとう。じゃあ、私も美月でいいから。それで確認したいことって?」


「ミッションに行った16人のPT編成はどうなってた?」


一人やられてパニックになったことが敗因だとは思うが、それ以前にどういうPT編成でミッションに挑んで、失敗したのかが気になる。


「えっと……PT編成って?」


美月は言葉の意味が分からなかった。まず、PTが何か分からない。


「あ、ええっと、16人の職業の内訳ってどうなってたのかな?(そうか、PT編成って言っても通じないか…。)」


「えっ……それは、知らないけど……」


(まじかっ!?)


真は驚愕していた。PT編成も分からずにゴブリン退治に向かっていたのだ。もしかしたら、馬淵っていう人もPT編成とか関係なく頭数を集めていたのかもしれない。


「えっと、どの職業の人に来てほしいとかっていう話は、募集の時に聞かなかった?」


「それは聞いてないよ……。ミッションに行く意思というか覚悟がある人だけ来てほしいって」


「そうか……」


真の予想通りだった。ミッション攻略にあたって、編成を全く意識していない。普通は盾役になるパラディンやダークナイトと回復役のビショップかエンハンサーを入れてから、残りを火力職で固める。職業のバランスが取れてなくては攻略もできなくなる。ゲームを知らないなら、こういう基本的なことも知らないのは無理もないことだが。


「それって、大事だったの!?私、ミッションをやり遂げて、家族に会えるように何かしたいって思ってただけで、そこまで考えてなくて……」


「まぁ、やるからにはちゃんと職業のバランスも考えた方が成功する可能性が上がるからね。ところで、美月の職業は?」


「私はビショップ。真は何なの?」


「俺はベルセルクだ」


「そうかぁ、なんか強そうだね。私、今まで、他の人がどんな職業なのか気にしてなかった……」


「この世界は誰かと協力しないと生き残れないと思う。だから、美月も頼れる仲間を探した方がいいよ。」


「うん、そうだね。いつか私も頼ってもらえるようになれるかな……?」


「ああ、大丈夫だ。ビショップはみんなから頼られる職業だからな」


回復のエキスパート、ビショップ。高難度コンテンツにおいては、PTを生かすも殺すもビショップ次第。PTの生命線であるがゆえにその責任も重い。だが、逆に言えば、ビショップならPTの命を救うこともできる。このゲーム化した世界でも。


「……そうか。ありがとうね、真」


「ああ、それじゃあ、俺は行くよ。またな」


「うん、またね」


真は美月と別れて家に戻ることにした。


(ゴブリン討伐か……。美月は囲まれたって言ってたけど、最初のミッションでそんな初見殺しまでしてくるのか、この世界は……)



        2



次の日、真は午前中から村の中にいた。目的はこの村の村長からミッションの話を聞くこと。村長の家は簡単に見つかった。NPCに聞けば簡単に教えてくれたからだ。


村の中心部に位置する一番大きな家、それが村長の家だ。分かりやすいくらいに村長の家だ。


昨日の討伐隊の噂が広まっているのか、村長の家には誰もいない。10人近くの犠牲者が出て逃げ帰ってきたという話を聞けば誰でもミッションに挑もうとする気にはならないだろう。


「すみません」


真は村長の家のドアを開けて誰かいないか声をかけた。すると、すぐに初老の女性が一人出てきた。


「いらっしゃい。どういったご用件で?」


初老の女性は物腰の柔らかい態度で真に話しかけてきた。


「えっと、村長に話を聞きたいんだけど、大丈夫ですか?」


「ああ、あなたもなのね……。ええ、大丈夫ですよ。主人はこの奥の部屋におります。どうぞ、お上がりくださいな」


「あ、はい。どうも」


初老の女性はどうやら村長の奥さんのようだった。誘われるがままに家の中に入って。奥の部屋を目指す。木造の玄関はしっかりとした作りで、掃除も行き届いている。流石は村長の家といったところか。


「どうぞこちらへ」


村長の奥さんが奥の部屋のドアを開けて、案内してくれた。奥の部屋には獣の毛皮などが飾られており、家具も派手さはないものの、良い物を置いているといのが分かる。その部屋の奥に、大きめの椅子に座った初老の男性がいた。白髪交じりの髭を蓄えた男性。年齢の割にがっちりとした体格をしている。


「よう来なさった、儂が村長のワルターという者だ。あなたもゴブリンを退治してくれる冒険者の一人なんだね」


ワルターと名乗った男は真を歓迎してくれているようだった。


「ええ、まぁ……」


「そうか、とりあえず、こっちに来なさい」


真はワルターに言われるがままに、椅子に腰かけた。木の椅子でこれもしっかりとした作りをしている。クッションがないので長時間座っているのは尻が痛そうだが。


「で、ゴブリン退治の話だったな」


村長はさっそく本題に入ってきた。


「ええ」


「この村から一時間ほど歩いた場所に岩山がある。岩山だが、通れる道があってな、この村とキスクの街を繋いでいる道があるんだが、その岩山にゴブリンどもが山砦を築いてしまって、勝手に縄張りにしてしまったんだ。村とキスクの街を繋ぐ唯一の道だったんだが、これでは通ることができない。頼む、ゴブリンどものリーダー、ダーティーハンド ゴルゴルドを退治してくれんか?」


(なるほど、これがミッションか)


「ああ、分かった。引き受けるよ」


「おおー、そうか、ありがとう。話が早くて助かる。どうも、最近の冒険者ときたら、臆病風に吹かれておるのか、色々と質問が多くて困ったが、お前は肝が据わってるな。それなら、これを持っていきなさい。この辺りの周辺の地図だ。ゴブリンの山砦もこの地図に載っている」


(ここで地図が手に入るのかよっ!?)


真は地図なしで平原を探索していた。地図はどこにも売ってないし、チュートリアルにも地図の見方がなかった。そのため、地道に歩いての探索になった。まさかこんなところで手に入るとは思ってもいなかった。


さっそく地図に目をやってみると、平原の全体とゴブリンが築いた山砦のある岩山が記載されている。場所は、今まで真がゴブリンを狩っていた場所。村から見えていたビルのある方角にある、誰もいなかった現実の街の中。以前、探索した時には通ることができなかった場所が、バージョンアップでゴブリンの山砦となっていた。









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― 新着の感想 ―
ヒーラーって回復やらバフやら使っていれば誰も責めること何てしないんから~おまけに鈍器で殴るタイプのアタッカー版変わり者をやっていたら、別にパーティー要らなくない?ってな感じで、特に時間制限がないところ…
[一言] ヒーラーは周りが見える分、指示してウザがられる損な役割りですね 自称経験者の識者(笑)に罵倒されて鬱になる姿しか想像できない
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