女の子らしい女の子
ガラガラ、と
病室の扉が開いた。
『光希…久しぶりね』
「おか、さん…」
久しく面会にも来ていなかった母が、そこには立っていた。
『あら、時雨さんもいらしてたの?
ごめんなさいね、お邪魔してしまったかしら。』
『いえいえ、そんなことありませんよ。
今ちょうど、娘さんと今後のことについて話し合おうと思っていたんです。』
時雨はニッコリ、爽やかな笑みを浮かべて普通に受け答えしている。
さっきまでの不思議な話し方はどこに消えた?
『…そうですか。
光希、時雨さんと結ばれてよかったわね。
おめでとう。』
「お母さん、私、別にこの人と結ばれたいわけじゃ…」
母は私の言葉なんて聞こえていないかのようにつらつらと話し始めた。
『貴女がふさぎ込んでから、私達貴女の姿を見るのが辛かったわ。
私達は貴女が歩けるようになるってだけで嬉しかったのに…貴女はたかが部活ができなくなるからってあんなにふさぎこんで。
でももう大丈夫よね?
時雨さんがいらっしゃるんだから、貴女は元の光希に戻るわよね?
もうお淑やかな女の子になるわよね?なれるわよね?』
懇願にも似た、悲痛な叫びであった。
“たかが部活”…
そうだよね。お母さんとお父さんにはそんな程度の認識だよね。
…でもね。私にとっては違ったの。
あんなに心動かされるものは今までなかったの。
…思えば、2人はいつも私が部活の話をしても嬉しそうではなかった。
“女の子なんだから外で走り回るんじゃなくてお淑やかな女性になれる部活をしなさい。”
初めからそうやって言われてたもの。
望んでなかったのはわかっていた。
だから2人にとっては好都合だったのだろう。
これで娘はやっと自分達の理想のお淑やかな子になると…
「お母さ、私…ね…?」
『時雨さん、気の利かないガサツな娘ですが、どうかよろしくお願いいたします。
光希、時雨さんにくれぐれもご迷惑をおかけしないようにね?』
母はそれだけ言って部屋から出て行った。
…最後まで、私の言葉に耳を傾けるそぶりも見せず…
部屋には沈黙が流れた。
時雨が私になんて声をかけたらよいのか迷っているのが痛いほど伝わってきた。
「は、はは…
変なとこ、見られちゃったね。
でもね、これは昔からなんだ!
昔から、なんでか2人とも女の子らしい女の子になってほしいみたいでさ。
ちっちゃい頃、近所の友達と鬼ごっことかサッカーとかしたかったんだけど
なかなか、させてもらえなくって…
この長い髪だって、走るには邪魔だから切りたかったんだけど
切ろうとすると、鬼のように怒るの。
女の子らしくしなさい!って…
結局最後まで、認めてくれなかったなぁ…」
本当は、今回の大会に出れば認めてくれるんじゃないかって期待してた。
1年生で、選手に選ばれることは珍しいって。
先生やコーチからも才能があるって太鼓判押されて。
これなら2人も認めてくれるって…思ってたのになぁ…
「…あ、れ…?」
あれ?おかしいな…
なんだか、目の前が歪んでよく見えないや…
なんでだろう。
「おか、しいなぁ…
なんでだろ…なんでぇ?」
頬を何かが伝う。
それと同時に私は何かに包まれた。