謎の男
「?なにか気になることがあるの?」
言葉を濁した時雨に光希は違和感を覚えた。いやに歯切れが悪い。
『…ふむ。なんというかの。自慢ではないが我は妖怪頭の一角を担う大妖なのじゃ。』
たしかに、初めてあった時にそんな話をしていた気がする。
でも、今のその歯切れの悪さと何か関係があるのか?
首をかしげる光希。
時雨は彼女を抱きしめていた腕を緩め、彼女と向き合う形で座りなおした。
『そうさの。何から話すべきか…ふむ。
大妖はそれぞれ長生きじゃ。それゆえあまり伴侶というものを持つことがない。人の子のように後継争いなどせずとも自身で統治できるからの。
妖怪頭は皆大妖と呼ばれる存在じゃ。しかし、妖怪というのはどれも欲深い奴らが多いのじゃ。
特に中級の者どもは自身の子を上位の妖の番とさせ、その恩恵を得ようとする輩多い。
…大妖になれる力がない者どもはそうやって力をつけようと画策する。
そして、そういった多くの妖怪どもは人の子をただの血肉としか見ていないものも多い。
人の畏怖の念から生まれ、そして力をつけ実態を持ち、腹がすいたら人を食らう。それが妖怪じゃからな。
あ、もちろん人ばかり食べてるわけではない。我のように人と同じように食事をするのがほとんどじゃ。たまに偏食家の妖怪もおるがな。』
『話を戻すぞ。さっき言ったように、中級の妖怪どもはより上位の妖怪と番になろうとする。
その上位に我も含まれておっての。
…まぁ、我も色々逸話のある妖。みなそこまで積極的に関わろうとはしてこなんだが、今回人の子…光希、其方と番になろうとしているということでそなたに興味を持つ輩がいい意味でも…いや、ほとんど悪い意味で増えたのだ。』
「…うん?」
『よいか。満月の夜は絶対に部屋から出る出ないぞ。宴の時は我が何としてでも他のやつらを黙らせておく。そなたの寝所には何人たりとも近づけさせぬ。
じゃから、くれぐれも、くれぐれも!!部屋から出てはならぬという事を忘れてはならぬぞ?!』
今までにない必死な様子の時雨に光希は気圧されながらうなずくことしかできなかった。
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「…ふー」
時雨と話をしたあの日から、彼はその五怪会議に向けての準備に追われているようで、なかなか会う機会が減ってしまった。
一体どんな妖怪が集まるのだろう。みんな時雨のように強いのだろうか。
「…はぁー。そう思うと、私って妖怪とか全然知らないんだよな…」
時雨に会うまで…。ううん。事故にあうまで妖怪なんて見たこともなかったし。
…私もなにか出来たらいいんだけど…
「…せめて、知識だけでも持っていた方がいいよね。だれかが知識は宝庫って言ってたし。」
よし。シロのところに行こう。
そういえば、シロも前妖怪頭がどうとかって言ってた気がするし。
あの子ならいろいろ知っているはず。
私は吹雪さんに出かけることを伝え、早速シロの元へ向かった。
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「…あれ?」
境内についたが、シロの姿が見えない。
いつもなら私が近くにくるとすぐに姿を見せるのに。
…どうやら主従の契約を結ぶと主人がどこにいるのかわかるようで、彼はそれで場所の特定ができるようだった。
もしかしたら、シロも今忙しいのかもしれない。
そう思い、戻ろうとしたとき
『…光希!』
境内から、シロが姿を現した。
「シロ!ごめんね急に来ちゃって。」
駆け寄ってくる彼の姿は珍しく人型で。少し焦った様子だった。
『全然大丈夫!…いや、やっぱ少しまずいかも。実は今…『おや?』』
「!」
聞きなれない声がし、そちらに目を向ける。
するとそこには銀髪の男が立っていた。その男はゆっくりと私たちのところに近づいてきた。
浅黒い肌に金の瞳。整った顔立ちのその男性はやはり人間とは違う雰囲気を纏っていて…。
“時雨の雰囲気に似ている”そう感じた。
『…なるほど。君か、この子に名を与えたのは。』
その男は私とシロを交互に見た後そう言った。
心なしかシロの表情が強張っているように感じる。
「…そうですが、貴方は?この子とどういった関係ですか?」
『…なんだ、何にも聞いていないのか?
なるほどな、アイツもよほど君を大切にしたいらしい。』
にやりと笑ったその男から鋭い犬歯が見えた。
まるで獣だ。そう感じずにはいられなかった。
人の形をしているが、それは仮初の姿だとすぐにわかった。目の前にいるのは強大な肉食獣。口元は笑みを浮かべているが目が笑っていない。少しでも気を抜いたら頭から食べられてしまう。そう思えるほどの緊張感。
眼を反らしてはいけない。
そう思い光希はその男の金の瞳を見つめ返した。
『…クッ…はっはっはっ!!!!!
君、面白いな。よく逃げ出さずこの場にとどまれた!
いいな!アイツが気に入るわけだ!
…なぁ、狐の。』




