その後の話
※ポチの名前をシロに変更しました。
…あれから数週間が経った。
私は変わらず学校に通っている。
周りの目は相変わらずだけれど、私に何かしようとする人はいない。
…学校では高千穂先輩は遠くに引っ越したことになっていた。どうやら時雨が記憶の操作を行ったらしい。
彼曰く、あの状態になった彼女を人間に戻すことは不可能でこの方法が一番騒がれずに済むのだという。
結局のところ彼女がなぜ異形の姿になったのか。それは詳しくは語られなかったが…
『…あのような低級の妖は人の弱みに付け込み、人の憎悪や嫉み、妬みの感情を糧に大きく成長していくからの。故にあの人間は目をつけられたのじゃろう…』
時雨はただそう言ったのだった。
私は時雨と出会い妖という存在を認識することができた。それ以前は“人間でないもの”の存在を目にしたことがなかった。
初めて認識したのが時雨たちでよかったと心の底から思う。
彼らではなく、負の感情を纏うものに出会っていたのならば…。
私も高千穂先輩のように、その甘美な誘いに乗ってたかもしれないのだから…
たとえそれで命を落としたとしても…
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『…光希?大丈夫か?』
名前を呼ばれ、我に返る。
そうだ今日は学校裏の神社に来ていたんだった。
「大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだよ」
隣で寛いでいるシロの頭を撫でる。すると彼はしっぽを振って喜んでいる様子だった。
シロと私の主従関係は解消されず、彼は私を主人と呼び慕ってくれている。
シロがただの犬ではなく、神使であると知ったあの日。彼がここの社の守り神であることもわかった。
元は名もない存在であり、実体を持てないような力のない存在だったと彼は言った。
しかしどういうわけか、私は彼の存在を認識し、名を与えた。そして不透明だった彼は“シロ”という実体を持つことができたのだという。
『本来ならばただの人がそのような事出来るわけではない。しかし、現に貴様のような小娘が妖に名を与えるているのを考えると…。貴様もただの人の子ではないのかもしれんな。』
烏天狗は顔をしかめながらそう言っていた。
そうそう、烏天狗といえば今も烏合天喜として学校に通っている。
人と共に生活するのを嫌っていた彼が、その任を承諾するとは思わなかったと吹雪さんも驚いていた。
『何を考えているのかしらね~
あの人、基本的に時雨様第一だから断れなかったのかしら~』
おっとりとした様子でそういう彼女であったが
『もしあの人に何か嫌なことされたら私に言ってくださいね~凍らせますから~』
と話すその目は全く笑っていなかった。
『そういえば光希!あの狐野郎から聞いたか?』
犬の姿であった時雨は伏せていた状態から体を起こすとそう問いかけてきた。
「え?何を?」
時雨と最近話した内容といえば、天気の話、ご飯の話、学校での烏天狗の話などたわいもないことばかりでシロが食い気味に話す内容ではない気がする。
『なんでも、今度妖怪頭の方々が一堂に会するらしいぞ!』
「妖怪頭って地域のトップの人達だよね…?
え、何かあったの?」
『そりゃあ、俺はまだ認めたくないけど!本当は嫌だけど!!
…光希、あの狐野郎の伴侶になるんだろ?
たぶんそのことじゃないかってこの辺の噂だぜ?』
「…ん?それって、私めちゃくちゃ関係してるよね?」
烏天狗からも、吹雪さんからも、もちろん時雨からもそんな話全く聞いていないのだけれど。
『そうなのか?適当な奴だなぁ。ん?光希、帰るのか?』
「その話が本当か、直接確認しようと思って。
ごめんねシロ。あまり長く一緒にいれなくって‥」
『しょうがないさ。俺もこの社を守らないといけないし…。兄貴との約束だしな。
光希、何か嫌なことがあったら呼んでくれ。俺はどこにいても、光希のもとに駆け付けるからな。』
シロは一度人型になると、光希を力いっぱい抱きしめた。
名残惜しそうなシロと別れ、社を後にする。
階段を降りた先には、目を閉じ鳥居にもたれ掛かっている烏合天喜がいた。悔しいが、その姿はとても様になっている。
転校してきて数日でファンクラブができるのも頷ける。
…当の本人はそんなの煩わしいだけかもしれないけれど。
「ごめんなさい。待たせてしまって…」
駆け寄る光希を薄目で確認すると
『…来たか。行くぞ。』
烏合天喜は歩きだす。
…以前待たせてしまうのを申し訳なく思い、先に帰っていいよと伝えたことがある。すると彼は
『貴様の指図など受けぬわ。よいか、私が貴様とともに学び舎に通っているのは時雨様からそうせよとの命が下ったからだ。貴様のような小娘の命令など受けぬ。
それと、我ら妖の身体を心配してなどと戯けな事をぬかすなよ。貴様ら人間より丈夫に出来ているに決まっているだろうが。貴様から目を離し、姿を見失う事の方時雨様のお怒りを買うわ!わかったら変な気など使わず、さっさとあの犬っころのところへ行って来い!』とすごい剣幕で話してきた。
それでもめげずにせめて社で一緒に休もうと伝えれば今度は呆れたように
『…ここは雷獣の気が強い。相性が悪いといっただろう。
神域である鳥居など足を踏み込んでみろ。人型が保てなくなるわ。わかったら気にせず行け!ほら!シッシッ!!』
そう言って虫を払う様な動作をされた。




