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狐に嫁入り!  作者: 春海
学校
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和解(2)

『…それにしても其方、よくあの妖刀を扱うことができたの。

あれは何か対価を求めてくると思ったのだが…』



和解した後、時雨は不思議そうに光希へと問いかけた。

その問いに対し、光希は何ともない様子で



「…あぁ。そりゃあ、私ただの人間だもの。

代償なしには力を貸さないって言われたから代償を払ったよ。私の命と引き換えにってね」



その瞬間、部屋の空気がピキッと凍り付いた。


光希もそれを肌で感じ取ったのだが

あれ?冷房でも付けたのかな?一気に効き過ぎなのでは‥?と能天気なことを考えていた。


もちろんそれは冷房などの影響ではないし、光希以外の妖達にはその冷気を出しているのが時雨であるのは一目瞭然であった。なぜならば冷気に混ざり時雨の妖気が辺りに充満しているのだから。


烏天狗だけでなく、ポチまでも委縮させるほどの妖気…

それなのに一番近くにいるはずの光希はケロッとした様子で「なんか冷房が効き始めたみたいだね」なんて的外れなことを話している。

その様子をみて烏天狗は思った。


“この小娘。なんと鈍感!鈍い、鈍すぎる!!!”と…


そんなことはつゆ知らず、光希は辺りをきょろきょろしている。



『…命を引き換えにとは…一体どういうことなのか聞いてもよいか…?』



「え?いいけど…ヒィ!!」



その声で時雨の顔を見た光希はようやく気付く。

その表情に笑みを浮かべている眼の前の男の瞳が全く、これっぽっちも笑っていないことを。

思わず出た短い悲鳴に時雨は尚も笑顔で(もちろん目が笑っていない)問いかける。



『さぁ、答えてくれぬか?

場合によっては、我は妖刀を叩きおらねばならぬ』



冗談ではないことはその瞳を見ればわかった。もし、なにか一つでも間違えれば…。

そんなことはないと思いたい。それなのにその一文字が頭から消えない。

背筋を嫌な汗が伝う。

時雨越しに見える、二人も失敗してくれるなと表情で訴えてきている。



「え、あ、その…

命って言っても、言葉のあやっていうか…

ほら昔から言わない?“髪は女の命”だって‥」



ははっと顔を引きつらせながら光希は笑った。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




…あの時。妖刀に代償を…と話されたとき。もちろん光希も悩んだ。

命なんて渡せないと。そんなことをしてしまえば、時雨に、皆にもう会えなくなってしまう。

思い悩む三月の視界の端にそれは映った。

そして言ったのだ。

「いいわ。私の命が代償よ!さぁ、力を貸しなさい!」と…


妖刀は“良いだろう。貴様の命もらい受ける。”と答えた。

そして光希の命を、寿命を奪おうとしたとき。

彼女は笑った。


「…交渉は成立ね。ならばもらいなさい、私の命を!」


そう言って光希は近くにあったがれきで自分の髪を一切の迷いなく切り離したのだ。

“何を…!?まさか!”


「…そう、これがあなたに渡す私の命。よく言うでしょ?髪は女の命ってね…

さぁ!交渉は成立している。代償も渡したわ!あとは貴方の力を私に貸しなさい!」


強気に攻めている光毅だが、内心焦っていた。こんな交渉、通るはずがないとわかっていたからだ。

だが、妖刀は違った。


“…ふっ

ふっふっふ…

ふっはっはっはっはっ!!!!!”



「…!?」



“面白い!面白いぞ人間!!!

よい、まさかこのようにして出し抜かれるとはな!!

気に入った!確かに貴様の命もらい受けた!さぁ、貴様に力を貸してやろう!!”


こうして妖刀の力を借りることができたのだ。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



ことの顛末を話し終えた光希は時雨の顔を見れずにいた。

話している間も見れなかった。怖すぎて。

少しの沈黙。それを破ったのは時雨の…


『はっはっはっはっは!!!!!』



それはそれは大きな笑い声であった。



「え?時雨??」



困惑する光希を時雨は力いっぱい抱きしめた。



『よもや、妖刀に対しそのような賭けに出るとは!

光希、そなた大物じゃな!くっくっく…!』



よかった。さっきの時雨じゃなくなってる。


光希は安堵した。先ほどの時雨はそれほどまでに恐ろしかった。

ほっと一息ついた時



『だがの、光希…』



さっきまで大笑いしていた時雨の笑い声がぴたりとやんだ。そして低く冷たい声が耳に届く。



『これから先、今回のようなことがあっても決して自らの命を代償として差し出さないでくれ。

次、そのようなことがあれば…


我も、何をしてしまうかわからぬのでな…?』



短くなった光希の髪に唇を落とし、時雨はにやりと笑う。

妖艶な姿に心臓は跳ね上がるが、それどころではない。

その言葉が冗談ではないことを感じ取った光希は何度も首を縦に振るのであった。



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