決着
…不思議だ。
光希はどこか夢見心地でいた。
なぜならば、妖刀を手にした瞬間から身体が軽くなり頭が妙に冴えているからだ。
今ならなんでもできる気がする…
目の前にいた、あの女の人…
アレがあの化け物が最後の力を振り絞って生み出した幻影。アイツを倒せば、時雨の呪いは解け、元の世界に戻れるということがすぐにわかった。
“…分かっておるな。光希よ。”
…うん。わかってる。
“ならよい。貴様の命を貰ったのだ。少しばかり手助けしてやろう。”
…ありがとう。
時雨が私に何かを言っている。
大丈夫…
「…大丈夫。私はアイツを逃さない。」
妖刀を手に持ち、脚に力を入れる。
…医者は言っていた。もう走ることはできないだろうと。
でも、大丈夫。この刀が手助けすると言った。
その時から私には確信がある。
…私はもう一度、走ることができる…!
地面を思いっきり蹴る。
そして、闇に包まれそうな敵に妖刀を振り上げる。
「…っハァッ!!!」
勢いよく斬り込むが寸前のところで届かなかった。
しかし不思議なことに闇が妖刀に吸われるように消えていく。
…そうか。これも妖力。
だからこの刀の餌食になっているんだ。
“光希。もう少し前に踏み出せ。次は当たる。”
「…えぇ。キメるわ!」
妖刀が指示をくれる。不思議だ、本当に倒せる気がするんだ。体も軽い。足も痛くない。走れている事が、嬉しい。
『…ッひぃ!!!』
闇がなくなり、姿が露わになったソレは。
恐怖に表情を歪ませる。
「…最後よ。」
『あ、あぁぁあッ!!!!』
妖刀斬られたソレはのたうち回る。
だが、それもすぐに終わるだろう。
妖刀に斬られたところから身体が崩れ去っていくのが見て取れた。
そして塵となったソレは妖刀に吸収され、気づいた時には跡形もなくなっていた。
『光希…!』
「あ、しぐ…っ」
名を呼ばれ、振り返ると同時に強い力で引き寄せられ、目の前が真っ暗になる。
…抱きしめられてると理解するのに、そう時間はかからなかった。
「時雨、大丈夫?」
何も言わぬ時雨に声をかければ、抱きしめられる力が強まる。
『其方は、なんという無茶を…』
「…貴方を助けたいって思ったからよ。」
思ったことを口にし、彼の背に手を回せば彼の体が強張るのがわかった。
緊張しているのだろうか。それとも、私の意外な行動に驚いているのだろうか。あるいはその両方か。
返事はない。なので、そのまま言葉を紡ぐ。
「…貴方が目を覚さないかもと、このまま死ぬかもしれないと言われたの。
呪いを解くしかないと。その場所に呪いを解ける刀があって、妖力を持たないただの人間がいた。
…私が、行動を起こさない理由がないわ。」
『…しかし!』
「時雨。忘れているかもだけど、ここは貴方の精神世界。
呪いは解かれた。私はもう外に戻るわ。
…話の続きは貴方が目を覚ましてから。先に戻ってる。」
光希はそういうと、時雨の腕の中から消えた。
『…あぁ。そうか。そうじゃった。
ここは我の中。目を、覚さねば…』
時雨は光希がこじ開けた空の裂け目へと手を伸ばす。
闇が消え去ろうとした刹那
暗闇の中に温かな微笑みを浮かべるハルを見た気がした。




