時雨side
〜時雨side〜
気がつくと、暗闇の中にいた。
『ここはどこじゃ…?』
先ほどまで、我はなりそこないと対峙していたはず…
異空間に飛ばされたか?
いや、そんなはずはないじゃろう。
彼奴にはもうそれほどの力は残っていなかったはずじゃ。…とすれば
『考えられるのは、幻術…といったところかの。』
その考えに至るとソレは現れた。
『ご名答!そう、ここは幻術の世界!貴様は俺達の術の中だ!もうここから逃げられやしねぇ!』
先ほどまで対峙していたソレは勝利を確信したかのように言い放ち、ゲラゲラと笑う。
『幻術にかかったからと言って、怖気付く我ではないぞ。』
目の前のソレを焼き払おうと手をかざすも、炎は出ない。
『くっ』
『炎は出ないよ。ここは幻術。僕らの空間だ。僕らが敵だと認識しているのに、攻撃させるはず無いでしょ?』少年は呆れたように言う。
『もう一つ忠告するとしたら、貴方がここから出れることはありません。ここは古の呪いの中。私達の全てを使って作った空間。中からはもちろん、外からもそう簡単にこじ開けることはできませんわ。』女は窘めるように言う。
目の前のソレが暗闇と同化して行く
『この中で、永遠に同じ情景を繰り返しながら力尽きるがいい!!』最後に男の声が聞こえたかと思うと辺りの景色はガラリと変化した。
『……ここは…』
それは、見覚えのある風景であった。山々に囲まれた、緑豊かな里。人々は田畑を耕し、我はその様子を日々眺めていた。何百年も昔…そう…
『時雨っ』
目の前にいる、我に笑いかける彼女と共に…
『は、る…』
思わず抱きしめると、彼女…ハルは苦しそうに呻いた。
『時雨、苦しい!
…どうしたの?何か嫌なことでもあった?』
あぁ、ハル。ハルだ。あの時、あの場所で我の手の中で命を落とした。愛しい女子。
『あぁ、ハル。また出会えたのだな。其方を失ってから我は幾千の夜を1人で過ごしたのだ。其方がまた我の前に現れるまで。』
頰を何かが伝う。それが涙だと理解するのにそう時間はかからなかった。
『もう、どうしたの?変な夢でも見たの?
私はここにいるじゃない』
『夢…?
そう、じゃな。夢であったかもしれぬ。ハルが我の腕の中で生き絶えたなど…』
『混乱してるのね。大丈夫だよ時雨。私はここにいる。それに、これからは永遠に一緒にこの里で過ごそうって決めたじゃない』
彼女は我の好きだったあの笑顔を浮かべた。
嗚呼、そうだな。この里で、其方と永遠に過ごすのだったな。
『さぁ、行きましょう?』
『…あぁ。』
手を引かれ、歩を進めようとした時だった。
“時雨!”
『!
…?どうしたの時雨。行かないの?』
立ち止まった我をハルが訝しげに見つめる。
『あ、あぁ。行く。行くのだが…今、誰かに呼ばれた気が…』
“時雨!起きて!”
またじゃ。誰じゃ、我の名を呼ぶのは。
『誰も呼んでいないわ?ほら、行きましょ、時雨…』
そう、このまま里に行けば良い。じゃが、我の名を呼ぶこの声。一体どこから…
『ハル。すまぬが先に里に行っていてくれぬか?この声の主が誰なのか確かめてから我も里に行くから』
そう語りかけ、ハルの手を離そうとする。しかし
『…ッ』
『だめよ、時雨。あなたは私と里に行くの。その声は無視して。行きましょう?』
ハルの爪が手に食い込み、そこから血が流れる。
『ハル?』
“時雨、お願い…起きて…”
語りかけてくる声は徐々に泣き声へと変わって行く。嗚呼、泣くな。泣かないでくれ。其方に泣かれるとどうしてよいかわからぬのだ。
『ハル。すまぬが、手を離してくれぬか?あの子が泣いておるのじゃ。無視などできぬ。』
『私を、置いて行くの?』
ハルはそう問いかけて来た。
下を向いているせいか、表情が見えない。




