対峙
ーーーバサッーーーー
大きな黒い翼を羽ばたかせ、その男は地に足をつけた。
…烏合天喜がそいつと真っ向から対峙したのはその時が初めてであった。
目の前のその妖は、自身の天敵であり、恐らく妖力も自分と同等…またはそれ以上だと感じていた。
目の前のその妖…雷獣:ポチは光を映さない、空虚な瞳で目の前にいる烏合天喜をただ見つめていた。
一歩でも動けば攻撃してくるのだろうな。とか
神使である妖を犬だと思った挙句、ポチなんて名前をつけるとは…可哀想すぎる。とか…
そんな事を呑気に頭の隅でそんなことを考えている自分がいた。
『…おい。聞こえているか。“ポチ”』
“ポチ”
そう呼ばれた時、彼の瞳がかすかに揺れた。
どうやら完全に支配されているわけではなさそうだ…しかし。
どうしたものか。
天敵である雷獣を引きつけることが烏合天喜の役割であった。
そして一瞬の隙をあの小娘が見逃さなければーーー・・・・一気に片がつく。
…出し惜しみ、している場合でもないな。
烏合天喜は覚悟を決め、錫杖で地面を3度叩いた。すると彼の身体はみるみると黒い羽毛に覆われた。
…先ほどまでそこに立っていた無愛想な男は
いつの間にか黄色い嘴と黒い羽毛を持つ1人の鴉天狗になっていた。
『…本当は、この姿にならず済ませたかったが…天敵である貴様との戦いだ。出し惜しみはしないぞ!』
鴉天狗が先手を打とうと雷獣の懐に入り込む。
そして手に持つ錫杖で腹部に一撃、突きをお見舞いする。
雷獣は後ろに2、3歩よろめいたがすぐに体勢を整え獣化した手を鴉天狗に突き出した。
『!?』
間一髪。
雷獣の手から放たれた雷を空に飛び回避する。
空中に逃げた鴉天狗に追従する雷
『くっ、近づけぬ!』
近づこうにも、雷が行く手を阻み思うように動けない。
厄介な相手だ。
鴉天狗は心の底からそう思った。
しかし雷獣と小娘の間には明確な主従の関係がある。
それがある限り、操られなければこの男は味方だ。
それが心強いとも思った。
チラリと小娘がいる方向に目を向ける。
小娘にはやるべき事を伝え、離れたところに隠してきた。
準備ができたら、合図を出せと言っておいたが…
今はまだ合図はないようだ。
『雷獣よ。
貴様の攻撃はその雷だけか!』
鴉天狗は自身の翼を大きく羽撃かせると、突風が起こる。
そして鴉天狗の黒い羽根が突風に乗り
まるで鋭利な刃物になったかのように鋭く雷獣を攻撃した。
突風と羽根により、雷獣の動きが鈍くなった。
動きをある程度封じてしまえば、雷を撃つこともできないだろう。
そのまま、合図があるまで動きを封じようとしていたその時
『ーーーッ!!』
眩い光が辺りを包んだ。
そして右肩を突如、激痛が襲う。
『無理に、雷を放ったのか…!』




