危機(2)
抱え込まれる形でその場を離れる。
直後、私達がいたその場所は一瞬にして陥没していた。
『小娘、自分で立てるか!』
「ちょっと、無理…かも…
腰が抜けてる…」
『チッ、時雨様の命でなければ捨て置いたものを!』
「時雨様って…あなた、時雨を知ってるの!?
それよりもなんで“ココ”にいるのよ!?」
人間で、ただの転校生で、他人を嫌っているあなたが…私のことを何故か嫌っている貴方が…
なんで、私を助けているの…?
『む?
なんだ、小娘。まだ気づいていないのか。
そんな事で時雨様の妻が務まるのか…いや、小娘のことはまだ認めてはいないがな!』
「気づいていないって…何が…?!」
問い詰めようとしたその時、またも感じる浮遊感。
「いや、それよりも…
なんでこの狭い廊下で飛べるの?!」
『そんなこともわかっておらんのか。
ここは裏の世界。学校も宿主が思い描いていたからそれに合わせて作られたいわば擬似空間となる。
虚像のようなものだ。
偽物だと知って入れば、この様に自由に飛び回ることも造作なかろう!
…そんなことよりもだ。
ひとまずは時雨様の元へ行かねばならんが…どうやら込み入っている様だな。』
烏合天喜に言われて気づく。
ねぇ、あそこにいるのはもしかして…
「…しぐれ…?」
そこには人の姿をした彼はいなかった。
しかしあの黄金色の大きな9本の尾には見覚えがあった。
あれは、初めてあった時に見たもの…
ならば、あそこにいるのは…あそこにいる大きな狐は…時雨、なの…?
『ほほぅ。小娘もわかったか?
どうじゃ、美しいだろう!
これが時雨様の真の姿!!美しき九尾の狐だ!!』
美しい。確かに美しいとは思う…でもなんだろう。この禍々しい空気は…
彼からは、何か良くないものを感じる。
「…ねぇ、時雨の所に連れて行ってくれる?」
私は気づいたらそう呟いていた。




