正体
床を這いながらも逃げることを諦めないその元人間を時雨はとても冷たい目で見ていた。
何と哀れな。
時雨はただただそう思った。
醜く、人の形を保てぬほどに闇に取り込まれてしまったその元人間を。
やはり人間は醜い。あの子以外…美しいと感じる子はおらんの。
敵の体は這うたびに本体から切り離されていた。
時雨は切り離された部分を踏みながら、敵を追う。
『…終わりじゃ。』
妖刀を振り上げ、とどめを刺そうとしたその時。
『…!?』
時雨は体を動かすことができなかった。
足元を見ていると、先ほど切り離されていた肉片が、時雨の足に群がり動きを止めていた。
我としたことが、油断した。
あらゆる可能性を考えて行動せねばならなかったが…どうやら冷静ではなかったようじゃ。
『チッ』時雨は小さく舌打ちを打つ。
動けない時雨の様子を見ていた敵はゲラゲラと笑い始めた。
それと同時に敵が纏っていた闇も深くなる。
それは徐々に邪悪なものに変貌を遂げた。
『…正体を現したかの…』
先ほど辛うじて分かっていた女の顔はもう無く、代わりにそこには3つの顔が現れていた。
1つは男、1つは女、そして1つは少年のような顔立ちであった。
それらの顔は時雨を捉えると
ニタァと、気味の悪い笑みを浮かべた。




