狛犬
『ーーーッ、野蛮な…いきなり何するんだ!』
『何をする…というのは、我のセリフじゃ小童
貴様、この娘が我が妻と知りながらマーキングしおったのか?
事と次第によっては容赦はせぬぞ。』
『容赦しないだと?
それはこっちのセリフだ!!
お前こそ、俺の承諾もなく光希に手を出しやがって!
なーにが我の妻だ!
お前なんかに光希をやるはずねぇだろ!』
男はズカズカと近づいてくると時雨の胸倉を掴み、そう吐き捨てるように言った。
『貴様、早々にこの手をどけぬか。
さもなくば、今度は本気で焼き払うぞ。』
『はっ、やってみろよ!
お前の脆弱な炎なんかじゃ俺には傷一つ付けれないぜ?』
『言ったな?
ならば我に喧嘩を売るという自身の愚かな行為を恥じながら焼き尽くされるがいい!』
「ちょ、ちょっと待って!」
一触即発な雰囲気だけれど、私にも話をさせて!
っていうか、こんなところでそんな争い始めないで!
私の制止の声を聞いてくれたのか、2人は争うのをやめた。
…どちらも戦いたくてウズウズしているようだけれど。
「えーっと、まず確認ね?
銀髪の貴方は、シロ…なの?」
私の問いかけに対し、その男は二パッと太陽のように笑い
『そうだぜ光希!
お前がシロっつってたのは俺のことだ!
本当は人型で会いたかったんだけどよ、いきなり変化すると光希が俺から離れていっちまうかと思って怖くて出来なかったんだ…
でも、ばれちまったもんは仕方ない!
光希は俺のこと、大きな犬だと思ってたかもしれねぇけど、俺は狛犬っつって神様に仕える神使なんだ!』
「狛犬?…神使…?」
狛犬ってあの神社にいる?
え、石像が実体化したの?
『なるほど、狛犬か。
それならば獣くさいのも頷けるの。
…其方が狛犬ならば北の妖怪頭…雷獣の朔を知っておるな?』
『もちろん知ってるぜ?
兄貴は俺たちの憧れ!孤高の存在!くーっ最高に痺れるぜ!!』
『そうか。朔を知っておるのなら話は早いの。
よいか、小童。
我は西の妖怪頭、九尾の時雨。
そなたの尊敬してやまぬ雷獣の朔と同等の妖である。』
『…は?
嘘だろ。九尾の…時雨…?
なんでそんなやつがここにいるんだよ!』
『もちろん、我が妻の窮地であったのでな。
助けに来たまでのこと…
しかし、其方はことの重大さを理解しておるか?
其方は妖怪頭の妻に手を出そうとした挙句、あまつさえ命を危うくさせたのじゃ。』
ギロリ、時雨が睨むとシロは言葉を詰まらせた。
『…で、でも…
光希は、俺の…俺に名前をくれた…っ!!
大切な、大切なやつなんだよ!!』
『其方に名をやったのが我が妻であってもだな…
…む?
なに、名をやったと?
それは真か?』
『そうだ。
光希は実体化した俺に初めて気づいてくれた人間で、俺を認識し、名をつけてくれた。
毎日俺に会いに来てくれてたのに、急に来なくなって、心配してた…
久しぶりに来たと思ったら、違う獣の匂いがするし、なんか変な匂いのする御守り持ってたから上書きしてやったんだ。
だって、俺、凄い心配してたのに…もしかしたら、光希に何かあったんじゃないかって…
なのに、なのに…俺以外の匂いつけてきたのが許せなかったんだよッ!!!』
シロはそう言い切ると地に伏せてオンオンと泣き始めた。
『泣きおった、この男…』時雨も少し引いていた。




