対峙
走ろうとしても、思うように足が動かない。
それでも懸命に、彼女から離れようと試みる。
そしてたどり着いたのは会議室だった。
そこは会議室とは名ばかりの使わない机や椅子などが収納されている部屋だった。
そこで身を隠そう。
会議室に入り、机の隙間に身をひそめる。
…私は、どうすればいいのだろうか。
シロは彼女を引き止めてくれている。
…なぜシロは、私にそこまでしてくれるのか。
それにこの空間は?
さすがに嫌という程気づいている。
ここは学校ではない。学校を模した何かだ。
異空間、というか…とにかく現実ではない。
なぜこんなところに飛ばされた?
それに先ほどの声。
彼女が願った。だから叶えた。
…彼女は…高千穂先輩は私を殺そうとしている。それを願ったということか。
…いや、待てよ。彼女がそれを願ったとしたら、なぜここにシロがいる?
シロは一体どこから来た?
…だめだ。考えても考えても纏まらない。答えがない問題は嫌いなんだ。
とにかく、なんとかして彼女を迎え打たなければ。そうしなければ私は確実に殺られる。
助けを求めようにも、頼れる相手がいない。
…1人だけいたけれど、彼は多分、来ないだろう。
昨日喧嘩してしまったし。仕事みたいだし。
彼にもらったお守りを見やる。
すると少し、恐怖心が薄れた。
ーーーーーズルっーーー…ズルっーーーー
「!?」
廊下から何かを引きずる音が聞こえる。
これは、彼女だ…
シロは、無事だろうか。
…いや、今は目の前のことだけを考えよう。
私は近くに落ちていた箒を手に取る。
剣道とかしたことはないけれど、なにもないよりはマシだ。
扉が開いたら、奇襲をかける。
ドクドクと、心臓が激しく動いている。
手には汗がにじむ。緊張している。
廊下の窓に影が映る。
…なにかがおかしい。彼女の形に違和感を覚える。なんだろう、この感じは。
ズル…ズル…ーーー
引きずる音は、扉の前で止まった。
そして…
ーーガラガラ…ーーー
扉が開いたと同時に、私は彼女に殴りかかった。
しかし。
「なっ
なによ、それ…」
結果的に彼女への奇襲は失敗に終わった。
私の攻撃は止められた。手ではない…その黒い触手のようなものに。
触手は掴んでいた棒ごと私を投げ飛ばした。
「ーっ!?!」
床に思いっきり打ち付けられた。痛い
そんな様子を見ていた彼女はケタケタと笑い始めた。
ケタケタケタケタ笑う。嗤う。
するとそれに同調するかのように、体がどんどんと膨れ上がっていく。
「…?」
それは醜く膨らみ、触手のようなものを何本も生やし、最終的には体の下半身を化け物に飲み込まれたような形になっていた。
そんな姿になっても、彼女はケタケタ狂ったように笑う。
脳内で警報が鳴る。
これはもはや人ではない化け物だと。
対峙せず、逃げろと。
しかし逃げることは不可能に近い。なんせ私は足が使い物にならない。走れない。
つまりそれは、逃げれないのだ。
ならば…
「向き合うしか、ないでしょう。」
首からかけているお守りに手を置く。
…なにが、どこにいても助けに行く。よ…
結局、来てくれないじゃない。
「…せめて、私を少しくらい守りなさいよ。バカ」
傍に落ちている棒を手に取り、また構える。
敵はそれを察知したのか、私を触手で捕まえようとする。
「…ったく、どこのエロ本よ!触手なんて!!」
悪態をつきながら防戦するが、徐々に捌けなくなってきた。
そんな中で
「ーーッ!?」
右の脇腹に思いっきり攻撃が当たり、横に飛ばされる。
あ、これはやばい。何本か骨をやったかも…
激痛が私を襲う。やばいな、これ。立つのもしんどい…
「っ、」
痛い。痛い、な…
もう、頑張るのも疲れた…
ケタケタケタケタ。笑い声が近づいてくる。
殺されるんだな、私…
彼女の上半身が、私に近づいてくる。
そして、その手がまた、私の首に伸びてくる。
私はゆっくりと目を閉じる。
そしてゆっくりと力が込められる…
…はずだった。
ーーーーーーーパンッーーー
首の締まりの代わりに、何かを叩く音が聴こえた。
そしてソッと誰かに抱きかかえられる。
「…?」
閉じていた目を開くと、そこには…
『其方は!なぜ!今世の境におるのじゃ!!』
ご立腹の時雨がいた。
その理由は私も聞きたい。




