高千穂先輩
朝、気まずさが残りながらも朝食を食べに広間へ向かう。
だがそこには時雨の姿はなかった。
吹雪に聞くと、朝早くに時雨は仕事で家を出て行ったという。
もしかして、気まずくて早く出たのかも…そう思いながらも安堵している自分がいた。
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いつもより少し早く学校についた。
教室には誰もおらず、シンっと静かであった。
人が居ないからか、空調の関係からか、教室は少し肌寒い。
椅子に座り、一息ついた時教室の扉がガラリと開いた。
視線を向けるとそこには
「高千穂先輩…」
昨日突っかかってきた先輩がいた。
「…なんですか。また突っかかりにきたんですか?
昨日話しましたよね?
アレは誰にも見せないから私にはもう関わらないでくれって…
それなのに、まだ私に何か用ですか?」
先輩をキッと睨む。
…と、彼女の様子がおかしいことに気がついた。
「…先輩、体調悪いんですか?
なんだか顔色が悪いですけれど…」
下を向いているから見えにくいが髪の隙間から見える彼女の顔色は例えるのならば土色。
とても健康な人とは思えない。どちらかというと病人のようであった。
そして足を痛めているのか、 引きずりながら私に近寄ってくる。
そして彼女が私にその顔を向けた瞬間
ゾッと、した。
その瞳にまるで生気を感じられなかったからだ。
彼女の瞳には光がなかった。どこまでも暗い、闇が続いている。
どれくらいかわからない。数分、もしかしたら数秒の事かもしれない。
私は体を動かせずにいた。
恐怖心からなのか。まるで金縛りにあったようだった。
視界の端に、彼女の両手が見える。
それはゆっくりと私の首に伸びてきて…
『ーーーワンッ!!!』
犬の鳴き声と、ドンッと何かが倒れる音で我に返った。
「っシロ!!」
シロはまた1つ、『ワンッ』と鳴くと私のスカートを引っ張った。
この子はどうやら私に逃げろ。そう言っているようだった。
倒れている高千穂先輩に目を向ける。すると彼女は立ち上がろうとしている最中であった。
先ほどは気づかなかったが、彼女の足や手には青アザができていて、そして足はどうやら折れているようだった。
…こんな状態で、彼女はどうやって歩けたのか。
『ワンッ』
シロがまた鳴く。
この子はどうやら私を助けようとしてくれている。
ならばこの子に従うのが賢明だろう。
「ごめんね、シロ。
行こう。」
頭をひと撫ですると、彼は尻尾を一つ振って進みだした。
私もその後を追う。
走れない私を気遣ってか、彼はゆっくりとしかし辺りを警戒しながら私を正面玄関まで連れてきてくれた。だが…
「…嘘。開かない…」
さっき来た時は開いていたドアが全て閉ざされていた。
鍵は内側から開けられるはずなのに、それすらも開かない状態。
これは、一体…
『グルルルル…』
シロがまた唸る。
後ろを振り向くと、先輩が階段から降りているところだった。
「…一体何が起きてるの…?」
“クスクスクス…”
どこからか、笑い声が聞こえる。
「な、なに!?」
“彼女は願った。貴女の不幸を。
だから叶えた。対価を貰って。
彼女の魂は私たちのもの。そして貴女の魂も、ボク達のもの。”
女とも男とも取れないような声が脳裏に響く。
彼女は…高千穂先輩…?
なら、もう…死んでいるということ…?
『ーーー…なぃ…』
「…?」
だんだんと近づいてくる彼女が、何かを呟いているのに気付いた。
耳をすませてみると彼女は…
『許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…っ!』
永遠と、その言葉をつぶやいていた。
『ワンワン!
グルルルル!!ガゥッ!!』
高千穂先輩にシロが噛み付く。
しかし、彼女はポチをバシッと払いのけてしまった。
…彼女のその細い腕からは考えられない力。
…これは、なんだ…?
払いのけられても、彼は彼女に食らいつく。なぜ?
なぜシロはそうまでしてくれるのだろうか…
疑問ばかりが浮かぶ。
『ワン!!』
シロが今までになく大きな声で鳴く。
嗚呼、今はそんなことより逃げなければ。
シロを見ると彼は先に行けと言うように首をふった。
「っ!」




