悪魔
その言葉がトリガーだったのだろう。
彼女は怒りで顔を真っ赤に染め
パンッ
私の頬を平手打ちしてきた。なにこれすごい痛い。
「…っ、あーあ。
手を挙げましたね?私に…」
ギロリ、睨んでやると彼女は血の気が引いたように真っ青な顔になる。さっきとは大違いだ。
でも彼女は続ける。私にズケズケと毒を吐く。
『な、なによ!!
あんたに何してもいいじゃない!
だってあんたは!!1人なんだから!
そ、そうよ。助けてくれる人なんているはずかないわ…貴女は嫌われ者で、一人ぼっちなんだから!』
「…そうですね。私は嫌われ者の一人ぼっち。
認めましょう。でもね、先輩?
これがあったら貴女も流石にそんな悠長なこと言ってられませんよ?」
ポケットから出したのはボイスレコーダー。
それを再生してやると、先ほどの一部始終が流れた。
「これ、どうしましょうか?
そうですね〜…
先生に聞いて貰えばいいですかね?
そうしたら貴女、せっかく繰り上がりで選手になったのに…退部ですね?」
ニヤニヤと、今度は私が笑う。
彼女はまるで悪魔を見るような目で私を見てきた。
やだなー、そんなに怖がらないでくださいよ。傷つくじゃないですか。
『あ、悪魔…!』
あら、悪魔って言ったよ。この人。
「ふふふ…悪魔はどっちだよ。
あんたが先に仕掛けてきたんじゃないか。
いつもいつも、自分の力不足を私に当たることで発散しやがって。
私からしたらあんたの方が悪魔だね。
どう?下に見てたやつに脅されるなんて…ははっ
ほんっとうに!バカな先輩だね?」
本当に笑えてくる。彼女はやはり恐れたように私を見るけれど。そんなことは関係ないよ。
私はただ平和に学校生活を終えたい。
ならばこんな障害、とっとと排除しておかなければ。
「先輩?わかりますよね?
私が何を言いたいか…
もう私に構わないでください。貴女の相手をしているほど、私、暇じゃないんで。
もしまた何かやろうとするならば、コレ。先生に渡しますから。」
そう言ってボイスレコーダーをちらつかせると、彼女はチッと舌打ちして悔しそうに帰って行った。取り巻きもそのあとに続く。
ふぅ、やっと行った。
それにしても取り巻きの人たち、何も発言しなかったな…
助けるそぶりも見せないし。
それに…
なんだか、顔色も悪かったような…
…まぁ、気にしなくていいか。
どうせあの人とはもう関わらないのだから。
これで学校生活も平和に過ごせる。
そう確信を持って私は少しウキウキしていた。
…でもこの話はここで終わらなかったのだ。
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くそっくそっ!
なんなのあの子!
“私”はイライラしながら廊下を早足で歩いていた。
前から気に入らなかった子だった。
私が必死になって掴んだチャンスを横取りする子。
だからいじめてやった。そうしたら上手くいった。
最初はもてはやされていたあの子も、今やひとりぼっちだ。
そしてさらに願った。
【あの子が走れなくなればいい】と…
願って数日後、あの子は走れないほどの大怪我を負い、部活を退部した。
そうして私はまたチャンスを取り戻した。
嬉しかった。でも気になった。その子のことが。
だから様子見もかねてあの子に接触した。
そうしたら…
『むかつく!
なんであんなもの持ってるのよ!』
“どうしよう”という焦りと、不利な状況になってしまった事への怒り。
それがさらにあの子への怨みを募らせた。
あの子さえ、居なくなれば…ッ!!
〔その願い、叶えてやろうか?〕
『…!?!』
〔驚かないで。君が前のように願えばいいんだよ。
そうすれば私達が叶えてあげるよ。〕
頭に響く声。
普通ならおかしい事に気づく。でも怒りでいっぱいの私はそのおかしさに気づくことができかった。
『ど、どうすれば…』
〔簡単だよ。願ってよ。そうすれば叶うよ。
でもね。この願いには対価が必要だよ?
それ相応の対価が…〕
さっきと違う声がまた脳裏に響く。
『対価…?
それを払えばいいのね!いいわ!払うわ!
私はここで終わるわけにはいかないの!
払うから私の願いを叶えなさい!』
〔いいんだね?
それでは叶えよう。君の願いを…〕
やった、これであの子がいなくなれば私は苦しむことがなくなる…
そう安心した瞬間
ドンッ!
私は体を押された。
『…え?』
壁に当たる感触がない。
私の体は宙に浮いている。
あ、ここ、階段だ…
そう理解するのに少し時間がかかった。
『い、いや…っ』
手を伸ばすも何も掴めない。
そしてそのまま、体を何回も打ち付けて、私は倒れた。
また脳裏に声が響く。
〔対価はもらったよ。
君の命と引き換えに、彼女を始末しよう。
よかったね。これで君は恐れるものはなくなった。自由だよ?〕
その声は、何人もの声が重なっているようで…
恐怖を感じながら、私は意識を手放した。




