学校
「ーーー…それじゃあ行ってきます。」
『うむ、気をつけて行っておいで。
帰りはまたここに来るようにしておくれ。
我がまた道を開けるでの。』
そう言うと時雨は横開きのドアをゆっくりと閉めた。
…“道を開ける”
そう、私は今家の前で彼に声をかけたのではない。
これは送り迎えを拒否したことで新たに考え出された登下校の方法であった。
道。ケモノ道。
時雨が開いたのは妖が通れる道。
元はバケモノ道と言われていたらしいが、いつからかそれは“ケモノ道”と呼ばれるようになったとか。
普通の人の認識は、山犬や熊が出そうな山道のことだと思うであろう。
しかしケモノ道は妖のオンパレード。
言うならば居酒屋の立ち並ぶ道沿い。朝からどんちゃん騒ぎ。
そんな中を通ってきたのだ。
「…疲れた。」
朝からドッと疲れを感じている。
こんなのでこれから過ごすことはできるのだろうか。
…いや、考えていても仕方がない。
過ごすしかないんだ。この生活に、慣れなければ。
「…そうだ。帰りにあそこに寄ろう。」
実家に住んでいた時によく部活帰りに行っていた場所。
あそこにはシロ”がいる。
帰りに癒してもらおう。
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教室に入ると空気が一気に引き締まった。
…それもそうだろう。ずっと休学していた学生がいきなり何事もなく現れたのだから。
周りでヒソヒソ。こちらを伺っているのを感じる。
…こうなることはわかっていた。
学校に行った瞬間、好奇の目に晒されることなど。
だがそれも慣れっこだ。
なんせ私は、こうなる前から“好奇の目”には晒されてきたのだから。
1年で大会に選ばれる。
それは名誉なことだ。
しかし同時に同期や先輩からの妬みや嫉みを買うこともある。
周りと上手くやれていたならそうもならなかっただろう。
しかし私は周りと上手く渡り合っていく術を持っていなかった。
なのでもちろん、衝突したよね。それはもう盛大に。
物は隠され、教科書はビリビリ、机はぐちゃぐちゃ、おまけに無視ときた。
“まるでドラマのようだ”
と、思う人もいるだろう。
でも実際にあるのだ。現実に。
それを何食わぬ顔でやり過ごしていると、相手は気にくわないのか悪化した。
…いや、今はそんな話をしている場合ではない。
つまり何が言いたいのかというと。
私は決して屈しなかった。そして目標のために頑張った。そして事故にあい、現在に至る。
クラスメイトはそれはそれは複雑そうな顔をしている。
“どう接していけばいいのだろう。”
みんな顔にそう書いてある。
私としては無理に関わりを持とうとしてほしくないところである。
人と関わらず、安心と安全の普通ライフを過ごしたい。
それが今の私の願いである。
そんなこんなで気まずい空気のまま、チャイムがなり担任が入ってきた。
担任は私を見るなり複雑そうな顔をするが、何も触れずにみんなの顔を見る。
『えっと、早速ですが
このクラスに転校生が来ました。
えっと、遠くから来たということなので皆さんも助けてあげてください。』
気弱な担任はそう言ってその転校生を呼んだ。
そいつが入ったきた瞬間、女子は金切り声を上げた。もちろん、私以外の女子ね。
金切り声を上げられた当の本人は心底げんなりとした顔で私たちを見た後(一瞬目があったかのように感じたけれど、それも勘違いだろう。私まで自意識過剰になりたくない。)
『烏合天喜だ。
よろしく。』
心底よろしくしたくなさそうな顔でそう言った。




