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狐に嫁入り!  作者: 春海
出会い
14/48


++++++++++++++++++++++++++++++++++++




その日、私は夢を見た。



夢の中で私は、2人の人物を見ている。

着物を着た男女。

女性の顔はしっかりとわかるのに、男性の顔はモヤがかかっているようでよくわからない。


その女性は美しかった。

少し気の強そうなつり上がった瞳。化粧っ気はなかったがどこか利発そうな顔立ちだった。

そして、男性に向ける表情が…とても美しかった。

2人は恋仲なのだろうか。仲睦まじい姿が眩しかった。



…なぜ、私がこんな夢を見ているのだろうか…



その疑問が脳裏に浮かぶ。

でもそれを解決する手立ては私にはない。




どれぐらい2人の姿を見ていただろうか。

急に体がゆっくりと引っ張られる感覚に陥った。


嗚呼、目覚めるのか。


そう理解した時、場面が一変した。


次に見たのは先ほどとは違う闇に包まれた情景だった。



何故?

何故今度は夜に…?



その思いとともに、突如走った腹部の激痛。

反射的に痛みのある場所を抑えると、ヌメッとした感覚が私を襲った。



「?!」



私は何故か、腹部から血を流していた。

あまりの痛さに倒れこむ。

意識が、遠のいていく…



“嗚呼、まだ目を閉じてはダメ。

あの人に伝えなくては…”



誰かが頭の中でそうつぶやく。

誰だろう。何故、私の頭の中で声が聞こえるのだろう…

朦朧とする意識の中、その疑問が浮かぶ。


そして、体がゆっくりと動く。

いや、無理に動かしている。地を這い、この体はどこかに向かおうとしている。




“最期に、一目でいい…

彼の姿を見て、伝えたい…

貴方を永遠に、愛していると…”



脳に響く声、その思いを聞くと思わず涙があふれた。


【嗚呼、そうだった。

私は彼を“愛していた”】


だからこんなに苦しいのだ。

彼とともに生きようとした。今日この日に…

私は死ぬのだから。



徐々に動きが鈍くなる。

瞼を上げるのも億劫になり、体が鉛のように重くなる。

そうか、これが…これが、死か…



薄れゆく意識の中、誰かが私を抱き上げた。


ごめんなさい、目がもう見えないの。

嗚呼、でもわかる。この温もりは…

いつも感じていたものだから。




「“愛しているわ…貴方を…とわ、に…”」



だから悲しまないで。

どんなに時が過ぎようと、私は貴方の元に戻ってくるから…

だから、泣かないで…

必ず戻ってくるわ。

貴方の元に…


だから、その時は…私を見つけて。

そうしてまた抱きしめて…



彼が私の名を呼ぶ。

もう答える気力もない。

ここで、終わりか…


死の気配を感じる…



そんな不思議な気配を感じながら、私は夢から覚めようとしていた。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++




「…ッ!?」



目を覚まし、一番に思ったことは

生きていてよかった。

ということだった。


…理由はわからない。

でも何か、そう思わせるようなことがあったのだろう。夢の中で…



「…?」


目元に触れると、濡れていた。

何故、泣いているのだろうか。

これも夢が関係しているのか…


一体どんな夢を見ていたのか…

どんなに思い出そうとしても、思い出すことはできなかった。



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