モヤモヤ。
時雨はジッと私を見てくる。
『…もし我がそれ以外の理由で其方を選んだとしよう。
その事実を知って、其方は平気でいられるか?』
「そ、れは…わからないけど…」
そんなに、奥の深い質問だっただろうか?
私は顔で選んだとか、そういうのもあるんじゃないかと思ったんだけれど。
まぁ、何か深い理由があるかもって、少し、ほんの少しだけ思ってはいたけれど。
『…誰かが傷つく選択をしても、誰も幸せにはならぬよ。
我は誰かを不幸にする可能性があるのなら、口を閉ざす事を選ぶ。』
…結局、彼は最後まで本当の理由を教えてくれなかった。
“誰かを不幸にするかもしれない”
そう言った時雨の顔は忘れられない。
あんなに悲しそうな、泣きそうな顔をするとは思わなかった。
…時雨は、過去に誰かを傷つける選択をしたのだろうか。
それを今もなお、悔やんでいるのだろうか。
「…わからない。」
わからないけれど
彼があんなに悲しそうな顔をしないようにしよう。
…いつか、彼が話してくれるまで待とう。いつになるかはわからないけれど。
「時雨、ごめんね。」
『…なぜ、そなたが謝る。』
「だって、なんか悲しい顔したから。
貴方の触れてほしくないところに触れてしまったかもって思ったのよ…」
『優しい子よの、そなたは…
…ありがとう。』
時雨は微笑み私の頭をくしゃり、撫でると『人を呼んでくる』と部屋を出て行ってしまった。
その時私は彼の微笑みに少しの違和感を覚えた。
なんだろう。何かが引っかかる。
もやもや。胸の奥から何かモヤモヤとした感情が湧き上がってきている。
そしてそれは1つの胸の突っ掛かりとなる。
《彼は本当に私の存在を“光希”として見ているのだろうか…》
思えば面と向かって名前を呼ばれていない。
病院で寝たときに呼ばれた気がしたが、あれも現実か怪しい。
「…誰かの代わりだったりして…」
あ、なんか言ってて虚しくなってきた。
止めよう。でももし、この読みが当たっていて…
私が誰かの代わりだったと知った時
心の傷を深く負わないように
壁を作っておかなけられば。
好きになってはいけない。
そういう壁を作っておこう。




