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いじめられっ子と思い出ロボット

作者: 純白米


 その中学生はいじめられていた。


周りから物を隠され、からかわれ、攻撃を受けていた。

以前は仲の良かった友人も、今はもう見て見ぬ振りだ。

誰も助けてくれなかった。


こんなに苦しい想いをしてまで、生きて何になるのだろうか。

何のために生きているのか、分からなかった。


「もう、死んでしまおう」


 そう考えていた時のことだった。

突如、少年の目の前に見たことも無いロボットが現れた。


「こんにちは。私はあなたに会いに来ました」


心当たりはなかった。家族以外の人とまともに会話をしたのは久しぶりだった。


「君は、誰?」

「愚問ですね。どれ、少し頭を貸して下さい」


謎のロボットはそう言うと、少年の頭を鷲掴みにした。


「ちょ、何するんだ・・・!!やめ・・・」


間もなくして、少年は意識を失った。




―――おぎゃあ、おぎゃあ。おぎゃあ、おぎゃあ。


 少年がその泣き声で目を開けると、そこには女性の姿があった。


「あ。母さんだ」


それは、少年の母親であった。これ以上ない笑顔で、涙を流している。

少年は話しかけようとしたが、声は出なかった。手足の感覚もなかった。

あるのは、視覚だけだった。


「おおお!!やった!!やったぞ!!母さん、良く頑張ったな!!」


そこに現れたのは少年の父親であった。

母親と同じく、笑いながら泣いている。何かを喜んでいるようであった。


「これは・・・もしかして・・・」


 少年の視界は徐々に暗くなっていった。

一瞬、目の前が真っ暗になると、すぐに次の光景が見えてきた。



「よーし、そうだ、その調子だ・・・いいぞ、頑張れ・・・」


少年の目に映ったのは父親の姿だった。


「あ!!!た、立った!!立った!!!立ったぞ!!母さん!!母さん!!」


子どものように喜び走り回る父親は少し可笑しかった。

母親を呼びに行く途中で、机に足をぶつけて痛がる姿が少年にはまた笑えた。


視界はいつも突然フッと暗くなり、また次の光景に移る。


「いいか、途中で手を離すからな。そのまま漕ぐんだぞ。よし、行け!!」


 今度の光景では、父親の姿は見えなかった。

しかし、後ろから聞こえてくるその声は、間違いなく少年の父親のものであった。


しばらくして、少年の遠く後ろの方から、再び父親の声が聞こえてきた。


「おーい!できたぞー!!できてるぞー!!ちゃんと一人で乗れてるぞー!!」



それからも、様々な光景を少年は目にした。

どれも初めて見る光景であったが、でもどこか見たこともあるような懐かしいものだった。


 最後の光景が終わり、目を開けると自分の部屋にいた。体の感覚も戻っている。

振り返ると、さっきのロボットがいた。


「今のは、君の仕業なんだね」

「はい」


「今見せてくれたのは、過去の僕が見ていた光景?」

「はい」


少年にとってそれはそれは楽しい時間だった。

忘れていた楽しかった時間を思い出した。

しかし、戻ってきてしまった。辛い今の時間に。


「・・・ずっとあの時間が続けば良かったのに」


少年は呟いた。するとそれにロボットが答える。


「大丈夫、時間は必ず過ぎ去るから」


少年は首をかしげた。


「楽しい時間も苦しい時間も、みんな平等に過ぎ去るんだよ。

 この時間がずっと続くことなんて有り得ない。必ず終わりが来るんだよ。

 だから、死にたいなんて言ったらダメだ。

 君が何のために生きていて、生きていて何になるかは分からないけど

 それでも君が生きているだけで、喜んでくれる人が必ずいるから

 君が声をあげただけで、君が立ちあがっただけで、君が一人で自転車に乗れただけで

 幸せを感じた人がいるんだから。その人たちのことを忘れてはいけないよ」


ロボットはそういうと、少年の前から煙のように姿を消してしまった。


「・・・君のおかげでわかったよ。実際に見て初めてわかった。忘れていたわけじゃない。

本当は何にも知らなかったんだ。知っているつもりになっていただけ」





――――時は流れ、20XX年。


「このように、このロボットは脳に特殊な電波を送ることで、その人が忘れてしまっている過去の記憶を映像として見せることができます」


「博士。そんなことをして、何年後・・・いや何十年後かに、脳に悪影響が出ないと言い切れるのですか?」


「はい、大丈夫です。何故なら、私はこれを中学生の頃に体験済みなのですから」



時は流れ、20XX年。車は空を飛び、物は過去へと送れる時代になっていた―――

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