ボクシング部編終了
習慣的に返事する。
「はい」
ユウヤの返答に、怒声が吐き出される。
「てめえ、よくもウチの可愛い部員を可愛がってくれたな。全殺しにしてやるから、出て来いや!!」
モニターに映ったのは、オウマにボクシング部を壊滅させられた主将、原田拳だった。
コブシは、風紀委員会副委員長から事情聴取を受けていた。
その際に、被害状況も聞いている。
副委員長の前では、激怒りんこ沸騰ファイヤー怒髪天ぷんぷん丸を抑え、大人しくしていた。
しかし、事情聴取が終わるや否や、学院事務局のカキタレを金で買収し、オウマの住所を入手し、ここに急行したのだ。
このマンションは、一階でのオートロックだ。
兄妹の部屋は三階である。
二階下の玄関エントランスで、真紅の運動着は吠える。
頭に血が上ったコブシは、ユウヤの声であることに気付かない。
大声でその逆上のまま、怒鳴る。
呼び鈴を何度も鳴らす。
ピンポーン。
「逃げるんじゃねえぞ」
ピンポーン。
「絶対に殺してやるからな」
ピンポーン。
「俺が怖いのか」
ピンポーン。
「毎回毎回逃げやがって」
ピンポーン。
「逃げるんじゃねえぞ!!」
ピンポーン。
「一族郎党皆殺しにしてやんぞ」
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
「うるさーい!!」
ユウヤが一喝する。
大声でわめくコブシと、連打される呼び鈴に、ユウヤの堪忍袋は臨海点に達した。
どいつもこいつも好き勝手に、お兄様との生活を乱しやがって。
激怒りんこファイヤー怒髪天はらわた噴火の勢いのまま、リビングを飛び出していく。
一つ一つの排除を開始する。
「殿の戦に婦女子が関与するなど、無粋の極みですが、一族郎党皆殺しと言われては、正室である私も黙ってはおられません。あのような敗戦の落ち将など、殿のお手を煩わせるまでもございませぬ。私目が斬って参ります。では」
正宗は、オウマに頭を下げた後、愛刀を片手に、ユウヤの後を追った。
バタン、バタン。
「あらら、二人とも行っちゃったね。この部屋は熱いわね。それとも皇眞くんが、私を熱くさせているのかしら」
玄関のドアが閉まるのを見届けた後、オウマから一旦離れる。
立ち上がり、美子は上着を脱いだ。
ジャケットを椅子にかけ、ブラウスのボタンを外していく。
「うふふ、代わりに戦うなんて、二人とも元気ね。でも、疲れた殿方を癒せるのは、三人では誰なのかしらね」
ブラウスのボタンを外し終わる。
美子の胸元は、今にもはだけそうだ。
「うふふ、それは私でしょうね」
スカートのホックに手をかける。
それをストンと落とし、脱ぐ。
ゴクリ。
椅子に座ったままのオウマは、また喉を鳴らす。
美子はゆっくりその上にまたがる。
形の良いお尻が、オウマの股間を直撃する。
「さあ、楽しみましょう」
美子が、オウマの首に両手を回す。
動く度に、お尻が股間を圧迫する。
もうダメだ、あー!!
オウマが昇天すると同時、コブシも違う意味で昇天していた。
モニターにその姿が映っていた。
ユウヤの飛び膝蹴りが襲ってきた。
神から与えられた反射神経で、何とか避ける。
両腕を交差したL字ディフェンスで何とか捌くも、距離は詰められている。
距離を取ろうとジャブを打とうとした瞬間、脇腹に痛みを感じる。
ユウヤを隠れ蓑に、突進していた正宗が、愛刀も鞘で突いたのだ。
正宗の愛刀は、殿に叩き折られている。
愛の証で刃が折られているので、刀を抜かず鞘のまま杖術として使ったのだ。
硬い樫でできた鞘が、コブシの左裏脇腹に突き刺さる。
箇所は肝臓。
ボクシングで言うギドニーブローだ。
急所への被弾に、コブシの息が詰まる。
コブシの耐久力は低い。
今まで全弾回避できていたので、鍛えられなかったのだ。
また痛みを嫌うコブシは、超高重量球体を使っての、耐久力訓練を行わなかった。
一撃で足が止まる。
その隙が命取りになった。
ユウヤの肘と膝、正宗の突きの波に飲み込まれた。
その場でボコボコにされる。
ここはリングではない。
審判もいない。
スタンディング・ダウンなど取ってくれない。
コブシは立ったまま、昇天した。
元々狭いエントランス内だ。
ご自慢のフットワークを生かせない場で、急襲されたコブシに、元々勝ち目は無かった。
コブシには戦術のセンスは有っても、戦略のセンスが壊滅的に無かった。
残念。
床に倒れなかったことが、せめてものプライドだった。
ボクシング部編終了




