表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
56/62

きょうじん

 鋼の刃は、パンにバターを塗るような滑らかな動きを見せる。

 ジャージもろとも血管を断ち切った。

 切断された動脈が勢いよく、酸素混じりの鮮血を吐き出す。

 それはパンツに跳ね返り、運動着の真紅以上に、副主将の股間を濡らしていった。

 お漏らししたような温かさに、副主将は涙目になる。

 温かさが止まる気配が無かったからだ。

「ああああああー」

 膝が切られ、太股が切られ、大量の出血が止まらない。

 副主将は信じられないものを見ているかのように目を見開き、口を半開きに声を漏らしていた。

 切った相手は、引き抜いた際に後ろに飛んで距離を取っている。

 真っ赤に染まった股間と、相手を見やる。

 相手は斬った刀を、まだこちらに向けて構えている。


 正宗は倶楽部紹介時に見せた、右上段での、蜻蛉の構えを取っていた。


 刃がこちらを向いて、天を突いて立っている。

 その持ち主は、嬉しそうだ。

 目はこちらを射抜くかのように鋭いが、口角がつり上がっている。

 人を斬ったことに、人体を破壊したことに何の憐憫もない。

 どころか、今にも飛びかかってきそうだ。

 ここまでしておいて、まだ足りないのか?

 こ、殺されるー。

 副主将の本能が訴える。

 相手は気狂いだ、法治国家で人を斬るなど常軌を逸脱しすぎている。

 学生ガキの喧嘩ではすまない。

 銃刀法違反、傷害事件による実刑(ブタ箱行き)だ。

 将来は確実に閉ざされる。

 自分には輝かしい未来がある。

 世界王者になる夢がある。

 その種を高校王者として蒔いている。

 相手も同じだ。

 剣道部主将、風紀委員長、助太刀筆頭で、統率力リーダーシップを持っている。

 また学業も、成績順位では自分と同じく上位にいる。

 その未来は保証されている。

 大学校でも同じような席に着き、そこで得る経験により自分の能力を向上させていくだろう。

 実社会においても、組織で得た人脈コネクションを使い、活躍していく違いない。

 相手にも、輝かしい未来があるはずだ。

 なのに、なのに、コイツは!?

「あああああー!!」

 副主将は、自分の間近に迫ってくる凶刃に、小便を漏らした。

 股間が血と体液で塗れる。


 正宗は刃を返し、刃裏で副主将を叩いた。

 脅えて泣く者を叩き斬るほど、獣は安くはない。

 鋼の棒は、難なく副主将の鎖骨を粉砕する。

「くく」

 先ほどは味わえなかった、砕いた骨の感触に、正宗は笑い声を漏らしてしまった。

 前のめりに崩れていく副主将を、正宗は乱暴に足裏で蹴る。

 副主将が仰向けに倒れる。

 地面にどっと背中が跳ねる。

 切った太股の先の足を、袋小路の横の壁に立てかけてやる。

 心臓より高い位置にしたことで、出血が治まる。

 放置しておけば失血死しかねない。

 小便を漏らした相手を殺すほど、獣は悪食ではない。

 むしろ食通グルメなのだ。

 どうせ食うなら美味い肉だ。

 その肉に、正宗は向かっていった。


 肉は動かない。

 ずっと、こちらを見ている。

 肉のまわりには、食い散らされた獲物が六体転がっている。

 肉からは、自分と同じ匂いが漂ってくる。

 この男なら、こんな汚れた私でも受け止めてくれるかも知れない。

 正宗の目に涙が一粒浮かぶ。

 刃を相手に向ける。

 蜻蛉に構える。

 倶楽部紹介で、束ねた巻き藁を相手に見せようとした三人斬りの構えだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ