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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
55/62

素手 vs 日本刀

 副主将のリーチは長い。

 同じ階級の世界王者より二センチ長かった。

 出入りしているプロボクシングジムの会長が、初見時にナイスボディと抱きついて来た。

 それほど、ボクシング向けの体格だった。  

 俺が刃物にビビるとでも、思っているのか。

 中等部のやんちゃ時代に、バタフライナイフを向けられたことがある。

 その時は、習いたてのフリッカーでカウンターを取った。

 顎先を打たれた相手は、脳震盪を起こし、その場に倒れた。

 その際に持っていたナイフが、相手のジーンズの太股に突き刺さった。

 喚き声が最高に笑えた。

 後から聞いたところによると、相手の顎は軽く砕けていたらしい。

 それを再現する。

 一発打って、距離と速度を確認する。

 女委員長の顔面を下から跳ね上げる。

 イメージ通りに拳が動いた。

 調子は良い。

 後は砕くだけだ。

 副主将はつま先の上げ下げで、迎撃のリズムを整えていた。


 たまらない。

 もう我慢できない。

 肉と骨と血がそこにある。

 相手はやるき満々だ。

 やらなきゃやられる。

 いや、防衛心なんて嘘はつけない。

 正直に言おう。

 こちらがやりたいから、やるだけだ。

 攻撃心のみだ。

 相手の肉と骨を血を食らいたいだけだ。

 少しでも速く早く、今すぐに食らいたい。

 本能に従い、最速の剣技、突きを選択する。

 刃を上に、切っ先を前に向け、腰溜めに構えたまま、突進する。

 正宗は加速していく。

 獲物に飛びつくように、その速度はどんどん高まっていく。

 前に倒れそうな勢いで、ほどんど倒れそうになりながら、地面を疾走する。


 獲物が間近に迫る。


 副主将は前に踏み込み(ステップ・イン)と同時、長いリーチを生かした長距離砲、フリッカージャブを放つ。

 身体を半身に肩も入れ、その射程距離も延長している。

 素手同士なら通常の間合いより、拳三つ分は長い。

 有り得ない射程距離だった。


 正宗は倒れ込みそうな低い姿勢のまま、刀を突き出す。

 突進の加速を乗せて、両腕を伸ばす。

 そこを狙ったのは、一番近くだったからだ。

 少しでも早く、獲物を味わいたかったのだ。

 正宗の中の獣が、獣の一部である正宗が、その牙を刀を、獲物に突き立てる。

 そこには迷いも憐憫も何もない。

 ただ捕食するだけの、弱肉強食という自然の摂理事象だった。


 痛っ。

 フリッカーが正宗の顔面に届く前に、副主将は痛みを感じる。

 骨が何かにぶつかったような衝撃に、顔をしかめる。

 だが、気にしている暇はない。

 正宗の顔面は射程距離内だ。

 地面を滑るように、踏み込んだ足をスライドさせれば、拳に威力が宿る。

 足を滑らせようと、前に力を入れる。

 途端、足の力が抜けた。

 正確には膝だ。

 膝に力が入らない。

 踏み込み耐えれず、抜けた膝から崩れ始める。

 副主将は視線を下に向ける。

 踏み込んだ膝に刃が突き刺さっていた。


 正宗の切っ先が、副主将の膝を刺し、骨を突いた。

 骨の固さに反りの入った切っ先は、自然に軌道を変える。

 膝に沿って入り、周りの皮膚と肉と靱帯を切る。

 骨と筋肉をつなぐ結合部である靱帯が切断されたことにより、副主将の膝が抜けたのだ。

 いくら手が長かろうが、日本刀の長さは80センチはある。

 正宗と副主将の体格差を、十二分に埋める長さがあった。

 さらに正宗は、一番近い膝頭を突いた。

 打撃は、下半身の踏み込みが先行し、それに遅れることで上体がしなって、その威力が上がるのである。

 その上、ボクシングの技術は、膝頭への攻撃など想定してはいない。

 正宗が先を取ったのは、当然の結果であった。

 そもそも、素手で長ものの日本刀に挑むなど、

刃向かうという言葉どおり、無謀が過ぎたのだ。

 自分の膝に刃が突き刺さっている。

 傷口から、金属の嫌な感触が伝わってくる。

 注射の針の千倍ぐらいの、自分の人体への異物の挿入感が、副主将を襲う。

 上を向いた正宗と目が合う。

 嬉しそうな眼差しと、綻んだ口元に、副主将は悲鳴を抑えきれなかった。

「やめてくれー!!」

 懇願の絶叫を無視し、正宗は刃を引き抜いた。

 突き出ていた切っ先が、太股の大動脈を引っかける。

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