覚醒
ぼとり。
暴漢の腕が地面に落ちる。
正宗の抜いた真剣が、鋼の刃が肉を切り、骨を断ったのだ。
暴漢の叫びは続く。
腕を切断された痛みと喪失感に、泣き叫ぶ。
地面を転がり、のたうち回る。
血管の切断面から、大量の血が噴き出している。
それは切断時でも同様で、正宗の顔から胸にかけ、びっしりと返り血が浴びせられている。
腕の静脈を通ったそれは、ドス黒く、正宗の肌を染めている。
正宗の顔が歪む。
目にかかった血に、それを洗い流そうと涙腺が反応。
涙が溢れて流れる。
唇も血に染まっている。
温かいその味に、口角が上がる。
正宗は目で泣いて、口で笑っていた。
確かな肉と骨の手応えに、目覚めたそれは咆哮した。
理性も、勝利の勝ち鬨を上げる。
身体が熱い。
運動とは違う身体の熱さ。
息が荒くなっていった。
なのに肌寒いように、全身が鳥肌を立てている。
暴漢はいつの間にか沈んでいた。
失血のあまり気を失ったのだ。
「叔父さん」
立ち尽くす正宗は、懐かしい名を呼んだ。
付いた血糊が、切っ先から垂れる。
返り血を拭うことなく、そのまま正宗は放心した。
人一人の腕一本を切断したにも関わらず、吐き気はしなかった。




