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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
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殴り込み(カチコミ)

 警察は? ノン。事後処理の専門家だ。掛け合っている間に初動が遅れ、被害は防げない。

 両親は? ノン。こちらから連絡がつながった時がない。ユウヤが高熱を出したときも、折り返しさえなかった。ただ両親の手配で医者が派遣されてきたのが、有り難くも、さらに腹立たしかった。

 ただの中学生の自分に何ができるのか?

 オウマは必死で考え、即座に決断した。これしかない。覚悟を決める。

 お屋敷までは、ここから一直線だった。後は踏み込む勇気だけだった。

 ユウヤ。

 その中を呟くだけで、何かが宿る。

 目指すは登り坂の山頂。ブレーキを放し、気持ちを高ぶらせるためニュートラルに入れていたギアをドライブへと変速。

 オウマは一気に踏み込んだ。エンジンがうなりを上げ、車を急発進させる。空転したタイヤが道路のアスファルトを削り、噛み合うと同時、車体が猛スピードで初速した。

 目標ターゲットは御殿の正面の門。高い塀に囲まれた、お屋敷に車が突っ込めるのは、そこだけだった。

 三千立方センチメートル(CC)を超える排気量が、三トンを超える車体を秒速三十二メートルにまで瞬時に加速する。正門までは十秒とかからない。車が地対地ミサイルと化す。

 シートベルトオッケー、ハンドルは十時十分握りオッケー。背筋を伸ばし、座席に、お尻、腰、背中、肩、首、後頭部を預け、衝撃に備える。

 幸い、車の運転の心得があった。

 小学校高学年時は、国家三大田舎の一つに住んでいた。堤防で遊んでいた時に、近所の板金工場の修理工の、おいちゃんと知り合った。おいちゃんは器用で、板金には廃車も持ち込まれていたので、そこから手組スクラッチで自家製バギーを作り、堤防で無許可に走らせていた。

 何を思ったか、野球をしていると、そこに混ぜてくれと言ってきた。おいちゃんは野球も上手で、すぐに仲良くなった。腕が良いので直ぐに仕事が終わるので、いつも三時ぐらいからは暇とのことだった。そこから仲良くなるのに時間はかからなかった。バギーも乗せてくれたし、そこで運転も教えてくれた。大らかな田舎だった。

 車ミサイルの加速は、さらに増していく。秒速五十メートルを超え、急加速の加重にオウマの背中がシートに、べったり張り付く。

 車で屋敷に突っ込む。それがオウマの選択だった。

 騒ぎを大きくし、とにかく衆目を集める。ド派手な事故であれば、あるほど、消防、警察が駆けつけてくる。野次馬も同様だ。

 考えたのは、そこまでだった。そこまでで十分だ。時間は無いし、方法も少ない。後先を考えられるだけの余裕は無い。妹が893に拉致監禁されているのだ。正気でいられるはずがない。行動には狂気が十分だ。

 幸運なことに、家の車は、スポーツ用多目的車であるSUVスポーツ・ユーティリティ・ビーグルで車高も高く、FR(フロントエンジン・リアドライブ方式)なのでボンネットも長い。カンガルバーがついてないのでアウトドア用多目的車であるRVレクリエーショナル・ビーグルほどではないが、それでもセダンやミニバンよりは、特攻向きだ。

 突撃してくる不審な車に、正門の脇に立っていた門番が気付く。一人が懐から何かを取り出そうとするが、もう一人が制する。口から寒さに白い息が漏れている。

 噂は本当だったようだ。外で見られたら、銃刀法違反で捕まるのは本人だけだが、使用者責任が組長に、のし掛かる。近隣住民から賠償請求訴訟でも起こされたら、大事になる。その危険性を回避したかったようだ。

 その躊躇の分、反応が遅れる。中に何かを連絡を入れるのを、

 パーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

とクラクションを鳴らし続け、音量で妨害する。アクセルはずっとベタ踏みだ。自動変速オートマチックのギアが、最高速の六速に変速する。速度計は目盛りの最大の百八十キロメートルを振り切っている。警告音が鳴り響く。正門まで後二秒。

 門番一人が急いで飛び退く。残った一人、先ほど懐から何かを取り出そうとした一人が、今度こそ拳銃チャカを取り出す。腕を伸ばし肩越しに狙いを定め、銃口を向け発砲する。

 撃鉄が雷管を叩き、薬莢の火薬が発火、爆発する。その衝撃に薬莢内部から弾頭が押し出され、銃身内を通り、照門リア・サイトで正確に合わせられた照準に向かい、音速に近い速度で飛来していく。

 特攻車のフロントガラスの窓が、ひび割れる。鉛玉はオウマの眉間の位置を捉えてはいたが、貫通には至らなかった。

 8ミリメートルの弾丸は、時速二百キロメートルで突撃してくる対象を目的とはしていない。その質量エネルギーと風圧に威力を削られ、貫き通せなかったのだ。その威力は、ガラスにヒビを入れただけに留まる。だが効果は絶大だった。

 オウマの視界は奪われた。フロントガラスは安全上、粉々に砕ける設計となっている。事故時に乗員に突き刺さらないようにするためだ。

 そのため一点の衝撃でも、全体的にヒビ割れる。蜘蛛の巣状に亀裂が走り、その白い線が視界を塞ぐ。

 だが、オウマは怯まなかった。もとより妨害は想定済みだ。脳内に正門までのイメージを焼き付かせてある。目で見えなくても、脳内残像イメージを辿る。連続攻撃コンビネーションにおいては、目標物を目で追っているのも時間喪失ロスになるので、そのために使われる目切り(アイ・カッター)、脳内再生イメージ・プレイヤーの武技である。

 オウマはイメージを再生し、ハンドルを微調整する。視界は真っ白でも問題ない。ヒビなのか雪なのか分からないが、車は真っ直ぐに正門へと向かっている。

 狙撃手が飛び退く。車が登り坂の頂上でバウンドする。宙に浮かんだ三トンもの巨体が、木造の正門にぶち当たる。オウマはさらに身体をシートに押しつけ、衝突の瞬間にブレーキを踏み込んだ。全身を固め、特に鞭打ちで動けなくならないように、顎を引いて肩をすくめ、首回りを固める。バンパーが門扉に触れる。ハンドルを放し、両腕をおでこの前でのクロスさせ、衝撃に備える。ここからは運任せだ。

 オウマは幸運を祈った。幸運の女神を思い浮かべた。

 ユウヤ。

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