暴漢
真夜中の公園に人はいない。
昨日の暴風雨の影響で、地面には水たまりが残り、飛ばされた枝が転がっている。
街灯も、申し訳程度の明るさだ。
芝生の広さと樹木の多さで、日中は家族連れで賑わう公園。
逆に夜は、ひっそりと静まり返っている。
樹木の多さが照明からの死角を多く生んでいる。
また芝生は、広さを確保するため柱が邪魔となるため、照明の数も少ない。
暗い中では、開放空間は広すぎて、周囲の人を知覚できない。
いるのか、いないのか、近寄られても分からない。
暗闇は、人を不安にさせる。
人々は余程の理由でもないと、深夜に公園に足を踏み入れはしなかった。
公園に入って五分後、正宗は襲われた。
背後から突き飛ばされる。
ぼーっと歩いていたため、受け身も取れない。
芝生に、前のめりに倒される。
反射的に顔を背けたものの、運悪く側頭部を打ち付ける。
芝生に滲んだ泥と、転がっていた落ち葉が跳ねる。
目の奥に火花が散る。
視界を一瞬失った。
うつ伏せの身体を、肩を掴まれ、ひっくり返される。
正宗は、いつの間にか暴漢に馬乗りになられていた。
地面に組み伏せられていた。
咄嗟に悲鳴を上げようとする正宗を、慣れた暴漢は顔をひっぱたく。
容赦の無い平手が、正宗の顔を張る。
悲鳴に開けようとした口と下が、強制的に閉じられる。
舌を噛み、口の中が犬歯に切れる。
誰か。
叫ぼうとする正宗を、また暴漢は叩いて阻止する。
その手のひらで、正宗の口を押さえる。
逆の手のひらが、器用に正宗の両腕を頭上で縫いつけている。
暴漢は無言で、正宗の首筋に吹いつく。
酒臭さが、正宗の鼻をつく。
首筋に伝わる暴漢の舌のおぞましさに、正宗は悲鳴を上げて身を捩った。
んー!! んー!!
だが塞がれた口では、悲鳴はくぐもった音にしかならない。
また完全に馬乗りになられた状態では、女一人が身を捩ろうが男は跳ね返せない。
質量と体重を合わせれば、三倍は違うのだ。
暴漢はその体格に相応しく、膂力もあった。
頭上に片手で拘束された両腕は、ビクともしない。
正宗にできる抵抗は、少しの音と揺らす程度だった。
その間にも、正宗の身体が暴漢に蹂躙されていく。
押さえられた口元が外される。
「だ」
声がビンタで潰される。
潰している間に、暴漢は空いた手を胸元に引っかけ、引き下ろす。
セーラー服のホックが弾け飛び、インナーの肌着も引きちぎられる。
その伸縮性のため、スポーツブラは引きちぎられなかった。
だが強引な暴漢の手つきに、正宗の胸にはかき傷がつく。
「やめ」
容赦なく顔が二発張られる。
視界が涙で滲む。
頭もジンジンする。
溜まっていた疲れのためか、身体に力が入らない。
力が抜けていく。
その間に、暴漢はスポーツブラをたくし上げる。
正宗にしゃぶりつく。
誰にも触らせたこともない胸を、暴漢が弄ぶ。
純白を泥水が汚していく。
虫が肌を張ったようなおぞましさが、正宗を襲う。
背筋が凍り付き、身体が身震いする。
涙が止めどなく溢れてきた。
身体が動かない。
どうして私がこんな目に?
引き継ぎ下手な先輩に、察しの悪い副将に、出来の悪い後輩に苛立った天罰なのか?
真面目な正宗は、自身に理由を探していた。
だが、それは違う。
自分は自分一人だが、世界は自分以外でも出来ている。
むしろ自分以外の部分が大半だ。
自分が構成している部分など、限りなくゼロに近い。
無ではないが、空でしかない。
自分が全てを制御する、できる、しているなどは傲慢と言う言葉さえ苦笑ものだ。
だが、真面目な正宗にはそれが分からなかった。
真面目に一生懸命に、自分の周りを制御していく。
制御できなければ、それは自分の熱意、努力、行動、配慮が足りない。
その思い込みは、短期的には実力以上を発揮する原動力になるが、長期的には身を滅ぼしてしまう諸刃の剣なのだ。
正宗は自分を嘆いてしまう。
腫れ始めた頬を、涙が伝う。
抵抗を諦めた獲物に、暴漢はいつものように蹂躙していく。
胸を堪能した後、スカートに手を伸ばす。
裾から手を入れ、太股をなで上げる。
あっ。
そこで正宗は覚醒する。
遠くなっていた意識が目覚める。
今週は女の子週間だ。
今日は三日目。
昨日よりはマシだが、まだ量は多い。
恥ずかしさに、目を覚ます。
女の子同士でさえ、見られたくない。
羞恥心が心身を突き動かす。
暴漢は触るために、腰を浮かしている。
身体の距離が離れている。
絶対嫌ー!!
そこに膝を突き入れる。
膝頭が、下に降りていた暴漢の間に突き刺さる。
股間を捉える。
寝ころんだ状態からの、背筋も使わない、ただ足を上げただけだったが、それは効果的だった。
急所は、だからこその急所なのだ。
決して遊びでも打ってはいけない、致命傷となり、最悪は後遺症さえ残す危険な箇所。
それが急所であり、その一つの金的に正宗の膝が当たったのだ。
暴漢は小さく呻き、動きを止める。
覚醒した正宗は、咄嗟に動く。
昔よく遊んでくれた叔父さんの教えを、緊急事態に身体が勝手に実践する。
「正宗。剣を志すなら、まずは素手信仰は捨てろ。相手を倒すだけなら素手の方が気持ちが良いが、相手を効率的に排除するなら、武器を持て。剣も武器の一つだ。とにかく何か持って事に当たれ。困ったときは、何か持って相手の頭にぶつけろ。それで大体は何とかなる」
「はい、ししょう。でも、すでってなに?」
と師匠と弟子ごっこの教えを実践する。
頭上でぐったりしていた腕を動かす。
指先に何かが引っかかる。
それを掴んで、暴漢にぶつける。
金的攻撃に血の気が一瞬でひいた暴漢は、無防備にそれを受けてしまう。
次の瞬間、凄まじい絶叫が辺りに木霊した。
「ぎゃああああああああああー!!!」




