室伏
起こりを察知できただけで、正確に見えている訳ではない。
この辺りに打ってきたであろうという予感を頼りに、大ざっぱに広げた手のひらをぶん回す。
本来なら手刀の方が威力は高いが、視認無し(ブラインド)なので攻撃範囲の手のひらを選択する。
手の甲はだめだ。
以外に骨が脆いので、打撃接触に耐えられず、骨折する恐れがある。
広げた指先が、ジャブを引っかける。
風をなぎ払った手のひらが、その勢いのまま、パンチの軌道を逸らす。
手首を返し、小指側から腕を引っかける。
と同時、足も上体に合わせて送る。
180度回転し、くるりと後方に回る。
背中に四つの拳が迫る。
回った勢いのまま、掴んでいた腕に左手も添える。
掴む必要はない。
指先で引っかけた形を作る。
後は遠心力さえあれば良い。
「目線が」
回転の勢いのまま、腕を掴んだ一天をぶん回す。
フルスイング。
足首、膝、股関節、腰椎、胸椎の可動域をフルに使い、ふくらはぎ、太股、体幹の筋収縮を加速させる。
腕の力は使わない。
遠くに投げ飛ばす必要もなく、また人一人の重さに腕を使っては、そこで燃え尽きてしまう。
背後にまで振り回せれば、目的は果たせるのだ。
「切れちまった」
だがオウマは腕に渾身を力を入れた。
ムキになって、腕の力をフルに使う。
掴んで手が、一天の手首と前腕を内出血させる。
憤りがぶつけられた握力に、毛細血管が破裂し、指先が皮膚を突き破る。
ハンマー投げよろしくオウマが回転する。
捕まれた一天が振り回される。
腕が引っ張られ、上体が横に流れる。
横方向へのフルスイングに、たたらを踏む間も与えれず、直ぐに足下が地面から離れる。
身体が宙に浮く。
強引なフルスイングに、肘の腱が伸び、肩が抜ける。
うわあ!!
浮いた身体に悲鳴を上げるより早く、仲間を殴打させられる。
オウマの背中に拳が届く間近の二天を、太股横で強打する。
人一人の体重に、回転の遠心力が乗ったそれは、いとも簡単に人二人をなぎ払う。
「じゃねえか!!」
半回転したオウマは、掴んでいた一天を投げ捨てる。
三天はまとめて、袋小路の横のフェンスに叩き付けられる。
弾き飛ばされた二天が金網の弾性を越え、塑性にまで凹ませる。
少し遅れて投げ捨てられた一天が、二天に重なる。
金網がひしゃげる。
建物の壁なら即死ものだ。
三天は横がフェンスで命拾いをした。
ものの、人三人が飛ぶ衝撃に失神していた。
ひしゃげたフェンスを背に、ずるずると崩れ落ちている。
オウマは、直ぐに視線を戻した。
野郎の死骸?など確認している暇はない。
ポニーテールの揺れは治まっていた。
揺れない乳との対比の夢の時間は終わっていた。
ガッデム!!
失望感に地団駄を踏みそうになるのを、オウマは必死で堪えた。
自分の左手の甲を噛んで抑える。
これ以上、見逃すわけには行かない。
地団駄の時間さえ惜しい。
ポーニーテールを眺めるチャンスなど、明日にはないかも知れない。
悔しかー。
それでも抑えきれなかったオウマは、目線を向けたまま、地面を一つ踏んだ。
ドゴン。
軽い音を立て、踏まれた地面がべこりと凹む。
揺れと共に、土道がくるぶしまでめり込む。
三天は、投げ飛ばされて運が良かった。
足下に転がっていては、内蔵破裂までぺしゃんこにされていたかも知れない。
風が吹く。
止まっていたポニーテールが、さららさららと揺れた。
テールと散った花びらがコラボする。
輪になって踊る。
桜吹雪と黒髪テール、純和風で良い。
オウマの機嫌は瞬時に治った。
すっきりした首元は、
真紅が邪魔で見えねえ。
どけよ、真紅!!
憤怒の紋章が浮かんだ左を隠しながら、オウマは念を飛ばしていた。




