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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
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組織力

 分析官は、それらを委員長に伝える。

 暴力の嵐に、声が震えるのを抑えることができなかった。

 学院の秩序が瓦解したような、そんな不安に襲われていた。


 それを救ったのは、委員長の檄だった。

「風位委員全員に通達。ボクシング部員の安全を確保するため、拘束しろ!」

 正宗の強い声に、分析官の震えが止まる。

 反射的に背筋がピンと伸び、返事を返す。

 音声通信サウンド・オンリーで相手に見えなくても、敬礼を返す。

「サー、イエス、サー!」

 風紀委員は組織行動のため、軍事教練を教育課程カリキュラムに組み込んでいる。

 有事の際には、指揮系統の確保が絶対だ。

 強い上位下達トップダウンが無ければ、有事にはあらがえない。

 組織としての力を発揮できず、個々に削られていってしまう。

 正宗の檄は続く。

「濃紺の拘束、保護は厳禁。狩られているボクシング部の拘束、保護を優先しろ。絶対に、被害をこれ以上拡大させるな!!」

「サー、イエス、サー!!」

 分析官は、委員長の頼もしさに涙が出そうになった。

 委員長は、取り乱しもせず、冷静な指示を与えてくれる。

 そうだ、我々にはまだ委員長がいる。

 塚原正宗風紀委員長が、しっかり手綱を握ってくれている。

 仕切ってくれる。

 学院の平和は、崩壊などしてはいないのだ。

 分析官は、かけていたメガネを外して、目を制服の袖で拭う。

 その後、息を大きく吸い込み、長く吐き出す。

 自分を奮い立たせるため、もう一度正宗に強く敬礼した。

「サー、イエス、サー!!」

 風紀の心を取り戻す。

 各員に委員長からの指示を伝達していく。


 正宗の耳に、指示の伝達と、被害状況の報告が絶え間なく届いている。

 思わず、足を止めてしまう。

 多勢で追う側が、無勢に狩られている。

 無力化の方法もえぐい。

 手足の一本や二本を、笑いながら折るなど、そうそうできるものではない。

 あの男なら、私を受け入れてくれるかも知れない。

 期待に胸が騒ぐ。

 凛とした表情が崩れてしまいそうだ。

 正宗は、布袋に包まれた一本を握ることで何とかそれを自制していた。

 

 そこからの、風紀委員の活動は目を見張るものがあった。

 校内を駆け回るボクシング部を、次々に拘束・保護していった。

 騒乱罪を適用し、捕縛。

 副主将の厳命に、それでも逃げようとする者もいたが、助太刀の武力を利用し、逮捕していった。

 学院は広いが、ボクシング部の運動着は、遠くからでもよく目立つ。

 発見するのは容易く、また風紀委員は組織行動に長けていた。

 現場からの状況連絡係、

 それらをまとめる状況統合分析係、

 作戦指揮係。

と、役割が明確に分けられ、人員はその職務に専念することができた。

 また通信にしても、全員にヘッドセットが支給されており、専用チャネルを開けば、個対個でなく、音声通信の全体での共有も可能だった。

 さらには、ヘッドセットの携帯通信機には、GPS機能が搭載。

 状況統合分析係の執務室の六連モニターには、全員の位置情報の映し出されていた。

 現場状況は、今こうしている間にも、刻々と即時リアルタイムで動いていく。

 その流動体を、一元管理された音声と位置情報で高精度に捉えることが、風紀委員には可能だったからだ。

 単純な武力なら劣るかも知れないが、組織行動に関しては、風紀委員会が学院内で最強であった。


 結果的に、これがボクシング部を壊滅から救った。

 半数以上が手足も折られず、軽傷で風紀委員会に拘束されたからだ。

 手足を折られた三年生、二年生を尻目に、抜擢された一年生が値千金の金星をあげていくのは、また別のお話。


 ボクシング部の部員総数ー救護数ー拘束数=残るは七人もしくは八人。

 いや七人。

 副委員長が念のため、ボクシング部部室を訪れたところ、そこで主将に遭遇、現在事情聴取中。

 との報告がたった今入った。

 残るは七人。

 正宗は、袋小路に駆けつけた。

 袋小路の方向に、濃紺が真紅に追いかけられていた。

 そう通行人からの、目撃証言が入っていたからだ。

 追いかけられていた? それは違う。あの男は狩る側だ。そこに、罠に引き寄せたのだ。


 事実、オウマは廃材が雑多に転がる、袋小路を見つけるや否や、その出入り口で、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

 派手な動きに自分を見つけた、真紅を誘い込み、廃材で容赦なくぶっ叩いたのだ。


 正宗が袋小路の出入り口に、さしかかる。

 周囲は誰も近寄れないよう、封鎖済みだ。


「危険です、正宗様」

 分析官は、心配のあまり、委員長を名前で呼んでしまっていた。

 委員長、憧れの君は、あくまで凛々しく、そして雄々しく答えた。

「私は風紀委員長であり、また助太刀筆頭だ。刀自体でもあり、それを握る手でもある。風紀を預かり、刃を懐に宿す者として、今回の首謀者は、塚原正宗自らが斬る!!」

 か、か、か、か、か、か、格好良い!!

 分析官は痺れに痺れ、目が回りそうだった。

 分析官は、時代劇が好きだった。

 犯科帳のような捕り物が好きだったし、男装の女剣士など垂涎ものだった。

 だからこそ、風紀委員会に入ったのだ。

 倶楽部もやめ、学業を疎かになりながらも、風紀委員の活動に精を出した。

 すべては、女剣士のお側に使えるため。

 なかなかチャンスは無かったが、それでも諦めなかった、諦めきれなかった。

 自分の人生史上、この先に、ここまで理想型の女剣士が現れるとは、到底思えなかったからだ。

 必死にしがみつき、歯を食いしばった。

 できそうな彼氏とも、委員会活動を優先したため、初回デートから発展せず、消滅した。

 それでも、分析官に後悔は無い。

 少しずつでも、女剣士に接触する機会が増えていったからだ。

 女剣士を初めて見かけたは、中等部二年生。

 やっていた倶楽部も学習塾もやめ、風紀委員会に入った。

 苦節四年以上。

 思春期の一年は、大人の十年に相当する。

 長い長い道のりだった。

 三年生になり、分析官になった。

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