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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
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追う側と

 学院に不慣れな、土地勘のないオウマが追い詰められるのに、そう時間はかからなかった。

「絶対に手を出すな。クリンチで追い込め!!」

 副主将の絶対命令に、大勢は従った。

 だが、

 一年生それも転入生などナンボのモンよ。俺が一人でしとめてやる、

などと侮ったり、功に目が眩んだ主に二年生達が、それには従わなかった。

 無駄な犠牲となる。

 オウマはジャブへのカウンターの喉輪で、頸動脈をキュッキュキュッキュとしとめる。

 だが、直ぐにそれに飽き出した。

 そもそも、複数人がかりで襲ってくる連中だ。

 捕まっては、何をされるのかも分からない。

 素手で対処してやる必要もない。

 正当防衛と手加減などしていては、数に押し切られる。

 走って逃げるつもりだったが、学院内は広く、また建物が多く迷路に近かった。

 巨乳に見とれ、せっかくの房代の学院案内も不意になっていた。

 あの時、真剣に案内を聞いていれば、一直線に学院を出て、逃げ切られたかも知れない。

 などとオウマは思わなかった。

 巨乳のためにピンチ、それなら仕方がない。

 走り回ったあげくに、同じ所に三回出た時にさえ、オウマは後悔をしてはいなかった。

 逃げ切れる可能性は、少なく思えた。

「いたぞー、こっちだー!!」

 スポーツウェアがオウマを見つけ、仲間に叫ぶ。

 そもそも、なんで男に追いかけ回されなアカンねん!!

 切れてきた息に、酸素不足に苛々してくる。

 向こうは複数人で狩りの気分か、楽しそうな嬉しそうな加虐感にギラギラした笑顔を見せている。

 複数人は我が物顔で廊下を走り、こっちに迫ってくる。

「どけ、邪魔だ!」

 通行人を乱暴に押し退ける。

「きゃっ」

 急に押し飛ばされた女子生徒が悲鳴を上げる。

 地面に倒れ込む。

 キレイに肩から倒れ込んだので、大事には至らないようだが、下はコンクリートだった。

 下手に手を付けば、女の子の体重とはいえ、手首辺りのある細かい骨の骨折の可能性もある。

 また頭から倒れ込めば頭を打っている可能性もある。

 さらには倒れる方向が悪ければ、自転車置き場の屋根の柱に頭をぶつけた可能性もある。

 女子生徒は、たまたま倒れただけで済んだのだ。

 許せねえ。

 女の子を突き飛ばした、それだけでオウマには十分だった。

 逃げるのはもうやめだ。

 全員ぶちのめす!!

 決心するなり、オウマは側の自転車に駆け寄る。

 飛び乗って跨がる。

 好都合な事に無施錠だった。

 学院は広い。

 そのための公共自転車である。

「逃げるぞ、追えー!!」

 自転車のスタンドを外したオウマに、追っ手の叫びがかかる。

 誰が逃げるか、ボケー!!

 ペダルを踏み出し、急発進。

 右手の後輪ブレーキを引き、後輪をロック。

 ハンドルを急旋回させ、タイヤをアスファルトに滑らせる。

 180度ターンし、前輪を向ける。

 前カゴが真正面に、追っ手達に向く。

 ペダルを踏み込み、さらに急発進。

 自転車でひき殺す。

 

 自転車が躊躇いなく急加速してくる。

 追っ手達は、ボクシングで鍛えた反射神経で、何とか横に飛び退く。

 前方はそれで避けられたが、後方は前方が邪魔で見えにくかった分、反応が遅れる。

 そこに突き飛ばした追っ手がいた。

 オウマは左手の前輪ブレーキで前輪をロック。

 後輪が慣性に負け持ち上がる。

 それを腰のキレで、横殴りに滑らせる。

 自転車の後輪が、突き飛ばしに直撃する。

 吹っ飛ばされた突き飛ばしの背中が、屋根の柱に激突する。

 チッ。

 オウマは舌打ちする。

 頭を柱で炸裂させるはずが、失敗した。

 そのまま崩れていく突き飛ばしを背に、オウマは左右にちらばった前方を、容赦なくひいていった。

 はね飛ばすほどの質量が自転車にはないので、仕方なく一人一人ひいていった。

 同罪だー!!

 男一人の体重が線でかかれば、骨など簡単にへし折れた。

 ポキポキ、ポキポキ折れた。

 追っ手の被害が、手足の一本やアバラの二本やらの、骨折で済んだのは幸運だった。

 指では再起不能の後遺症が残りほどであり、また首や頭や顔などでは、致命傷になりかねなかった。

 それだけオウマは容赦が無かった。

 ぎゃははははははは。

 まるで角でも生えたような、皮膚を破って背中から翼が突き出たような、鬼のような悪魔のような魔王のような、高笑いを漏らしていた。

 ここから、狩る側が交代した。

 いや追うが狩るにシフトし、立場が逆転した。

 今まではボクシング部が追う側で、オウマが追われる側だっった。

 その目的は確保なだけであり、捕まえればそれで終わりだった。

 追うのは手段でしかなかった。

 だが、これからは違う。

 手段自体が目的になった。

 狩るのである。

 オウマが狩る側で、ボクシング部が狩られる側となった。

 狩るのは追うのとは違い、確保などしない。

 その場で、すべてを狩って刈るのである。

 誇りや希望、肉体や精神など命の全てを刈り取る。

 恐怖に逃げる追っ手を、背後からオウマは自転車で突き飛ばす。

「ゆ、許して下さい」

 涙ながらに命乞いする追っ手にも、オウマは容赦しない。

 逆にさっき俺が泣いたら見逃してくれたか?

 などとは言わず無言で、作業をこなす。

 倒れた相手をひいて、骨を折って行動不可能にする。

 効果的だが、明らかにやりすぎだった。


 通行人達は、暴力の匂いに直ぐに逃げ出していた。

 しかし不運な事に転倒した女子生徒は、少し逃逃げ遅れた。

 友達に腕をひかれ、逃げられたものの、遅れた時間で見てしまう。

 笑みを浮かべながら、自転車で人をひく悪魔の姿を。

 濃紺の悪魔ディープブルー・デーモン

 この後、しばらくの間、オウマはその名で囁かれることとなる。

 その夜、思春期まっただ中のその女子生徒は、夢の中に濃紺の悪魔を呼び出してしまう。

 夢の中で濃紺の悪魔に犯され、初めて生殖器を濡らしてしまったのは、また別のお話。

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