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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
31/62

代償(トレードオフ)

その後、正宗が退室。二人きりになり、妹の兄への愛のタガが外れる。今日は学び舎の保健室。いつもと違う状況シチュエーション、妹の鼻息は荒くなる。正宗と同じく眠っている隙に、兄に触れようとする。

 その寸前で、復元リ・トライ紋章エンブレムの力により、兄は蘇生、回復、目を覚ます。トランクスを鼻歌交じりに下ろそうとしていた妹と目が合う。

「お兄様の呼吸がとても苦しそうだったので、衣服を緩めようと」

「そ、そうか」

 復元の後遺症により、兄の直前の記憶は欠けてしまっている。その思考の混乱を突き、妹は兄を簡単に言いくるめる。兄は保管室での出来事を、すっかり喪失ロストしていた。正宗にされたことも、したことも、キレイさっぱり記憶を失っていた。紋章の力は万能ではない。身体の状態を戻すため、心も、その状態まで戻されてしまう。今回で言えば、保健室に運び込まれた時点まで、身心が再開リセットされてしまったのだ。

 衣服を緩めるどころのレベルではなく、兄はトランクスと靴下だけの姿だった。脱がされた制服を一枚ずつ身にまとう兄の姿を、妹は眼福する。脱がした時の逆再生、これはこれで、良い!!

「お兄様、帰りましょう」

 兄は靴を履いてベッドから立ち上がる。素早く妹はその横に並ぶ。

 自分を復元にまで追い込めるのは、妹だけだ。兄は手を軽く握り、それで妹を戒める。裏拳で妹の額を軽く叩く。

 こつん。

「あんまり学校で、悪ふざけ(おいた)しちゃダメだぞ」

 妹は額を押さえながら、上目遣いで頷く。

「あーい」

 妹は、復元直後の兄も大好きだった。再開の影響か、なぜか普段の肉食系野獣オラオラなりを潜め、草食系紳士ジェントルと化す。これはこれも、良い!

 腕を組む。兄の二の腕に頬ずりする。

「ユウヤは甘えただなあ」

 掴んだ腕の逆の手が、頭をポンポンしてくれる。オラオラの時には有り得ない。腕を組むことさえ許されない。なのにジェントルの時は、甘えたい放題だった。

「だってぇ、ユウヤのたった一人のお兄ちゃんだもん。甘えちゃダメ?」

 妹の猫撫で声に、兄はさらなる微笑む。口を閉じたままの歯を見せない笑顔だ。繊細な笑み、これもこれは良い!!

「しょうがないなあ。けどユウヤももう高校一年生なんだから、兄離れしないといけないぞ」

「もう少し大人になったらね」

 妹は腕に頭を預ける。二人はそのままの姿勢で帰って行く。

 兄を溺愛した妹。愛し愛されて生きる兄妹。

 そんな事情は初見には分からない。妹は異性も同性も振り返る容姿とスタイル。表情もすごく嬉しそうだ。夏の太陽のような陽気さに溢れ、見る者全てを魅了する。心を癒す。ずっと見ていたい衝動に駆り立てる。

 妹の魅力の分だけ、その反動が大きい。

 容姿、スタイル、笑顔を全て独占している、隣の男性は何者か? なぜ自分ではないのか? あそこに並ぶべきは自分の方が相応しいのではないか?

 衆人の黒い感情を呼び覚ます。兄のカルマは知らない内に測定不能カンストだ。常人なら、百万回は死んでいるのかも知れない。


 翌日。午前は講堂での倶楽部紹介。午後から倶楽部勧誘が解禁された。運動場、体育館、音楽室、美術室、理科室、茶道室などの各部活動の拠点で、実際の活動内容が披露されていた。

 オウマは相棒バディ、いや今日初対面にそこまでの絆は無いので、二人一組ツーマンセルで、ここ第二体育館に来ていた。収容人千二百人の館内には、人がごった返している。中央に設置された舞台上で、各倶楽部が実技を披露している。

 ピッ。

「以上、少林寺拳法部による演舞披露でした。次は薙刀部による演舞披露です。薙刀部の皆様は、直ぐに準備に取りかかって下さい」

 昨日宜しくランチ・ミーティングで紹介された相方が、テキパキと場を取り仕切っている。

「皇眞君は、まずは学校に慣れた方が良いな。今日は房代に付いてくれ」

 正宗はそう言って、自分は他の用事があると直ぐに退室していった。体育館などの共用施設の使用は、部活連に任せると揉めることが多い。そのため第三者である風紀委員会が、所感しているとのこと。今日のお披露目の順番、時間予定タイム・スケジュールも風紀委員会が決定している。そのため司会・進行役として、二人が派遣されたのだ。

「初等部一年生の黒田房代です。織田皇眞さんですよね。入学二日目にして二回も保健室に運ばれるなんて、虚弱体質なんですか? でも、そうは見えないなあ。背丈もこんなに大きいし」

 幼い母性ロリータ・マザーこと黒田房代は、そう言ってピョンピョン跳ねた。

 オウマに比べ、頭一つ以上小さいその背丈。バネの小ささ故か、ジャンプはオウマの目線にまで届かない。口元辺りで跳ねている。

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