焦らし最高の調味料(スパイス)
「ここか?」
正宗の質問に、オウマは顔を歪めたまま首を振る。
「もう、少し、下です」
その言葉を信じ、正宗の手が下がる。張り付けた右手の親指が、臍にかかる。オウマの顔が少し緩んだ。どうやら癪は鳩尾の胃でなく、お臍辺りの小腸、大腸のようだ。
「先輩、ありがとう、ございます」
苦しい中、オウマは声を出す。
「でも、もうちょっと下です」
感謝の後に即座に要求を畳み込む。感謝されるという喜びに、要求が飲み込まれる。人は感謝されながら頼まれると、断りにくいものなのだ。そんな心理的仕掛け(トリック)で、オウマは正宗を崩していく。
「こうか」
正宗の手が下がる。イエス、イエス、イエス。臍の真上に手のひらが乗る。親指が下腹部にかかる。最終到達地点は、もうすぐだ。ここまで来れば後は時間の問題だった。
「正宗先輩、もう少し、下です」
「お腹が痛いのか?」
正宗の問いに、オウマは黙って頷く。
これ以上手を下げれば、親指が股間にかかってしまう。幸いトランクスは、ずり落ちているので
殿方の下着を下げる、殿方の下着の中に手を入れる、のは避けられる、だが。
正宗は一瞬迷うも、頭を振って邪念を追い出す。
大丈夫だ、塚原正宗。これは医療行為だ。断じて、不純異性交遊などではない。
意を決し、手を下げていく。親指が股間、下の毛に触れるか触れないかの位置で停止する。
もう、スッゲーじらすやん。
オウマの鼻息が荒くなる。学校の保健室で二人きり。ポニーテール美人が、自分の下腹部をさすっている。ムクムクを、肛門を締め、下っ腹に力を入れることで抑える。だが、この亀の歩みのような、焦らし感がヤバい。自身に触れられただけで、暴発しそうだ。
どうする? どうする? 織田皇眞。俺の全知全能の頭脳よ。閃け。
苦しげな演技を続けながら、オウマの頭は全力回転する。
暴発して、繊細モードで母性本能を擽るか。もしくは、豹変して肉食系モードで押し倒してガンガン行くか。
などと考えみたものの、その回転は直ぐに終わる。
とにかく、何が何でも、今すぐに、触って欲しい。
その衝動が思考など許さない。後は野となれ、山となれだ。




