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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
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人が多いと話しが進まない問題

 汚れ役は自分の仕事だ。美子様に嫌われた。これ以上、嫌われたくない。副会長は、虚ろな目で責務を果たす。

「慣例では、試験の首席と次席が、生徒会の庶務に任命されます。今回の場合は、優弥さんと香織さんの、お二人になります。それに会長推薦枠で、お一人が生徒会入りするのも、通例となっております。そのため、織田皇眞さんの生徒会入りも可能であります」

 副会長の力ない声とは対象的に、ユウヤが弾んだ声を出す。

「お兄様、生徒会でもご一緒できて、ユウヤは幸せ者です」

 抱きつこうとする妹を兄は、手で制する。飛び込んできた顔面を掴み、止める。

「ぬあにをしゅるんでしゅか、おひいさま」

 妹は顔面がつぶれ変顔になっても、前に進もうと手をバタババタともがいている。

 副会長が美子をちらりと見る。美子は頷き、それを承認する。美子様が微笑んでくれた。副会長の声に少し元気が戻る。

「なのですが、一つ問題があります。これは極秘情報ですので、この場だけの内密にお願いします。織田皇眞さんの入学試験結果についてですが、順位は最」

 副会長のちら見に、美子がもう一度頷く。副会長は言葉を続ける。美子様の心痛な、お顔もス・テ・キ。

「下位から二番目ブービーとなっております」

「ギャハハハハ、俺よりアホなんて、そいつ、真正のアホだな、ぷぎゃほ!」

 笑い出した兄のわき腹に、妹の肘打ちが突き刺さる。昨日殴られたパンチより、痛い。

 副会長は天を仰ぐ。美子も会計も書記も、事情を知る者全てが、明後日の方向を向く。

 そんなアホは、いないんですよ。織田皇眞くん。

 最下位から二番目は、生徒会の優しさだった。オウマの現実の成績はダントツでビリだった。合格最低点だった。順位を付けると言うことは、陽に当たる上位の反面、闇に沈む下位がいると言うことだ。一位が存在する反面、必ず最下位も存在する。残酷な分類カテゴライズなのだ。

 会計が具体的な数値を提出する。

「玲瓏学院高等部の進級率は、99.7%以上ですが、100%では有りません。毎年十名ほどの不進級者が存在します。その構成は、試験成績が昇順の成績者からとなっています」

 副会長に言葉が戻る。

「そのため、進級できない可能性の高い方を、生徒会入りさせるのは、少々問題となっております」

 生徒会入り拒否の宣告に、妹は即座に反論する。兄を弁護する。

「お兄様は、これから何です。伸び代がいっぱいあります。ですから、そこを何とかお願いします」

 と言いつつも、勉強を教えた経験から、妹は兄に勉学の感性センスを感じなかった。高校からは科目は増える。対策を講じなければ、落第する可能性も否定できなかった。

 話の当人は、レギンスを履いていない書記の生肌を楽しんでいた。その書記が突然手を挙げる。

「美子様、提案があります」

「どうぞ、聖良せいらさん」

 書記の挙手に、会長が発言を許可する。書記に向けられた微笑みに、副会長は嫉妬する。

 あー、セイラ、ずるいずるい。抜け駆け禁止。「事件の報告ですが、昨日織田皇眞さんは、入学式典前に、ボクシング部員から暴行を受けました。風紀委員長、塚原正宗さんのご活躍により、族は無力化、拘束されました。ここまでが事件の概要です」

 生徒会は風紀委員会から、事件があれば逐一報告を受ける事になっている。

「ここからが本題ですが、事件の後処理を行った風紀委員の報告書によると、加害者のボクシング部員は複数人で、被害者の織田皇眞さんを暴行。固い革靴での蹴りを十三発、被害者に加えております。これは昨昼、加害者立ち会いの元で行われた現場検証による、正確な数値です。あっ、すみません。この後が本題でした」

 聖良は舌を出す。美子は微笑みを深める。

「聖良いいのよ。続けて」

「はい」

 はにかんだ返事を返す書記に、副会長の拳が震える。こいつは自分が美子様に比べ、一学年下なのを良い事に、ドジっ子キャラを演じやがる。

 会長と同学年のため、それを使えない副会長はワナワナが止まらない。副会長にだけ見えるように舌を出し、書記は話を続ける。

「そのような激しい暴行を受けたにも関わらず、

被害者は本日お弁当を三人前も平らげるほどに、回復しております。それが類希なる守備力か、防御力か、回復力かは分かりませんが、この事実からとにかく頑丈であると判断致します」

 守備、防御、回復、頑丈、なるほど。

 書記の狙いを理解した会長は、身を乗り出して話を促す。

「そのココロは?」

「織田皇眞さんを、風紀委員への登用、もしくはその助太刀への任用を推挙してはどうでしょうか?」

 書記の発案に、会長は立ち上がって身を乗り出した。綺麗指で、書記を示す。

「それよ、それ。聖良、感心着想ナイスアイディア

 会長直々の褒め言葉に、書記は胸高々だ。エッヘンと胸を張っている。

 会長は席を立ち上がり、座る書記に近付いた。

「聖良は、いつも的確な適材適所ポジショニングをしてくれるわね。ありがとう。ちゅっ」

 会長が少し屈んで、座ったままの書記の頭を抱き抱える。首筋への接吻キスに、書記の顔が真っ赤に、のぼせ上がる。

「いえ、美子様そんな」

 恥じらいと共に、書記の息づかいが荒くなる。副会長は、以下略。

 エロイ!!

 エロスに関してはマサイ族にも勝るとも劣らない視力を発揮するオウマ。その目は、首筋から引いた唇の糸を見逃しはしなかった。

 自席に戻った会長が、目を見開いたままのオウマに微笑む。

「と言う訳で、皇眞さんには、助太刀になって頂いて宜しいかしら?」

 助太刀? 時代劇でしか聞いた事のない語句キーワードに、ユウヤが挙手する。

「はい、美子さん」

 様を付けろ、様を、とは副会長。

「はい、なんでしょう、優弥さん」

「質問がございます。助太刀とは何なので、ございましょうか?」

 助太刀。それは玲瓏学院独特の、風紀基盤チアン・インフラである。

 玲瓏学院の治安維持は、生徒主体で行われている。警察機構に値するのが、塚原正宗を筆頭とした風紀委員会なのである。警察組織よろしく、構内に限定された捜査、逮捕、事情聴取、現場検証、罰則の権利を有している。

 無論、玲瓏学院が所在する、この人工島にも警察組織は存在する。

 だが玲瓏学院の生徒数は多く、その分事件数も多い。そのため、できるだけ校内の揉め事は校内で解決して欲しいとの人工島警察の本音が有り、それと、生徒の自主的な規律性と自浄能力を育みたいとの学院の思想が合致した結果、風紀委員会に強権が与えられたのである。学院の理事に警察組織の幹部が名を連ねているのも、その実現理由となっている。

 風紀委員の仕事は、学生数に対して委員数が絶対的に足りないため、基本的には見回り(パトロール)となる。校内を巡回し、問題を発見すれば、問題行動を取る学生に直接注意するのが、主な仕事だ。

 だが、注意で済めば問題は無いのだが、世の中には口で言っても分からない輩が少なからず存在する。

 注意無効の場合には、武力行使が風紀委員には許可されてはいるが、暴徒鎮圧には如何いかんせん数が足りない。また、自身が規則を守るのを主な得意とし、他人には言葉での注意を得意とした風紀委員が構成数を多く占めている。そのような性格だからこそ、あえて風紀委員になっているのではあるが。

 そのため、武力行使という荒事の、暴力的な匂いを得手としている風紀委員は数少ないのである。そのように手数、武力が足りない場合には、それらを得意とする格闘系の倶楽部への支援要請が認められている。

 それが、助太刀、なのであった。

 書記から会長を取り戻すべく、副会長が長い説明を終えた。今度は自分の番かも知れない。期待に胸がドキドキする。

「模範的な働き振りなら、風紀委員への登用もあるから安心してね」

 会長はオウマに微笑んでいた。しょぼーん。


 良し、頃合いだ。

「話は外で聞かせて貰った!」

 そこに乱入者が現れた。ドアを乱暴に開け、ずかずかと生徒会執務室に入ってくる。竹刀を肩に担いだ、風紀委員会委員長、塚原正宗である。

「むねちゃん、お帰り」

「只今。って、その呼称で呼ぶな。恥ずかしい」

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